3月の猫 | もうすこし

天国からの遣い⋯だと
勝手に思っている猫たちは
まだ中庭にいて
暖かな春を待ちわびている。
玄関のドアの音が
聞こえると、
ガラスサッシに
出迎えのY字型のび。
目を閉じて
鼻をスンスンするのは
近所の寿司屋の魚を
嗅ぎとっているとき。
◇
見えなくなった人を想い
聞こえないけど、
耳に残っている声を想う。
五感以外の情報で
生きていけるのは
人だけなんじゃないの?
⋯と誰かが言っていた。
3月の寒空の下の
冷たい肉球。
まだ見ぬ季節を
猫たちは待たず。
◇
春なんざ、
春なんざあ⋯
きてほしくもないやと
つぶやいてみたけれど、
少しづつ
暖かくなる日々は
どうしようもなく
ありがたい。

