人生には3つの場がある。 | 合掌

合掌

俺の生存記 

1月末。
上司から。
病気で開腹手術のため入院することになり。
約2ヶ月間休職することになったと告げられた。

突然のことに俺は驚いた。

ここ数ヶ月上司は体調不良で。
遅刻や早退や欠勤することも増えていたが。
手術が必要な程の重病とは思わずに。
心配するということよりも。
俺は上司の自己管理不足を不満に思っていた。
しかし今思えば。
忘年会の不参加も病気のためだったのだろう。
だったらあんな言い方をしなくても。
本当のことを言ってくれたらよかったのにと思う。
俺のことをまだ信頼できないから言えないのだろうが。
自分を信頼してくれない上司の下で働くのは。
部下としてとても辛い。

以前に上司は俺に言った。
「私にあなたを信頼させて下さい。」
でもそういう上司はどうなんだ。
俺なら「何を考えているかわからない人」のことを。
信頼しようとは思わない。
この上司がどんな考えを持ちどんな考え方をするのか。
俺は今もってわからないし。
コミュニケーションの距離感が未だに掴めずにいる。
上司と部下だって人間関係だ。
お互いの信頼関係を築いていくためには。
弱点も含めた自分がどんな人間かを。
相手にわかってもらわないといけないはずだ。
そういうことを上司は俺に示さないではないか。

続けて上司は俺に言った。
2ヶ月間というのは暫定で。
身体の状態によっては長引くかもしれず。
万が一に備えて業務の引継ぎ書も作ってあるし。
上司不在の間は。
俺を補佐してくれる人材を手配中であると言い。
迷惑を掛けるがよろしく頼むと言った。
頭を下げる上司に。
色々言いたいことを俺は飲み込んだ。
病気のことはもちろん。
手術や術後の体調のことや家族のこと。
かなり不安な思いを抱えているであろう上司に。
今言うべきことではないし。
元気になった時のためにそれは取っておこうと思った。

南無妙法蓮華経

2月に入り。
俺はヤマダ女史(所属する部署の一番エライ人)から呼び出され。
課長昇進試験の選考に推薦したと言われた。
えっ
このタイミングでか!?

2週間後に休職に入る上司からの仕事の引継ぎに。
来月に配属される補佐役のためのマニュアル作りなど。
その他にもやるべきことは目白押しだ。
それにオペレーターを増員する話もある。
昇進試験の内容は。
筆記と課題論文と面接になるのだが。
日常業務をこなしながら。
昇進試験の準備と勉強を行う余裕があるのか。
俺は正直とても厳しいと思う。
昇進試験を断ることはできるが。
断ったら次のチャンスはないかもしれない。
それに俺を推薦してくれたヤマダ女史の顔に。
泥を塗ることになる。
そう考えたら断ることはできなかったし。
試験に落ちても泥を塗る結果になるのだから。
受けるからには落ちるワケにもいかない。
なんたるプレッシャー・・・。

突然降って湧いた上司の休職と昇進試験。
なんというか。
代わりの人材ならいくらでもいるのだと。
そう示唆しているように思え。
なんだかやるせない気持ちにもなった。
そして家に帰り。
昇進試験を受けることと。
このやるせない気持ちをアイツに言うと。
甘えたことを言うなと一喝された。

「社長や重役だって代わるんだよ!
代わりがきかなきゃ会社の人事異動だってそもそも成立しないじゃないの。
感傷的になるのもいいけど、しっかりしなきゃダメ!自分が取って代わるぐらいの気持ちで頑張って絶対課長になるんだよ!」

おっおう!!

俺はアイツに向かって親指を立てると。
アイツは俺のその親指を握ってこう言った。

「でも、ムスコの父親、私の旦那さんには代わりはいないよ」

人生には3つの場があるという。
修羅場
土壇場
正念場
この3つの場が。
人が最も成長する瞬間だという。
俺も踏ん張ってみるしかないのだ。

合掌