ボクは、孫の一人の「ワックン」の自動車での送りを頼まれた。
もちろん、彼の母であり、ボクの次女である「ジージョ」に、だ。
「くれぐれも、気を付けて! 時間に遅れ無いようにね!」
との、ことだ。
妻とジージョは、ちょっと寄り道をして、買い物をしてから、ボクのいく量販店に合流するらしい。
彼は今、夏休み中で、バイトに精を出している。送り先は、その量販店の「エルカディ」だ。
それは街なかにある。家からは少し離れている。
「もう、バイトは慣れた?」
ボクは、ルームミラーに映る、後部座席のワックンに話しかけた。
ワックンは、狭い車内で、その長身を窮屈そうに、折り曲げて、座っている。
ボクのクルマはワゴンタイプだが、ケイ(軽自動車)なのだ。
「ウン、まあ、何とか.....」
と、ワックンは応えるた。
「まあ、何事も経験だから、楽しんで.....バイトはあくまでバイトだから、ムキになって、頑張り過ぎる必要はない。」
と、ボクは彼に軽いアドバイスを贈る。
「ggは若い時、僕ぐらいの時に、バイトの経験はあるの?」
と、ワックンは訊く。
「あるよ、.....でも、そのハナシはブログで.....長くなるから.....またいつかネ.....」
と、ボクはルームミラーに映るワックンに答えた。
そして、心の中でつぶやいた。
(そうだよ、ワックン.....ボクのハナシは長くなる。〈ボクんちの寅さん〉である〈いっちゃん〉のハナシも、まだ完結してない.....ボクのハナシは、まだ始まったばかりだ。)
ボクは、「安全運転」に配慮しつつも、少しだけ、アクセルペダルを踏み込んだ。
(だって、バイトの時間に遅れたらマズイじゃん.....)
「エルカディ」まで、もう少しだ。
国道を走って、バイパスに入り、そこから旧道に曲がって、市街地に向かうのだ。
国道と旧道を繋ぐバイパスには、〈ナンキンハゼノキ〉が、整然と植えられている。
少しだけ微かに色づいてはいるが、紅葉と呼ぶには、まだ時期尚早だ。
今年の夏は暑過ぎた.....全国的にだけど.....
野山が色づくのが、少々遅れてる。
ボクは、バイパスを通り抜けて、ステアリングを軽やかに右に切った。