(Amazonより)

 

 

恋愛映画3連発で書いちゃった。どれもタイプが全く違います。

これは毛沢東の 文化大革命時代 を描いている作品です。

そうはいっても重い映画でも、政治的な映画でもありません。

文革 を題材にしたものはたくさんありますが、その一般的なイメージとは趣が異なり

そんな時代に生きた若者たちの青春讃歌のようで

ほのぼのとしたあたたかい余韻を残す映画です。

時代はあくまでもストーリーを彩るもので

生き生きとした登場人物と別天地のような壮大な風景、

中国の大きさと深さを感じるのに十分な風格をたたえています。

 

 

中国出身でフランスで活動する ダイ・シージエ が自著

「バルザックと小さな中国のお針子」 を自身で監督したもので

フランス・中国の合作映画となっています。

中国映画はまだまだ興味深い作品が多数、

日本で公開されていないものも多いので

ぜひ!これから期待したいものです。

 

 

【登場人物】

ルオ ……チェン・クン。歌手としても活躍し、インド人とのハーフという端正な顔立ちと

どこにいてもハッとするような存在感で目を引きます。

今出演中のドラマ 「鳳凰の飛翔」 も要チェックです。

 

マー ……リウ・イエ、「藍宇~情熱の嵐」 で観た感受性豊かな演技が印象的です。

後年 劉邦役の映画では気づかなかったほどガラリと雰囲気が変わっていて

彼の表現力には感情移入せずにいられない何かがありますね。

 

小さなお針子 ……周迅 (ジョウ・シュン)。シュー・ジンレイ、ヴィッキー・チャオ、

チャン・ツィイー と並ぶ、ハリウッドにも進出した 中国4大女優の1人。

年齢不詳の可愛らしいイメージですが、時には役にのめり込み過ぎて

立ち直れなくなるほどになっちゃうそうです。

 

 

【時代背景について】

文化大革命とは、1966年から10年以上に渡った中国の改革運動で

資本主義文化を批判し原点の「農本的主義」へと押し戻すものでした。

都市部の青少年においては辺境の農家で肉体労働を通じて思想改造し

社会主義国家に協力させる再教育として「下放」が行われたのです。

勉学は中断、家族から何年も引き離され、いつ帰れるかは全くわからなかった。

そして文芸出版物は読むことを禁じられていたので持ってもいられない。

そんな厳しい状況下でこの村にやってきた、ある2人の青年の物語です。

 

 

ここからネタバレ

 

 

(newslang89.wordpress.comより)

 

 

1971年ルオとマーは、近くの町まで2日かかる鳳凰山を登り、ある村に辿り着く。

貧農の村人は字は読めず、持ってきた料理本は認められなかった。

マーのバイオリンも理解できないので弾いて見せるが、モーツァルトのソナタと言っても

わからないので 「毛主席を想って」 と題名をつける。

皆マーが奏でる音色を珍しそうに聞き入る。

ここまで来たのは1940年のフランスの宣教師以来だということだが

山々にモーツァルトが響き、美しい景色は別世界のようだ

 

 

鳳凰山は貨幣に用いられる銅の産地、漢の皇帝が愛人の宦官に与えた地だという。

同性愛の中国で最初の記述だ。

銅炭鉱で生計を立てている村で、もちろん農業も欠かせない。

汲み取り式便所の肥をバケツに入れて背負い、山道を上がった畑まで運ぶ。

こぼした肥も 「手ですくえ!」 と、クソだらけになって運び続けるマーたち。

これがなんと日課のように続くのだ…2人はガックリ。

「死ぬまでこんなシケた所で暮らすとしたら

考えただけでゾッとする」

 

 

(kknews.ccより)

 

 

温泉があると聞き行ってみると、そこで女たちが水浴びをしていた。

思わず滑り落ちるルオ、落ちた穴の上から笑い声が。

それがお針子との出会いだった。

村には4キロ離れた天眼から、洋服を作る爺さんと孫娘が時々やってくる。

仕立て屋は王様のように椅子に乗せられ担がれている。

「あの子だ」 2人は顔を見合わせる。

「名前は?」 「小さなお針子」

「不思議だな、本名はわからないが 小さなお針子 が似合ってる」

お針子だけあって小綺麗な服を着て、華奢で小さく

好奇心いっぱいの眼差しをした表情が可愛らしい。

 

 

(nziff.co.nzより))

 

 

2人は知識青年と呼ばれ、彼らの目覚まし時計も村の人には初めてのもので

お針子もそれに目をつけ、好奇心から分解してしまった。

お針子は外の世界に憧れているが、両親とも死に字を教わる機会もなかったと言う。

ルオとマーはお針子に字を教え、無知から救おうと決意する。

こういっちゃなんですが

自分の思うように女を育てたい、という感覚じゃないですか?

そしてちょっと 「上から目線」 な印象も。

 

 

革命委員会では2人と同じ知識青年のメガネが紹介され

「彼は反動的知識人の家庭だったが、農業を学び変わった。

他の知識青年もコレを見習え」

偉そうに話す男に、お針子は 「ヤな奴」 と呟く。

その後村長は粋な計らいをする。

「知識青年2人も頑張っているので、映画を見に行かせてワシらに話してもらう」

村の住民は皆いい人で、立場の逆転はしかたないとはいえ

人々も心の中ではわかっているのだと思います。

 

 

(cinelounge.orgより)

 

 

2人は観てきた映画のストーリーを村人を集めて話す。

雰囲気作りに吹雪が舞っているシーンではモミガラを降らせ

お針子も人々も興味津々で聞き入り、感動して涙する。

何も知らない、知らされない人たちと知識を共有することで

こんな実のある時間が過ごせるならば

下放もなかなか捨てたもんではないかな。

それにこんな山奥に咲く小さな花のようなお針子

彼女の存在は2人にとって、なによりのかけがえのなさだろう。

 

 

あのメガネがたくさん本を持っていると聞き、手に入れようとするが

彼は再教育は終わり、町に帰ることになってしまった。

「盗むしかないでしょ」 お針子は当然、とばかりに言い放つ。

メガネの歓送会が開かれた。お針子を中心にダンスを見せて盛り上がるが、

音楽は毛主席を讃える歌ばかりでなにもかもが支配された時代。

その間2人は彼の家に侵入、探してやっと念願の本を何冊も手に入れる。

この時代金より貴重な宝物なのだ。

 

 

(cineday.orange.frより)

 

 

お針子はまだ字が読めないので挿し絵を見るだけだ。

2人がお針子に字を教えてやりながら、本の内容について語り合う日々。

本は洞窟に隠し、持ち出すのは一冊ずつ、取り上げられても一冊で済むから。

読み終えた気分は世界が完全に変わった気分だ。

「空も星も音も光も、ブタの臭さまで…すべて変わった!」

現代では想像もできない状況だ、イヤイヤながら勉強したり

本を読んだり…それがどんなに恵まれたことなのか

理解しないといけませんね。

 

 

そんな時ルオが高熱を出しマラリアになる。

しかしこの村の治療法は、何度も川に突き落とす、背中を柳の枝で思いっきり叩く。

なんでこんな…柳か槐かヨモギか、どれが1番効くとか。

医師は町に一応いるようだが、まずは民間療法だ。お針子も風習通りルオを叩く。

その時マーは見てしまう。ルオがお針子に迫り、キスをしたのだ。

ここまでもルオのほうが積極的だった。マーもお針子を好きだったが

ここは彼に譲ったのか黙って引き下がる。

 

 

(allocine.frより)

 

 

ルオの病気は峠を越し、映画を3人でまた見に行くがこの前のと同じだった。

仕方ないので村人の前では、本で読んだ話を映画で観てきたように話す。

なかなかいい案だ。 「ユルシュール・ミルエ!バルザック!」

しかしお針子の祖父に見つかり、ある本を燃やされてしまった。

仕立て屋のジジイは村人の服をたくさん作るため、2人の家に泊まることになる。

「実は孫娘の様子がおかしいのだ」 ブラジャーを付けたり本の話をしているらしい。

この時代しかもこの僻地ではありえないことだ。

「一冊の本が人生を変えてしまうこともある、

ウソの塊を読み聞かせないでくれ」

 

 

(programme-tv.netより)

 

 

そこで2人は仕立て屋に本の良さをわかってもらおうと、話して聞かせることにした。

仕立て屋は老人なのに疲れ知らずで、昼は裁縫、夜は 「巌窟王」 の話を聞き

海の装飾が入ったセーラーカラーの上着など、新調した服に奇抜さが現れ始めた。

地中海の風が鳳凰山を吹き抜けた。

美しい山々を背景に、皆純粋な人たちに心が和みます。

モンテ・クリスト伯の住んでいる、パリで最も美しい通り 「シャンゼリゼ!」

美しい響きに爺さんの目が輝き

思わずクスッと微笑んでいる自分に気づきました。

 

 

村長が2人のウワサを聞きつけ、「反動的な話は公安局に話す」 とやってくる。

しかし実は彼は歯痛に悩まされていて、ルオの父親が歯医者だったので

「虫歯の治療をすれば見逃してやる」 と言う。

① お針子がミシンを踏み、糸を繋いだ針が付いたドリル状の物を細かく振動させる。

② ルオが振動するドリルで虫歯を削り

③ マーが錫を熱で溶かして削った所に入れる。

歯医者のやり方と原理は一緒なので理にかなった治療法だ。

しかし麻酔ナシなので村長は動かないよう縛られ耐えて、何とか成功。

村長にとって2人は大した問題じゃなかったのかもね。

そしてルオの元には患者がたくさん並ぶようになる。

 

 

その後村長が落盤事故でひと月以上も床につき、銅山仕事は中止になる。

息抜きができたのでマーは歌を作りたいと、猥歌の達人シュー爺さんに聞いたりする。

ルオはお針子に字を教えて 「愛してる」 の部分を何度も言わせたりする。

実は2人はその頃関係を持っていたのだ。

そんなにきわどいものではないんですが

水中の半裸のシーンは、独特なエロティックさで美しいです。

 

 

(movie-roulette.comより)

 

 

ルオは父親が重病になり、2ヶ月間実家に帰るとお針子に話す。

お針子はちょっと悲しそうな顔をするが

「スッポンを食べればすぐ治ってアンタも早く帰れる」 と取りに潜る。

ルオはマーに頼む。「毎日彼女と会え、人に盗られたくない」

「監視しろと?」 「そうじゃない、本を読んだり喜ばせてやれ」

ルオもマーの気持ちはわかっているだろうに、自信があるのか 信頼しているからだろうか。

 

 

お針子がスッポン捕獲、しかし手を噛まれてしまった。

彼女を支えるルオ、黙って毒を吸い出してやるマー。

男子2人から思われて両手に花?のお針子だが

こんな所にも彼らのアプローチの違いが出ている?

ルオとの別れの日、お針子は思いつめた表情だ。

「隠し事があるの」 「乗れ、一緒に行こう」

「無理なの、帰ったらその理由がわかるわ」

 

 

(madmovieman.comより)

 

 

2人になり、 「村の女とイチャつくな!」 と男たちに絡まれたりしたが

マーは毎日 「ボヴァリー夫人」 を読んでやる。

お針子こそマーにとってのエンマだった。  

しかしお針子は 「バルザックがいいわ」 そして告げる。

「生理がないの。おじいちゃんに知れたらルオが殺される」

彼女は18になったばかり、子どもができても25歳まで結婚できない。

しかし中絶は結婚証明書がないとできない。

なんだそりゃ!激しく矛盾している、卵が先かニワトリが先か?(そういうことじゃないか笑)

 

 

マーは町の産婦人科医に助けを求める。 「フランスの小説を差し上げます」

産婦人科医も本の価値のわかる男で

「この訳者は君のお父さん同様、人民の敵に。素晴らしい才能ある人物なのに…」

マーは泣き出す。なぜか涙が止まらない。

人民の敵とはただの文化人や芸術家に対してあんまりだ、

こんな酷い時代があったとは…

マーは家の前でバイオリンを弾きながら周囲を伺い、お針子は堕胎手術を受ける。

運悪く村長が通りかかったが

彼女の叫び声はバイオリンでかき消されていった。

 

 

(allocine.frより)

 

 

お針子の目からは涙、うつろな表情。 「自分が別人になった感じ」

マーは手術の終わった彼女を背負い、家にすぐ帰らなくてもいいよう手配。

「気分転換をしよう、町で好きな物でも買いなよ」 とお金を渡すが、その金は?

「バイオリンを売っただなんて!」 お針子はせつなそうな顔をする。

マーはハーモニカを買うためとごまかすが、彼流の慰め方なのだろう。

でも、お針子はどう思っていたのだろうか…

バイオリンを売ることも、そもそも堕胎するということも。

他に選択肢のない時代、仕方のないことではあるが

何かが違うような気がする。

 

 

父親の容態がなんとかなったらしく、ルオがやっと帰ってきた。

お針子の家で爺さんも一緒に皆で楽しくゴハンを食べる。

「覚えてるか、無知から救うと言ってた」

「成功したな、俺たちといたからだ」

堕胎の話はどちらもルオにはしない。

一見楽しそうだが、もうこの時は何かが確かに違っていたのだ。

救うとかそんな生易しいものではなかったのだ。

「あの時僕らは後の事態をなぜ予期できなかったのか」

 

 

(cinelounge.orgより)

 

 

そこから唐突にリヨンに留学したマーの話。一瞬で何年もたってしまったようだ。

マーは15年バイオリン奏者として活躍し、ニュースを見て帰国する。

鳳凰山一帯は巨大なダムに変わり

揚子江の川底に沈むことになっていた。

お土産の香水を店員に選んでもらう。

「お相手のタイプは?」 「小さな中国のお針子」

マーはあの山の村に行ってみた。今日は魂祭りで祖先を迎える舟を川に浮かべて壮観だ。天眼の人も来るし、来られない人は名前を買いた舟を流してもらうとのこと。

しかしお針子は来なかった。

 

 

(cinelounge.orgより)

 

 

その後マーはルオと再会、彼には妻と子どももいて、歯科医学の権威になったらしい。

撮影した村人たちのビデオを見ながら、思い出話に花が咲く。

お針子が香港に行ったと聞き、ルオも彼女を探したが結局見つからなかったという。

映っているのは懐かしいあの洞窟だ。

「その時声を聞いた気がして」

しかし、2人が追い求めている姿は

とうとう見つけることはできなかった。

 

 

あの時…それは突然だったのか。

爺さんが慌ててやって来た。「都会で運を試すとか、新たな人生を求めて」

2人はお針子の後を必死に追うが、彼女はバッサリ髪を切って

迷うことなく足取りを進めている。「もう決めたこと」

「君を変えたのは?」 「バルザック」

ルオは涙を堪えて引き留める。 「愛してるんだ」

彼女はちょっと切なそうな表情をし 「おじいちゃんをお願い。元気でね」

それきり去ってしまったのだった。

 

 

(livestreamclub.xyzより)

 

彼女に何があったのか?

想像でしかありませんが、無理を承知で言ってみよう。

① あの時ルオの差し出した手をとり、彼の方に魅力は感じていたが

妊娠したことで、期待できないのがわかったのかもしれない。

② マーに妊娠を打ち明け、彼なら何とかしてくれると淡い期待をしたのかもしれない。

もちろん子どもを産むということまで考えていたかはわかりません。

ただ、堕胎によって別人になってしまった彼女が

自分自身の存在価値を見つめ直した結果なのでしょう。

これ以上自分を貶めたくはなかったのかも。

誰が悪いわけではなく時代を恨むしかない、悲しい出来事です。

 

 

「バルザックに教わったそうだ。女性の美しさこそ至宝の宝だとな」

バルザックによって気づかされたのは自分自身の大切さ。

皮肉なことにこんな時代だからこそ気づいた結果なのでしょう。

爺さんの懸念した通り お針子は人生まで変えてしまったのです。

2人のどちらを取るとか、そんな考えも彼女にとっては意味がない。

関係がひとときの青春の輝きだった2人とは違い

お針子にとっては世界の始まりだったのでしょうか。

 

 

(vodkaster.comより)

 

 

文革時の死者は40万人、被害者1億人と推計されているが公式な推計は存在せず

一説には死者1,000万人を超えるとも言われているようです。

これは毛沢東の復権狙いの権力闘争によるものだったようで、これに巻き込まれた  中華人民共和国、設立以来の文化・経済・産業の停滞または後退となり、

国内は大混乱に陥りました。

 

 

旧体制を徹底的に排除するため、党の幹部・知識人・文化人・旧地主など

反革命分子と定義された者は中国全土において過酷な糾弾や弾圧を受け

さらに旧文化であるとして貴重な文化財が甚大な被害を受けました。

そして秦の時代の焚書坑儒ほどではなかったにしろ、作家たちは追放され迫害され

亡くなった文化人も多数に上り、損失はあまりにも大きすぎて計り知れません。

 

 

この作品ではそんな失われた文芸作品の素晴らしさを

余すことなく描いています。

バルザック…読んでないとこの映画について書けないかもと思いましたが

そうなると本のレビューになってしまうからね~。 (ただの言い訳あせる

壮大な景色に圧倒され、時代を生きた純粋な人々に和み

ラストはピリッと切なさが効いていて

なんとコメディだともいうこの映画、

癒されると同時に心のデトックス効果抜群! これで心機一転、さわやかな気持ちに

なれること受け合いです。

 

 

「お前も惚れてたろ?」

「たぶん…僕たち、愛し方は違ってたけどな」

そして水没してゆく、あの村、あの家、あの洞窟。

あの頃の僕たち3人の思い出とともに……

 

 

(Amazonより)