瀬尾まいこ「そして、バトンは渡された」(2018年、文藝春秋)を読んだ。


瀬尾まいこの代表作で、2019年に本屋大賞、2021年に映画化された。


先に永野芽郁主演の映画を観てしまっていたので、原作を読むのにちょっと抵抗があった。永野芽郁と石原さとみの印象が強過ぎて躊躇したのだ。やはり映画とは当然ながら違っていた。


「うん。女の子は笑ってれば三わり増しかわいく見えるし、どんな相手にでも微笑んでいれば好かれる。人に好かれるのは大事なことだよ。楽しいときは思いっきり、しんどいときもそれなりに笑っておかなきゃ」...p58、(梨花さんの言葉)


「短大を卒業し栄養士の資格を取った私が就職したのは、山本食堂という小さな家庭料理の店だ。高齢者用の宅配弁当も行っていて、その献立を考えるのが仕事内容。」...p288


主人公は優子。水戸→田中→泉ケ原→森宮と、血の繋がらない親をリレーされてきた。


普通常識で考えるとはちゃめちゃな筋の設定であるが説明的にならずテンポよく進んでゆくので息つくヒマもなく読んでしまった。


梨花さん(実の父親の再婚相手)は魅力的な女性だが離婚して結婚を繰り返す奔放な性格の持ち主で優子や周りのひとを振り回しているように見られていたが、じつは病気(病名は書かれないがたぶんがん)で優子の幸せを一番考えての行動であったことがわかる。


優子は高校の合唱祭で2組の課題曲「ひとつの朝」のピアノ伴奏をする。中学3年間ピアノを習っていたのだ。ピアノが縁で早瀬君と出会い恋人から結婚へと発展してゆくのだ。結婚に反対していた森宮さんを説き伏せたのも結局は音楽だった。音楽の力は偉大だ。


優子と森宮さんとのユーモアあふれるちょっとちぐはぐな会話も血の繋がらない親子の気遣いとかもあふれていて魅力的である。


小説は心理描写が詳しく描かれているので映画とはまた違った感動が得られる。


瀬尾まいこ「そして、バトンは渡された」(文藝春秋)。