暑くなってきましたね。
例年より遅いとはいえ梅雨に入ってしまいまして、雨が多くなりそうです。
明日からは7月に入りまして、梅雨が終われば夏が本格的にやってきます☀️
さて夏は怪談で涼しくなろうというのは今も昔も変わらない文化です👻
落語の中にもやはり怪談話はたくさんあります。
そんな中で僕がまだ落語を聞き始めて間もない時に「これはなんと面白いものか❗️✨」と思った落語を紹介します。
落語が好きになるキッカケとなった演目の1つですね。
〜ストーリー〜
ある男が『堀越村』というところまで手紙を届けてくれと頼まれます。
ところが予想外なことに、どうやら目の前の山を越えねばならず、その手前の茶店のお婆さんに道を尋ねます。
「…というわけなんやが、もうお日さんが向こうへ行きかけてるんや。
堀越村っちゅうとこはもうすぐかいな?
それともまだまだ向こうか?」
「へぇへぇ。堀越村ですね。
教えてあげますけぇ、こっち来てください。
堀越村まではこの道を一本道なんですけどね。
あそこ見えますかねぇ?
池があるでしょ?」
「池?
…あぁ、見える見える。
ちょうどお日さんの照り返しになってるとこか。
あれが何や?」
「あの池がねぇ、水子池(みずごいけ)っちゅうんです。」
「水子…って(流産や死産したという意味の)あの水子か?」🙄
「そうです。
この辺り昔は貧しいとこでねぇ。
みんな食うにも困ってたくらいなんで、子供ができたとしても食べさすもんもありゃしません。
ひどい話ですけど、いわゆる月足らずで死んで生まれた子やらねぇ、生まれたとしても育たずに死んでしもた子供がよくおりました。
で、そういう子供をね…棺桶ならまだいい方です。
貧しい村ですから入るもんなら何でもええっちゅうて、木箱やら何やらに入れてね。
人目につかないようにそっと沈めとりました。
誰にも言やしませんよ?
でもみ〜んなやっとりますけぇ、みんな知っとります。
今はもう誰もそんなことはしとりませんけどね。
その沈められた子供の霊が彷徨ったりなんかしとるんでしょう。
それであなたくらいの歳の人が通ったら
お兄さん…こっち来て遊んでくれぇ
お姉さん…こっち来て遊びましょ
って言ってね。
ウカッと近づくとズルズルっと池へ引き込まれまして、翌日ポコ〜っと浮いとるのが見つかりまして。
それでいつからか皆が水子池と呼ぶようになったんです。
そういう池があるってこと、ちょっとお知らせしときます」
「…
な、なんやそれ…⁉️
そんな怖いこと…別にお知らせせんでもええよ…!」
「でもその横を通らんといけませんけぇ」
「そ、そうか…
ふ〜ん…水子池ね。
じゃ、それを越えたら堀越村か?」
「いえいえ、そこ越えてしばらく行きますと
首無し地蔵さんがあります」
「…
なっ、なんやまた…首無し地蔵⁉️
またなんぞあるのか?」
「はい、これもこの辺りの村ですけどね。
その村の村長さんの娘さんがある日追い剥ぎにかどわかされましてね。
翌日に惚けたような顔で戻ってきました。
その顔を見りゃぁねぇ…その娘さんがどんな目に遭ってたかっちゅうのは一目でわかります。
それで村長さんが怒ったの何の!
村のもん総出で山狩りしてその追い剥ぎを探すことになったんです。
するとそこにね。ふらふらっと1人。
恐らく旅のお方ですよ、今から思うと。
でもよそ者ですけぇ、その人を見て村長さんが
『こいつじゃ❗️』
って捕まえました。
『な、何のことかさっぱりわからん。
ワシじゃない❗️助けてくれ❗️』
そう必死で言いましたけど村長さん、カーッと頭に血が来てますからね。
『何を抜かすか、うちの娘を…!』
村長さん、男の髷(まげ)のとこ持ってね。
『この憎き奴め…!』
鎌で首をゴキッ!
と、やりましたです…。
村長さん、娘の恨みを晴らしたと思ってガハハハハと高笑いしとりました。
ところがそこから何日かして、本物の追い剥ぎがら見つかりましてね。
やっぱりあれは間違いじゃったんじゃ…となりましたけど、もう遅いですよ。
首ね…やっちゃいましたからねぇ。
村長さん、よほど気に病んだのかすっかり寝込んでしもうてね。
ところがある日ムクッと起きて、
『ガハッ、ガハッ、ガハッ!』
と気が狂ったように3つほど笑って、その後すぐに死んじまいました。
まぁ〜やっぱりあの旅人さんの霊がどうこうするのかもしれませんねぇ。
村の人もこのままじゃいかんとなって、あの道のとこへお地蔵さん3つ並べまして供養したんです。
でもその1つがね〜…
『ガハッ、ガハッ、ガハッ!』
って、やっぱり3つほど笑いますね。
で、そうするとね。
首がポンっと取れて、フワフワっと飛んできて、腰のところをカプッと噛むんだそうです。
それで誰ともなしに首無し地蔵さんと…。
そういうもんがあるっちゅうことも、ちょっとお知らせしときます」
「…
それは…何や、道のそばにあるんかいな…?
敵わんなぁ…。
じゃそれを越えたら堀越村かいな?」
「それ越えますと川がありますけぇ。
そこにちちおいばしっちゅう橋があります」
「ち、ちちおい橋…?
…やっぱりそこも何かあるのか?」
「あ、わかりますか?」😳
「わかるよ‼️
何やそれは???」
「あそこはね〜何度も橋が流されてましてね。
で、巫女さんに相談したら龍神さんがおるから、人柱を立てなさいって話になりました。
村中のもん、みんな集めて相談しましたけどねぇ。
『あなたにしましょ』って訳にいかんでしょ?
困ったね〜と話してますとね。
そこの村でモキチって男がおりましてね。
ちょっとパッパラパーな男でしたけど。
『この村で1番役に立たん者を人柱にしたらどうじゃ?
役に立たんのじゃからムダ飯食わすこともないし、人柱に役に立つなら…』
村長さんも『なるほど。そら最もじゃな』と。
それで1人1人オマエ何に役に立つ?って聞いていったんですね。
そしたらこのモキチっちゅう男が1番何の役にも立っとらんってことになってしもたんです。
本人はまさか自分と言われるようなことになると思ってませんからね。
この男がギャーッと叫んでそのまま村から走って逃げてしまいました…。
かといってそれじゃ次の人って訳にもいかんでしょ?
だからそのモキチのカカァと幼い子供が責任とって人柱にっちゅうことになりました。
カカァは大人ですから話もわかるし諦めもつきますけど、子供は
「わし何にも悪いことしとらん。
堪忍してくれぇ…堪忍してくれぇ…」
って泣き喚きます。
そこを皆が
『オマエのトトさんのためじゃ!
トトさんの代わりじゃ』
って無理に人柱にしちまいました。
すると龍神さんが治まってくれたのか、橋は出来ましたけど…その後です。
そこを通る人がねぇ…別に見なくてもええんですよ?
見なくてもええのに、な〜んか気になってその橋の下を覗き込みたくなるんです。
それでその下覗きますとね…。
そのカカァと子供の声が聞こえるんだそうです。
「あんた…あんた…」
って旦那を呼ぶ声とねぇ、
「何にも悪いことしとらん。
堪忍してくれ〜堪忍してくれ〜…」
って子供が泣く声が。
まぁ〜その逃げたモキチの代わりに呼ばれるんでしょう。
…ああ、そういえばちょうどあなたくらいの歳格好だったそうですけどねぇ。
ええ…それで父追い橋と。
ちょっとお知らせしときます」
「…
ほな…それ越えなあかんのかい⁉️」💦
「…怒らんでもええでしょう⁉️」😒
「いや、怒る訳やないけども…。
じゃそれ過ぎたらもうすぐなんやな?」
「ええ、それ越えてしばらく行きますと四つ角、辻になってましてねぇ。
そこ幽霊の辻って言われてまして、首くくりの松があります。」
「…フーーっ😤
ついでのことや、聞こうやないか❗️」
「ヤケ起こさんでもええです。座んなさい。
あの麓の村にいた娘さんです。
男にたぶらかされまして、大阪の遊廓とかそういうところへ売られたんだそうです。
でもあんなとこの務めはとても辛くてねぇ…。
余りの辛さに耐えかねて村へは戻ってきましたけど、そんな体で帰ることもできず、かと言ってまた大阪へ戻るわけにもいかず…思案あぐねてそこの松で首くくりましてね…。
ちょいちょい何かが出てくるということで幽霊の辻って言ってます。」
「フンっ…😤
それ越えてまた何かあるのか⁉️」
「いえいえ、それ越えてまっすぐ行きゃ堀越村まですぐです。
あっ…なんじゃかんじゃ言うとります間にほら…お日さんがお帰りになりました。
まだ薄明かり残ってますけど、じきに暗くなりますけぇ。
提灯貸したげます♬」🏮
「…ありがとう。
まだ日は暮れてないのに提灯ってのも変な感じやけど、ほな借りていくわ。
おおきに…って、あれっ?😳
何や、婆さん…もう中へ入りよったんか?
あれだけお知らせしますお知らせしますって言うなら、見送りくらいしてくれたらええのに…😩
親切なような不親切なような…けったいな婆さんや。
おーい、婆さん!
帰りにまた寄らせてもらうわな!」
そう言って出発しました。
さてお婆さんの話を聞くうちにすっかり日が沈み、ただでさえ暗い山道を提灯の灯り1つです🏮
怖がりながらも進む先には池が見えてきます…。
「山道やから暗いとはわかってるけど…ホンマに真っ暗な道やなぁ〜💦
んっ?…あれか。水子池。
何や出るとか言ってたなぁ…」😰
恐る恐る進みます。
提灯の灯りだけの暗い不気味な池。
怖くて怖くてたまりません。
お婆さんから聞いたことが頭によぎります。
『子供の幽霊…』
『一緒に遊んでくれ…』
『池に引きずられる…』
「うわぁああーーっ‼️‼️⁉️
…何にもあらへんやないかい…😰
子供も遊んでくれも何もないぞ。
しかしホンマに不気味なとこや…」
ビクビクと歩いていると今度は薄暗い道の端に並んだお地蔵さんが現れます。
「う"っ…!
あ、あれや。首無し地蔵さん…
も、もうちょい道からズレてたらいいのに」
恐る恐る脚を進めます…。
また浮かんでくるあの話。
『ガハッ、ガハッ、ガハッ!』
『首がポンと飛んでくる』
『腰にかぶりつく…』
「うぅわぁああーっ‼️‼️⁉️
…何にもあらへんやないか…😰
あのオバン、ええかげんなこと言うたんと違うか…?」
何とか地蔵の横を通り過ぎると、しばらくして橋が見えてきました。
「ち、父追い橋か…。
あの話いちばん敵わんがな〜…。
親の代わりに小さい子供が身代わりにならないかんなんて、そんな残酷な話があるかい…。
見んでもええのに…何か気になるとか言うてたな…。
ゴクリ…いやいや、見んでもええんやで…?
み、見んでもええ。
見んでもええねんけど…」
チラッ…
「う"わぁああーっ‼️‼️⁉️
…何もあらへんがな…❗️
あのオバン、嘘つきやで!
怖がらせたろと思ってあんなこと言うたんやろなぁ、ホンマにもう…」
そうこう進むうちに遠くに四つ角が見えてきました。
「んっ?
あれが幽霊の辻か…?
ってことはもうすぐなんやな。
あっ、あれが首くくりの松か…!
ふ、フフ…へっ、へへへ…
あのなぁ…
言うとくで…?
こんなもんはなぁ…。
『怖い怖い』と思うから怖いんやで…!
怖ない怖ないと思ったらなぁ…❗️💢
…やっぱり怖いよ‼️
うわぁあーっ‼️」
脱兎の如く、半狂乱で幽霊の辻を走ります。
その話に聞いた首くくりの松を通り過ぎようとした時。
松の陰から15〜6の若い娘が
「おっちゃん…?」
「出たぁっ‼️‼️‼️😱
で、デ、出た出た出た出た…出たっ❗️」
飛び上がって驚きます。
「おっちゃん、何が出ましたん?」
「何が出ましたもクソもあるかい、コラ!
なんやねんホンマに…?なんや⁉️
娘か…!
コラッ、気ぃつけい!
今日のワシはただの人間と違うで!
あっちから何が出る、こっちから何が出るって聞いて、脅かされてここにおるんや❗️
そっ、そんなとこからきゅきゅ、急に出るからワシゃてっきり、ゆっゆ、幽霊かと思ったやないか!
気ぃつけぃ、アホーっ‼️」
娘は薄く微笑みながら、
「…ならおっちゃん…。
私が…『幽霊じゃない』とでも、思ってなさるの…?」
…と言うなり、
娘の姿がスッと消えました…。
『幽霊の辻』というお話でした🙇🏻♂️
〜終〜
さて、いかがでしたか?
最後だけは…というオチですね👻
この後は男が気を失ったのか、半狂乱で堀越村に辿り着いたのかはわかりません
枝雀師匠の演目なのですが、最初から最後までワーッと笑いが満載なのに、この最後の最後❗️
この幽霊が消えた時の、ロウソクをフッと吹き消したような静けさのギャップが見事なのです✨
枝雀師匠のお笑いの理論として
「緊張の緩和」
というものがありまして、簡単に言えば
「ピリッと張り付いた緊張がふっと緩んだ時に人は笑ってしまう」
というものです。
それを見事に表現した落語だと思います。
(『緊張「と」緩和』と言われてるのをたまに見ますが間違いです⚠️)
個人的には桂枝雀師匠の落語では「これぞ枝雀師匠❗️」と思えるような1、2を争うくらい好きな演目です✨
落語なんて全く知らないという人でもただ聞いて笑えますし、セットも何もない落語だからこそ面白くなる演目の1つ。
機会があればぜひ聴いてみてください♫
現在でも他の噺家さんが演じてますが、桂二葉さんという上方落語イチオシの女性の噺家さんも演じておられます。
落語は大半が笑えるものなのですが、やはり中には本気の怪談話もあります。
こちらも面白いのですが、何章かにわかれて演じられてたりするので、こちらでどう紹介しようか難しいところです🤔
当ブログのコンセプト的に笑える方が紹介しやすいというのもありますが。笑
桂枝雀という天才噺家が演じた「幽霊の辻」でした。
ではまた(^^)