今日の読書感想文『悪童日記』 | 合掌

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俺の生存記 

今日の読書感想文はこの作品。
アゴタ・クリストフ『悪童日記』

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)/早川書房

¥693
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戦争が激しさを増し、双子の「ぼくら」は
小さな町に住むおばあちゃんのもとへ疎開した。
その日からほくらの過酷な日々が始まった。
人間の醜さや哀しさ、世の不条理。
非常な現実を目にするたびに、ほくらはそれを克明に日記にしるす。
戦争が暗い影を落とすなか、ほくらはしたたかに生き抜いていく。
人間の真実をえぐる圧倒的筆力で読書界に感動の嵐を巻き起こした、
ハンガリー生まれの女性亡命作家の衝撃の処女作。

(裏表紙あらすじより)
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何とも凄まじい本だった。

戦争による劣悪な環境。
大人達の汚い姿を見つめる双子が。
「悲しい」「辛い」などの感情を排除して。
目に映る事実のみを記した日記。
それがそのまま小説になっているので。
ひとつひとつの章がとても短い。

双子の感情は明確には書かれていないから。
悲しかっただろうとか。
悔しかったんじゃないかとか。
読みながら俺は彼らの感情を想像する。
そういう読み方をする自分も新鮮だった。

そしてもうひとつ。
双子の「ぼくら」はかなりぶっ飛んでいるけど。
決して“悪童”なんかじゃあない。
彼らは努力家であり勤勉であり誠実であり。
ブレない生き方にむしろ清々しささえ感じてしまう。
そして。
彼らの時折見せる優しさが切なくて愛おしくなる。

「労働」という章で。
俺は彼らに心をつかまれた。

双子は祖母の家に預けられるのだが。
双子は祖母に従うことを拒否する。
祖母は双子を家から放り出し食事も与えない。
放り出された双子は庭で眠り庭の野菜を食べて過ごす。
日も昇らない早朝から晩まで働く祖母を見て。
追い出されて6日目の朝に双子は自ら祖母の手伝いを行う。
手伝う双子に祖母が言う。
「分かったようじゃな。
宿と飯とにありつくには、それだけの事をしなくちゃならん。」
双子は言う。
「 そういうわけじゃないよ。
仕事は辛いけど、誰かが働いてるのを見てるのはもっと辛いんだ。」
祖母は笑う。
「同情したって言いたいのかい?」
「 違うよ。
ぼくらはただ、自分自身を恥ずかしく思ったんだ。」

双子は遊ばず働き。
勉強をし鍛錬をする。
鍛錬では痛みに慣れるためにお互いを殴り合う。
残酷さに慣れるために動物を殺す。
必要であれば盗みも強請もする。

「精神を鍛える」という章はとても切ない。

祖母は双子を「牝犬の子」と呼ぶ。
街の人々は双子を「殺人鬼の卵」と呼ぶ。
これらの言葉を聞く度に双子は耳鳴りがしたり膝が震えたが。
思いやりのない言葉にも。
罵詈雑言にも慣れてしまう為にお互いを罵り合う。
そして街へ出てわざと人々に罵られることを行い。
どんな言葉にも動じないよう鍛錬をする。
鍛錬の結果。
どんな言葉にも動じなくなった双子だけど。
母の言った「私の愛しい子」「最愛の子」
これらの言葉を思い出すと涙が溢れ出す。

双子は言う。
『これらの言葉をぼくらは忘れなくてはならない。
なぜなら、今では誰一人同じたぐいの言葉をかけてはくれないし、
それに、これらの言葉の思いでは切なすぎて、
この先、とうてい胸に秘めてはいけないからだ。
そこでぼくらは、また別のやり方で、練習を再開する。
ぼくらは言う。
「私の愛しい子!最愛の子!
大好きよ・・・けっして離れないわ・・・
かけがえのない私の子・・・永遠に・・・私の人生のすべて・・・」
いくども繰り返されて、言葉は少しずつ意味を失い、言葉のもたらす痛みも和らぐ。』

マニュアル通りの接客のように。
同じ言葉を何度も繰り返し言うことで。
言い慣れてしまえば。
言葉は記号と同じになる。
双子は一体。
どれくらいこの言葉を繰り返し言い続けたのだろう。

今の世の中だって。
生きていけば必ず道徳との矛盾にぶちあたるだろうし。
世の中キレイゴトばかりじゃないし。
世の中平等でもない。
自分が正しいと信じられるものは何か?
読んでいるとはっとさせられる。

ラスト。
一心同体だった双子が別々になる。
国境を越えた双子の片割れはこの後どうなるのか?

続編を買ってこなけりゃ!(笑)

合掌