瀬尾まいこ「あと少し、もう少し」(2012年、新潮社)を読んだ。


中学校駅伝の県ブロック大会を描いた作品である。印象的な文章に付箋を貼っていったら28枚になった。すごい。


中学校駅伝の男子は6人で18キロを走る。県を6つの地域に分けてブロック大会をやり、上位6校が県大会に出場できる。


市野中学校は18年連続で県大会に出ている。ブロックで5位とか6位であるが、それを途絶えさせる訳にはいかない、という前提条件。


ところが鬼のような神のような体育教師の満田先生が異動になった。新任の陸上部顧問は女性の美術担当の上原先生になった。


市野中学校はブロックの中でも山深い田舎で生徒数も少ない。駅伝に参加できるのは陸上部で3人、あと3人はメンバーを集めなくてはならない。


さあてどうする、というところから物語は始まる。作者は1区から6区までの走者ごとに物語を進める。会話が重複する部分も多々出てくるが過去のエピソードや別々の心理面を描いていく。


(まず上原先生)

二十代後半、どんくさそうでとろそうでひょろひょろしている。陸上のことはわからない、スポーツは苦手、顧問をする力も足りない、と挨拶で言う。いつもおろおろしている。ストップウォッチの扱いも下手くそ、自転車ひとつまともに乗れない。声掛けのレパートリーは「がんばれ」「ファイト」「あと少し」だけ。だがブロック大会当日の朝、部長が決めた5区と6区のエントリーを変更した。私が陸上部顧問で監督だから部長より権限があると言い放ち。


(1区)

設楽亀吉。 亀吉はおじいちゃんがつけた名前。身体は無駄にでかいが声は小さくしゃべればどもる。いじめられやすいタイプ。小学ニ年の時の全校レクリエーションで鬼ごっこした時必死で逃げて逃げきった(鬼であった大田が実感している)。桝井に誘われて入部。入ってなかったら今ごろパソコン部。6位でタスキをつなぐ。


(2区)

大田 (大田だけ下の名前が書かれていない)

金髪に染め、煙草を吸い、眉を剃っている、授業はサボる、協調性のかけらもない。桝井部長が最初に勧誘したのが大田。土下座する勢いで熱心に説得する。大田は自分で落ちるのを止めようにも歯止めがかからない。俺なんかが必要とされるのはこれが最後かも知れない、と駅伝に参加。駅伝のメンバーは大田を避けなかった。ケンカ早さがそのまま吐き出たようなパワハラな走り。6位から2位まで上げて襷を渡す。


(3区)

みんなはジロ―と呼ぶ。仲田真二郎。「頼まれたら断るな」が母の教え。生徒会書記、クラスでは学級委員、バスケ部ではキャプテン。駅伝も強引に頼まれて引き受けた。3番目の勧誘者でこれでメンバーがそろった。お調子者で周りの者を明るくする。厶ードメーカー。みんなとはタイムは劣る。母親は学校行事が大好きで大量の差し入れを持ってくる。2位から11位まで順位を落とす。


(4区)

渡部孝一

カゥ゙ァレリア・ルスティカーナ間奏曲をサックスで吹奏楽の練習をしている。そこへ桝井部長と俊介が日参して駅伝に参加の勧誘。上原先生も勧誘に。2番目の勧誘者。理屈が多く気取って変わり者に見られている。7歳の時両親が離婚。小学校二年からおばあちゃんの家で二人暮らし。弁当もおばあちゃんが豪華なのを作ってくれる。家庭事情を悟られたくなくて神経質にガードを張っている。センスが良くて走りは速い。11位から4位まで順位を上げる。


(5区)

河合俊介

入学時に陸上部を見学に行って桝井先輩の走りに憧れて入部。人懐っこい笑顔。桝井先輩を慕い何かと助ける。4位から8位まで落とす。


(6区)

桝井日向(ひなた)

陸上部部長。母はヤクルト販売。5つ歳下の弟は病弱で喘息もち。小学校では少年野球チームに入っていた。顧問が代わり何かと気を使いチームをまとめていく。責任感が強い。最後の最後になってスポーツ性貧血になってしまう。これで終わりにしたくないみんなとまだ走りたいと最後の力を振り絞る。


瀬尾まいこ「あと少し、もう少し」(新潮社)。

山深い田舎。

自転車ひとつまともに乗れない。

はたして県大会には行けたのだろうか。