交換ノート始めました | 合掌

合掌

俺の生存記 

家に帰って驚いた。
ゆるふわっとしたセミロングの髪を惜しげもなく切って。
ショートへアになったアイツが俺を出迎えたからだ。

え、ちょっと待って、え!?

って気軽に聞けるレベルじゃねぇぞ!

腕時計を外しながら俺は掛ける言葉を捜す。
そんな俺を見越していたようにアイツが言った。
「びっくりした?びっくりするよね~。
ヘンかなぁ?でもそんなにヘンじゃないでしょ?」

ヘンとかそういう問題とはまた違う。
これまでおだんごヘアやまとめた髪は見たことあっても。
アイツのショートヘアは見たことがない。
アイツの顔した見知らぬ女の人が家にいるようで落ち着かないし。
それに俺が帰ると飛びついてくるムスコがリビングにいない。
アイツに聞くとショートヘアにしたことを怒って部屋から出てこないのだという。

朝はいつものお母さんだったのに。
幼稚園に迎えに来たのはショートヘアのお母さん。
びっくりして幼稚園の玄関で泣き出してしまったムスコ。
お母さんとは一緒に帰らないと言って駄々をこね。
担任の先生や園長先生になだめられてやっと帰ってきたのだそうだ。
園長先生が言うには。
幼児は「毎日同じ」に安心感を覚えるので急な変化に弱いのだそう。
すぐに慣れるので大丈夫。
お母さんはとっても素敵ですよと言って下さったそうだ。

俺は二階に上がりムスコに話を聞いてみる。
「女の子は長い髪の毛じゃないと可愛くないよ!!
可愛いお母さんがいいんだもん!!」
ほほーう。
ロングヘアとショートヘアどちらがいいか。
幾度ともなく男の間で議論されてきたこのテーマ(笑)
4歳とはいえムスコも男である。
よしっ
ここは男同士で語らうか。

南無妙法蓮華経

「俺が思うに。
まぁこればっかりは好みだから正解はないんだけどな。
髪が短くたって可愛いと思うぞ。」
「長いほうが可愛いよ。」
「それはな、生物学的にいうと、動物は自分にないものに惹かれるんだ。
人間も動物だろ?だから男は女の子の長い髪の毛がいいな~って思うんだな。
これはね、しょうがない。
でもそれだけが女の子可愛さじゃないと思うぞ。
俺はお母さんの笑った顔が一番可愛いと思うなぁ。
ムスコはどう思う?」
「うん、可愛いよ。」
「だろ?
短い髪の方がお母さんの笑った顔がよく見えてもっと可愛いって思うぞ。」

ムスコは納得したのかそれとも空腹に耐え切れなかったのか。
促すと俺と一緒に下に降りると言った。

「ちょっとなぁに、さっきから~。ふたりしてこっち見過ぎじゃない?
やたらと目が合うんですけど!」
はにかんだようなちょっと困った顔をしてアイツが俺達を見る。
「だってなぁ~見ちゃうよな~。いつもと違うもんなぁ。」
俺はムスコの同意を得るように言うと。
ムスコは「だって~見ちゃうよね!」と言い。
俺の耳元に口を寄せて「お母さん可愛い」とささやいた。
ささやかれた耳がくすぐったかったので。
俺はお返し代わりにムスコをくすぐった。
じゃれあう俺達を見て「なかよしさんだね~」と言ってアイツは笑った。

「あのね、これから交換ノートしようよ。私書いたからこれ読んでね。」
ムスコが寝てからアイツは俺にノートを寄こした。
誕生日に花と一緒に贈った手紙の返事が書いてあった。
その返事の中に髪を切った理由も記されていた。
アイツの「取り戻したい」という言葉が俺の心にささった。
俺も取り戻したいことあるなぁ。
交換ノートはいつまで続くかわからないけど(笑)
交換ノートの返事にはまずこれを書く。

新しいヘアスタイルは今までよりもグッと女らしい。

合掌