天国からの遣い⋯だと
勝手に思っている猫たちは

まだ中庭にいて
暖かな春を待ちわびている。

玄関のドアの音が
聞こえると、
ガラスサッシに
出迎えのY字型のび。

目を閉じて
鼻をスンスンするのは
近所の寿司屋の魚を
嗅ぎとっているとき。



見えなくなった人を想い

聞こえないけど、
耳に残っている声を想う。

五感以外の情報で
生きていけるのは
人だけなんじゃないの?
⋯と誰かが言っていた。

3月の寒空の下の
冷たい肉球。

まだ見ぬ季節を
猫たちは待たず。



春なんざ、
春なんざあ⋯

きてほしくもないやと
つぶやいてみたけれど、

少しづつ
暖かくなる日々は
どうしようもなく
ありがたい。