決意表明 愛 | 合掌

合掌

俺の生存記 

アイツの告白は正直言って。
心の整理が簡単につくようなことではなかった。
心の動揺が時間が経つにつれ。
過去の恋人への嫉妬と怒りに変わり。
同時に過去を過去として受け止められない自分への怒りも芽生え。
自分の心の中には止めたくても止められない言いようのない憤懣が渦巻いた。

秘密を持ち続けることは。
重大な事柄ほど辛いものだということは俺だってわかる。
言わないでいると決めたことも大きな覚悟であっただろう。
であればこそ。
俺はその覚悟をアイツに貫いて欲しかった。
それが自分の行ったことの代償じゃないか。

思えば。
これがいつものアイツの手だ。
引き返せないところまできてから。
実はね・・・と切り出す。
最後には俺が従うってことをわかっているからな。
結婚を決めた後のオーストラリア行きだってそうだ。
あの時の俺も最後にはそれを承諾した。
今だってアイツの両親と同居するための二世帯住宅の建築を予定し。
来月には設計も完成していよいよ本契約を交わすことになっている。
親も巻き込んでいるこんな状況で別れるとかって言うはずない。
最後はきっと受け入れるはず。
そんな風に思っているに違いないんだ。

無茶だと分かっているわがままも許す俺。
惚れた弱みってヤツだねなんて自嘲気味に笑って。
そういう自分に酔ってたところってのもまぁ正直言ってある。
でもこれは無理だ。
命を奪う行為はしてほしくなかったし。
何より過去の恋人のことを考えずにいられない。
こんな状態で夫婦という関係を続けていけるんだろうか。
俺の頭にこの時初めて離婚という文字が浮かんだ。

けど。

アイツはそれを望んで選択したワケではなかった。
相手に拒絶されてどうすることもできなかった。
二度目の流産を経験して生んであげられなかった悲しみが。
心にしまっておいた過去の悲しみとをフラッシュバックさせた。
第二子を望む俺への罪悪感と子供への懺悔。
それが告白に繋がった。

あの時その子供を生んでいたなら。
俺とは出会えなかった。
俺が許せないと思う行為であってもその事実があったから。
俺と出会うことができたのだ。
アイツの言葉を聞きながら俺の頭は混乱した。

その日以来俺達は必要最低限の会話を交わす日々が続く。
俺は一体どうしたいんだ?出口の見えない自問自答も続く。
そんなある日。
ムスコ(4歳)が俺に言った。

お父さん、怒った顔がなおらないの?

驚いた。
ムスコの前で声を荒げるような喧嘩を俺達は一切しない。
それでも子供にはわかってしまうんだ。
そう思った時不意に気づく。
母親の胎内にいる子供はどうだ?
母親が抱いた喜び怒り悲しみ不安・・・
生まれてこれなかったとしても。
それはみんな伝わっているんじゃないだろうか。
俺はもう一度ムスコの出産記録を見た。
俺の子供を生んでくれた必死の姿のアイツがいた。

その記録を見ながら。
アイツが俺に妊娠を告げた時のことを思い出した。
そうだ。
俺の言った「嘘だろ?」の一言で。
アイツはものすごく感情的になって。
見たことないくらいヒステリックになった。
「私を疑ってるの!?妊娠のこと喜んでくれてないんでしょ!?
はっきり言えばいいじゃない!!」
ここから俺達は大喧嘩に発展したんだよな。
俺の気持ちを勝手に決めるな!!って俺は怒鳴ってさ。
そうか。
そうだったんだな。
そういうことだったんだな。
気づいた時俺の中の出口がはっきり見えた。

アイツは過去の経験で深い傷を負っていた。
だけどその経験があってこそ今のアイツになって。
そのアイツに俺は惚れたんだ。
そのアイツが俺を愛してると言った。
俺もアイツを愛してる。
全部ひっくるめて愛してる。
それが結論だ。


南無妙法蓮華経
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