(Amazonより)

 

 

とても重いテーマを扱っている今作、衝撃度はヘビー級でした。

観たあと何日かは上がって来れませんので、健康な時に観た方がいいと思います。

タイトルは日本で起きた事件に影響を受けているとのこと、

「ああ、あれか…」 と分かりますね。

この映画に書かれているのは少年犯罪者の 「その後」 です。

刑期を終えた後には、成人犯罪者よりもずっとずっと長い人生が待っているわけです。

ちゃんと社会復帰ができた人はどれくらいいるでしょう?

答えを求めても仕方のないことですが…

 

 

未成年による事件、実のところ日本ではそんなに発生率が高いわけではありません。

しかし特に問題となっているのは、日本だけの理由があるからです。

10年ほど前までは、子どもが大人の犯罪率のなんと4倍以上になっていました。

他国より未成年の占める割合がダントツに多いということです。

大人の不正が隠匿されてきたから分からないだけなのか。

近年は少なくなってきた感がありますが、

これは落ち着いたとみていいのか、少子化の影響なのか。

でもそんな社会問題はとりあえず置いておいて、ちょっと考えてみてください。

あなたの横にかつての少年Aがいたらどうしますか?

 

 

監督は 「ブルックリン」ジョン・クローリー です。

なんといっても主演の アンドリュー・ガーフィールド に心をグッと鷲掴みにされます。

この少年A以外の何者でもないほど見事になり切っています。

今までも彼の作品は観ていただけに驚きました。

ギュッと抱きしめて頭を撫でたくなります。

頭がすっごく小さいですけどね!

何頭身でしょうか…横に並ぶとツラそうです。w

 

 

【登場人物】

ジャック・バリッジ (エリック・ウィルソン)…… アンドリュー・ガーフィールド。刑期を終えた 少年A。名前を変え働き口も見つけ、1人で暮らし始める。

テリー…… ピーター・ミュラン。 ジャックの保護監察官で、彼の一番の理解者であり  常に見守り支えていく。

ミシェル…… ケイティー・ライオンズ。一見軽そうに見えたが、意外とジャックと真面目に向き合っていた。

クリス…… ショーン・エヴァンス、前科者と聞いても、変わらずに友情を示してくれた同僚…ではあったのだが。

テリーの息子……母親側に引き取られ、やる気の感じられない少年。

フィリップ……かつて共に事件を起こした親友であり悪友?服役中に亡くなったようだ。

 

 

ここからネタバレ

 

 

(giphy.comより)

 

 

「何だか夢みたい。新しい名前を決めるんだね」

その青年は恥ずかしそうに目を輝かせ、プレゼントの靴に顔をほころばせる。

ジャック・バリッジと名乗ることになった彼は、どうやら保釈になったばかり。

もういい大人だというのに、まるで今生まれたばかりの赤ん坊か幼児のようだ。

初めて見る街の中は目新しいものばかり。

「君の新しい経歴を頭に叩き込め、いろいろ経験した方がいい」

テリーは彼をあちこちに連れていこうとするが、なぜかジャックはある墓に行きたがる。

時折挿入される、足がぶら下がっている不吉な映像は?

 

 

教室でボーッとしている少年… エリック・ウィルソン。

これが10年以上前のジャック、教師には見放され、同級生にはノロマと罵られていた。

彼の父親は高圧的で、母親は病気のせいか殴られた息子にも見向きもしない。

そんな時に話しかけてきたのが唯一の親友フィリップだ。

ジャックは親友の死に引っかかっていることがあった。

テリーは自殺したフィリップと違い、君は生きていくんだと。

「過去は振り返らず未来に生きるんだ」

 

 

ジャックは運送会社に就くことができた。

「君は前科があるそうだな、しかし人はやり直せる」

上司も追及はせず理解を示し、同い年くらいのクリスとペアを組むことになった。

順調な現在と並行して過去が語られていく…きっとこれは

犯罪の起きた瞬間まで続いていくのだと思わせます。

その頃エリック (ジャック) がいじめっ子に絡まれると

フィリップがコテンパンに、倒れた相手にも徹底して攻撃の手を緩めない。

そんな友だちの様子を見て、なぜか気分が良くなってくるエリックだった。

 

 

(rottentomatoes.comより)

 

 

新聞にはこんな記事が載っていた…

「悪魔の少年、保釈に」 これは自分のことか?

過去がだんだんと絡みついてくる…

「君は幸せになる資格があるんだ、あんな新聞記事気にするな」

そんなジャックをテリーは励ます。

テリーの家には、別れて母方に引き取られた息子が訪ねて来ていた。

今までの関係を修復したいと言われ、テリーは喜び一緒に住むことになった。

対するもう一つの親子… 「僕を連れて行かせないで!」

エリックが親にすがりつき、泣き叫ぶ過去……

 

 

受付のミシェルに親しげに声かけられても、ジャックは何と言っていいかわからない。

経験があまりないからだろうが、微笑ましい。

クリスにもせっつかれ、彼女とまんざらでもなくなってきた。

慣れてない酒やチョイとしたクスリにも弱く、すぐハイになる。

簡単に 「君を愛してる、こんな気持ちは初めてだ」 なんて言っちゃうし。

「ラリってるの?正気の時に会いましょう」

ホントなのにそう言われてしまった。

この後酔って踊るシーンが不思議とダサカッコいい!

 

 

(tumblr.comより)

 

 

彼を見てると 「初めてのおつかい」 みたいな気分になりますね。

ずっとあたたかく見守ってあげたい感が…

しかし友だちのクリスがヤカラに絡まれると、猛烈な反撃で全く手加減ナシ。

この辺は過去を彷彿とさせる。

保釈された彼が住んでいると間違われ、ある家が放火されたというニュースが。

そこまで世間に憎まれているとは、どんな酷い事件を起こしたというのか?

観ているとわからなくなってくる、本当に同一人物のしわざか?

私はずっとそう思っていた、いや思わされた…

きっとわけがあるに違いないと。

 

 

ミシェルを思いきって誘い、うまくいった時の満面の笑顔は本当に純でカワイイ。

ためらうジャックに彼女は言う。

「あなたが好きだから、ではダメ?」 2人はベッドへ。

初体験みたいなもので上手くいかなかったようだが

ミシェルはそんなことは大したことじゃない、大丈夫だと言う。

しかし過去は執拗に絡みついて来ていた。

「10歳の少女を惨殺した少年A」

……今見ているこの少年が?!

 

 

(cinemacurmudgeon.comより)

 

 

クリスといつもの配達中、崖下に転落した車の中に少女がいるのを発見する。

ジャックが一生懸命抱きかかえて救い出し、彼らは功績を讃えられる。

「お前はいいヤツだ、パーティの時も真っ先に助けに来てくれた。

もしも困ったことが起きたら俺がいる」

クリスはしみじみとジャックに話す。

フィリップにもそんな風に言われたことがあった…

「お前は最高の相棒だよ」

彼の家庭環境は最悪で、なんと兄貴に何度も性的虐待を受けていた。

「ヤられる時は目をつぶり、俺は念じる。部屋の扉が遠くから何百も閉まっていき

最後の扉が閉まるまで泣かなかったら……二度と泣かない」

 

 

 

ジャックは先日の表彰で新聞の取材を受け、写真に撮られてしまった。

ミシェルは 「なぜ顔を隠すの、アナタを誇りに思う」

とプレゼントまでくれた。名前入りの財布だ…

ジャックはなんともいえない切ない表情をする。

今までの人生でこんなことはなかったからだ。

存在すらも認められなかった少年A。

思春期のほとんどを刑務所で過ごしてきた彼は、遅すぎた青春を満喫し

ごく普通の幸せを噛みしめていた。

 

 

フィリップと捕まえたアナゴかウナギを、釘のついた木切れでめった打ちに。

だんだん危ない域に入っていったようだ。裁判ではこう言われていた。

「少女は想像しうる限りの残虐な方法によって殺された。

更生を期待してはいけない、

我々の子どもが安心して暮らせるために」

一生ぶち込めといわんばかりの勢いだ。

ジャックの両親は事件前も事件後も変わらず

息子の救いを求める手を振り払った。

出所後もどこでどうしているやら、彼にとって肉親はいないに等しい。

 

 

ある日ミシェルは意味深に、何かを言いたそうにしている。

「?君を愛してる」

「その言葉、先に言われちゃったわ」

そんな言葉、彼は人生で一度も言われたことがなかった……

「彼女にウソをついているのが後ろめたくて…」

ジャックは悩み、テリーに相談する。

「ダメだ、絶対に正体を明かすな、君の安全を守るためだ。

世間の人は君を絶対に赦すはずはない」 テリーは必死だった。

なんと少年Aの正体に2万ポンドの賞金がかけられていたのだ。

ジャックは呟く。 「すごく苦しいよ…」

 

 

(Imdb.comより)

 

 

いっぽうテリーの息子はいつまでも働かず、家で飲んだくれているだけだった。

テリーはどうしても一生懸命頑張っているジャックと比べてしまう。

何度言っても息子は変わらず、テリーは愛想をつかしていた。

やがて寝言で彼はつぶやく。

「愛してるよ、ジャック…最高の誇りだ…」

横で聞いていた息子は顔色を変える。

 

 

そして翌日。

何かあった?

また不吉な映像が。部屋に何人も入ってきて

よってたかって誰かを殴り、首を吊るす…

出所前にフィリップはリンチで殺されていたのだ。

テリーは自殺だと言っていたのに……その時、上司から電話が。

「もう来なくていい。二度と会社に来るな」

ジャックは驚いてクリスに電話をする。するとクリスまでが…

「お前の正体を知った、騙された。縁を切る」

泣き崩れるジャック。しかしこれだけではなかった。

 

 

残酷なことに家の周りには記者が詰め掛け、一斉にフラッシュがたかれ

「今の気持ちは?更生できた?」

彼は家からも出られず、テリーに電話するが繋がらない。

ああ、なんてことだろう……

「僕じゃない、誓って僕はあの少年じゃない!」

 

 

(teenidols4you.comより)

 

 

あの少女が…男とキスをしている所をフィリップとエリックに覗き見され

「マシなことをしたら?体じゅう垢だらけ、女の子は一人も…」

「一人も何だ、言ってみろ!」 フィリップは怒り、彼女の手を切りつける。

ああ、そこで止めていたら!いや、止めてもダメだったかもしれない。

「パパに言いつけてやる!」 少女は最悪のことを言ってしまった。

言いつけられたらおしまいだ…フィリップに呼ばれるまま

エリックはカッターナイフを握りしめていた……

 

 

街中一面に張り出されている新聞。

ジャックが女の子を救った時の写真が使われてしまっていた。

「殺人犯…暴かれた少年Aの正体!」

その頃ミシェルは家でその新聞を見て泣いていた。

…居留守を使い、やっぱり知ってしまっていたのだ。

ジャックは屋根づたいに家を抜け出し、目深にパーカーのフードを被り電車に。

…何処にも行く所のあろうはずはない。

こうなったら誰も知っている人のいない土地、外国まで行っちゃえばいいのに。

「終点まで、片道でいいです」

片道…イヤな予感しかしない。

 

 

少年A…情報を提供したのはテリーの息子だったのだ。

「お前は最低だ!お前のせいでどれほど大きな犠牲が…」

「僕の犠牲は?一度も会いに来ないで、ココに来たって邪魔扱い。

悪魔の方が僕より大事なんだ!

あんなヤツ死んじまえばいいんだ!」

叫ぶ息子をテリーはぼう然と見るしかなかった。

 

 

その頃電車は終点に着き、ジャックは夕陽が美しい海辺の桟橋を歩いていく…

そこにはなんと穏やかに微笑むミシェルがいて、逆に聞かれた。

「なぜここに? 私なら赦してたわ。時間がたてば…

そろそろ帰るわ。またね」

ミシェルがここまで来れるはずがないんだが?

ああ、本当だったらどんなにいいだろう。

最後にジャックは言う。 「愛してる」

「ひどい、また先に言われちゃった」

 

 

(imdb.comより)

 

 

ジャックは命を救った女の子からの手紙を見る。

「助けてくれてありがとう、あなたが天使に見えました」

これは皮肉な…彼にとって救いなのか何なのか

天使が悪魔に戻ってしまったというのに。

ジャックから最後に、留守電に吹き込まれていたメッセージ。

「テリー、もう元には戻れない。過去の僕は死んだと言ったよね?

ありがとう、愛してるよ」

「クリス、君がしてくれたことどんなに嬉しかったか。サヨナラを言わなきゃ。

覚えてる?二人で女の子を助けたよね…」

最後はただ暗い水面を必死に見つめ涙するジャック、

この場面で無情にも映像は終わります……

 

 

「まだ映画をご覧でない方は

彼の過去を明かさないようお願いします」

映画のキャッチコピーでは、せめて観客だけでも…ということでしょうか。

ラストはジャックの自殺だと……

そう思うしかない悲しすぎる状況です。

ミシェルが現れたのは、彼の願望か幻かもしれません。

でも観客にとっても救いになった気がします。

題材の暗さのわりに、映像は終始暖かく包み込むような印象です。

しかしそれが辛く刺さります…天国から地獄に、一瞬で手のひらを返したのだから。

最後の手紙にも泣けてきます。

確かに天使になれた時もあったのかと…

 

 

(Imdb.comより)

 

 

犯罪者は刑期を終えても一生贖い続け

決して人並みになることは許されないということでしょうか。

ジャックを観ていると、そんな心の狭い社会は無情だと嘆きたくなります。

彼が常に努力し自身の立場を理解し

謙虚な態度でいることにとても好感を覚えます。

どんなことをやったにしろ、何もかも赦してやりたくもなるでしょう…

なんといっても若いのです、

これからの人生をすべて地獄の中で暮らすにはあまりにも長い。

そしてきっと、「お前には幸せになる権利がある」 と言っているでしょう。

 

 

とはいえ、私にもジャックを 「赦してやれ」 とは言えないのが辛い。

この映画はジャック側から書いたものです…

殺された女の子側から書いたらどうか、被害者家族の想いを考えてしまうからです。

そしてジャックは劇中、過去の罪について一言も語ってはいません。

すでに十分に反省しているからでしょうか?

そのことは語られていないだけに、更生しているか判断するのは非常にデリケートになるべきです。

善人にしか見えない、守ってやりたくなるほどのいじらしい彼に、もしかしたら悪の一面があるのかもしれない…

 

 

もちろん少年Aすべてと一括りにする訳にはいかないです。

ジャックはホントにいいヤツになったのかもしれないし

他の少年の中にはまだまだ深い闇を抱えている者がいるかもしれません。

1人1人多様でとても判断できない…

こうなるともう、こう言うしかないでしょう。

犯罪者側は刑期を終えたのならば好きにすればいい。

実直になれれば、普通に生きる権利は誰にでもあるのだから。

被害者側も社会も、許せないのならば一生赦さなくていい。

「罪を憎んで人を憎まず」 なんて言えません…

 

 

一つだけ断言できることとしたら…問題は報道なのかも。

SNSによる影響は膨大なものです。

あっという間に拡散され、ちょっとしたことでも炎上する事態になっています。

営利行為が発生しているのはもちろん、話題集めとか、単なる興味本位も許せません。

もちろん明らかになって良かったこともあるでしょう、

しかし傷ついている人が多数いること見逃してはいけない。

これこそプライバシーの侵害で裁かれることでしょう。

ジャックは情報の発信・共有・拡散によって殺されたのです。

 

 

(teenidols4you.comより)

 

 

どうしてこれほど残酷なことができたのか、家庭環境や教育は?

論じるにはうってつけのネット環境は大いに利用すべきでしょう。ただ、

少年Aはずっといつまでも少年Aで置いておくべきなのです。

探し出して社会的にも実際にも抹殺?

被害者側が死刑にしたいとまで思うのは仕方ないと思います、是非は言えませんけど…

しかし、第三者が煽る行為は余計なもの。

凶悪犯が今幸せに暮らしているなんて情報いりません、

関係者がそれを聞いたら?立ち直っていたかもしれないのに

報道の自由を唱える前に火に油を注ぐなと言いたい。

不用意に発した情報が…それが確かなものでも偽りでも

知るほどに悲しみが蘇るのは間違いありません。

 

 

しかし実を言いますと…今まで私も被害者に同情するあまり

「こんな酷いことをやったのならば本名を晒すべきだ」

と思っていた1人なんです!

個人情報云々なんてくだらないと

犯罪者の側になんてこれっぽっちも立とうとも思わなかった。

その罪が凶悪であればあるほど、視点がそこに凝り固まってしまうのです。

この作品を観て目から汚いウロコが落ちましたね。

そのことにやっと気づかされた、考えさせられた深い作品で

観てよかった…と心から思いました。

これは 「少年A」 に限らず

様々な物議をかもしているネット社会への警鐘だと思いました。

 

 

こう書いている今も、ここまで強い口調で言いすぎたせいか少々ナーバスです…

気を悪くされた方がいましたらすみませんm(__)m

これからは、どんな情報でも手に入れたら一旦考えてみたいと思います。

共有すべきかすべきでないか?

これ拡散してダレトク?

 

 

(launchdog.krより)