江戸時代の夜明けの時間。

朝の太陽が出て来た頃に多かったのがカラスなんだそうです🌅


農村ではニワトリがコケコッコーと鳴きますが、都会だった江戸の街ではそこらじゅうでカラスが餌を求めて一斉にカーカーと鳴く‼️


カラスってのは本当に頭がいいんだそうですねぇ。

硬いクルミを車に轢かせて中身を食べるなんてこともできるそうで…!


道具とか『別のものを利用する』という発想ができる数少ない生物の1つなんだそうですよ💡


そんな頭のいいカラスですから、当時の人々が起きて餌を撒くまで騒いでやれってなもんでしょう。



三千世界のカラスを殺し

(ぬし)と朝寝がしてみたい



という都々逸を残したのは幕末の武士として名高い高杉晋作です。

うるさいカラスがいなくなればあなたともっとゆっくりと寝ていられるのに…という歌です。


今もカラスはいますが、もっと身近な生き物だったんでしょうね。



日本の神社の中に熊野権現(くまのごんげん)というものがありますが、そこでは八咫烏(ヤタガラス)という3本脚のカラスが日本神話のスサノオやアマテラスの使いとして祀られています⛩


この八咫烏が熊野権現のいわばシンボルマークのようになってまして、そこで起請文(きしょうもん)という護符があります。


正式には熊野牛王神符(くまのごおうしんぷ)。


こんなの↓(画像はお借りしました)



これが江戸時代に世間で流行りました。

起請の裏に約束や誓いを書く。


もしその誓いを破った者は血を吐いて死に、さらにこの大事な熊野権現のカラスが3羽死ぬという伝承があります☠️


こういうものを面白がったのか本気なのかわかりませんが、これを恋愛で使う人もたくさんいたんですねぇ👩🏻‍❤️‍👨🏻


今でいう恋愛祈願のデートスポットのような扱いでしょうか?

現代人も昔の人も色恋沙汰に願掛けをするのは好きみたいですねぇ。


本当に大事に思う人に渡すわけですが、中には目の前に出されて書くのをためらってしまい、怒られたような方なんかもいたようです滝汗



〜ストーリー〜

源兵衛さんの家の前を知り合いの喜六(きろく)が通りかかりました。



「んっ?おーい、喜六やないか!

ちょっと寄っていけ!」


「ありゃっ?源やんか。

気づかんふりして通り過ぎたらよかった…」


「おーい、キリコ!こっちやっちゅうに。

ちょっと話があるから寄っていけ!」


「はいはい。源やん、話ってなんや?」


さっきまでお前の母親がおったんや。

えらい心配してたで。

オマエ最近…夜泊まり日泊まりやそうやな」


「何を言うてんねん。

日泊まりなんかするかいな。

夜泊まりに行くだけや!」


「夜から出て行って家に帰ってこんことを夜泊まり日泊まりって言うんやないか。

ここのとこずっと帰ってないんやろ?

ひょっとしたらオマエ…『おいでおいで』の逆さまってなもんに凝ってるんちゃうか?」


「おいでおいでの逆さま?」🤥


「おいでおいでは手をしたに向けてこう、あおぐやろ?

その逆さま…ここへ賽を乗せて勝負!ってなことをやってるんちゃうかっちゅうねや」


「源やん…それは博打と違うか?」


「そうや。」


「博打ってなもん‼️」


「嫌いか?」


「好きやデレデレ

いやいや、でも博打はつまらんとは思ってるんやで。

そらそうやろ?

己の金を使ってお上の罪になるんやから。」


「ふーん?ほな何に凝ってるんや?」


「これや、コレ」🥴


「嬉しそうに小指出して…女か?

ほほぉ〜、シロか、クロか?」


「この前捨ててあったのは斑らやったけど…」


「犬の話やないわい!

相手は素人か玄人かって聞いてるんや」


「出て姫の玄人じゃ」ニヤリ


「出て姫やったら玄人しかおらんやないか。

芸者なんか???」


「あなどるな、オヤマ(遊女のこと)じゃ」


「オヤマぁ?

おいおい…オヤマってどんなもんか知ってるんやろな?

『騙します』って看板で商売してるんやぞ?

『私は騙しまっせ』って言うてるんや。

あの世界では騙した奴が偉い、騙された奴がアホやと相場が決まってるんや。

(ほど)のええこと言われて喜んでたら、えらい目に遭うで」


「へへへ。

ちょっとぐらい程のええこと言われたくらいではこんな騒動は起きんわ。」


「ほう、どうなんや?

堅いもんを取り交わしてる?起請⁉️

へぇ〜、えらい古風なことをやってるなぁ。

…どや?それ持ってるんやろ?

ちょっと見せてみぃ」ニヤニヤ


「へへ…肌身離さず持ってるんやデレデレ

おろそかに扱ってもろたら困るぞ?」


「大丈夫や。見せてみ。

どれどれ…うわぁ、えらい字やなぁ。

ひとつてんはつきしやうもんのこと』

って…仮名ばっかりやないか。

ミミズの這ったような字やな…。

『わたくしことねんあけさふらえば』

…あのなぁ、候(そうろう)くらい漢字で書いてもらえよ。

ちょぼ1つでも済むんやから😓

読みにくいな…『あたさまとふふに』

なんやこの『あたさまとふふに』って?」


「あなた様の『な』と夫婦の『う』が抜けてるんや」ニヤニヤ


「大事なとこ抜いてもらうなよ…。

『ふうふになりさふらうことじっしやうなり』

…ほほぉ〜!

『ごじつのためよってくだんのごとし』

…か。

立派に書きよったなぁ〜、おい!

『げたやきろくさま』

って…こんな商売書いてもらいなや、おい。

友禅屋とかやったら粋(すい)なもんやけど、下駄屋って…色気も何にも無いやないかい。

『うつぎみせこてることほんみょうたね』

なんや本名付きかいな。

宇津木見世小照こと本名たね…?

…このウツギっちゅうのは難波新地の宇津木のことか?」


「そうや!」デレデレ


「あそこにいてる小照っちゅう女やったら…若く見えるけど22やで?」


「そうや!」ちゅー


「前、堺の新地に出てて、今度こっちへ仕替え取ってきた?」

(※仕替えを取る=女郎が店を変えること)


「そうや!」酔っ払い


「!…あの小照か…。

えらい女にかかりよったなぁ…。

あれはオマエらの手には負えんぞ?

背中に5、6枚鱗でも生えてるような代物や」


「前にもそんなこと言う奴がおったからな。

この前一緒に寝た時に背中さすってみたけど、そんなもん無かったわ」酔っ払い


「当たり前やないか…ホンマにあったらバケモンや。

はぁ〜…ホンマに。

えらい女にかかりよったわ」😩


「お、おい!放り出したらあかんがな!

何をするんや、ホンマに…。

ワシこれ毎晩神棚へ上げて拝んでるんやで⁉️

これの端っこをちょっとちぎって酒へ浮かべてギュッと飲んだらどんな熱でも落ちるわ‼️」


「何を妙な声あげてるねん…。

ワシはそんなもん神棚へあげんと煙草入れにでも放り込んでるわい。

…ほれっ、これ見てみぃ。」


「ん…なんやこれ?

おっ?源やん。これ…起請と違うか?」


「そうや」真顔


「なーんや、人のこと散々バカにしといてけつからに、自分も貰ってるんやないかいニヤニヤ

えーと…なになに…

『ひとつてんはつきしやうもんのこと』

…ハハハっ、そっちも仮名ばっかりで『きしやう』って書いてるやないか!

『わたくしことねんあけさふらえば』

…やっぱり『さふらえば』やないかい。

『あたさまと』…違うな。

『あなたさまとふうふに』

…おっ、こっちは字が抜けてないな!

『なりそふらうことじつしやうなり』

…いや〜起請の文言なんか皆一緒やなぁ♫

『ぶつだんやげんべえさま』

…ハハハ!

下駄屋の方がまだマシやないか!

仏壇屋以上に色気の無いもんはないで❗️🤣

『うつぎみせこてることほんみょうたね』

…いや〜やっぱり本名付きや!

宇津木見世小照こと本名たね…源やん、これ一緒や???」😳


「なっ?

せやさかい、そんなもん夢中になって喜んでたらあかんのや」


「えぇ…ガーン

ひとつてんはつきしやうもんの…

ひとつてんはつきしやうもんの…一緒や。

わたくしことねんあけさふらえば…

わたくしことねんあけさふらえば…一緒❗️

ごじつのためよって…

ごじつのためよって…い、一緒や一緒や❗️

うつぎみせこてることほんみょうたね

うつぎみせこてることほんみょうたね…一緒やぁーっ‼️

げたやきろくさま

ぶつだんやげんべえさまここ違う‼️‼️


「当たり前やないか!

そこまで一緒でどうすんねん⁉️」


「こんなん書いてわたすのん、あんた1人やでぇ〜なんて言ってたのに!

バカにしやがって、ホンマに…😭💢」


「なっ?だから言ったやろ?

ああ、大声で喋りな!

おしゃべりの清八(せいはち)が来た…!」


「…また出直してくるわ、源やん」


「なんや、ここまで来てるのに。

気の悪いことせんと入ったらええがな!」


「…そうか?ほな上がらせてもらうわ。

…源やん。気の悪いことすなっちゅうたな?

わい…オマエに何かしょうもないこと喋って迷惑かけたか?

ここへ来るなり「喋りの清八が来た」とこう言うたな?

なるほど、ワシは喋りか知らんけども、人の悪口やら噂は言い回ったことはないぞ⁉️」ムキー


「いやいや、違うがな。

短気やねんからホンマに。

今こっちで喜六が女のことでノロけたり笑ったり泣いたりするから『アホなことしゃべりな』って言ったところへアンタが来たから『しゃべりな。清八が来た』とこうなっただけや。」


「喋りの清八〜と違うんか???」😳


「誰がそんなこと言うかいな。

喋りな〜!あ、清八と…こうや!」


「ああ、な〜んや!スマンスマン!

カーッとなると目も見えんようになるもんでな😅

おお、喜六がおったんか!

オマエが女から起請⁉️

えらい色男になったもんやなぁ〜❗️

ついこの間までトンボ追いかけ回してたと思ってたのに。

起請かぁ〜、ええなぁ!

ちょっとそれ見してくれ!」


「え…でもこれ…」


「何をぶつぶつ言うてんねん。

見せたって減るもんやないやろう?

こっち貸せって!

ふ〜ん、どれどれ…?えらい字やなぁ〜。

『ひとつてんはつきしやうもんのこと』

こんなん読んでたら肩が凝るわ…。

『わたくしことねんあけさふらえば』

候ぐらい字で書いといてもらえよ。」


「チョボだけでもそう読めるんやろ?」


「知ってるんなら教えたれよ。えーと…

『あたさまとふふに』…なんやこれ?」


「あなたさまの『な』と夫婦の『う』が抜けてるんや」


「…人間が抜けてたら、貰うもんの字まで抜けるんやなぁ。

『なりさふらうことじつしやうなり

ごじつのためよってくだんのごとし』

うわぁ〜立派に書きよったなぁ。

『げたやきろくさま』…商売付きかいな。

『うつぎみせこてることほんみょうたね』

おお〜、本名付きやな!

おたねはんっちゅうのか!

おい、色男!鼻が出てるぞ!鼻かめ。

よっ、おたねはん、おたねはん!おた…?

…🙄

…喜六、このウツギっていうのは難波新地の宇津木のことか?」


「そうや」キョロキョロ


「あそこにいてる小照っちゅう女やったら、若く見えるけどもう22やで」


「そうや。源やんと一緒や」


「源やんは今年28やないか?

何を訳のわからんことを…。

前、堺の新地に出てて、今度こっちに仕替え取ってきた?」


「そうや!やっぱり源やんと一緒や、ププッ」ニヤニヤ


「何が源さんが仕替え取らなあかんねん。

あの小照?…あの小照かぃ⁉️」


「源やん…もう1枚出そうな…」滝汗


「わちゃぁ〜…」滝汗


「おっ、おい?どこ行くねん⁉️」


「喜六❗️止めんかい!台所行った…❗️

あっ、コラコラ!

出刃包丁なんか振り回したらいかんって‼️

コラ、喜六!何をゲラゲラ笑ってんねん‼️

オマエのためにこんなことが起こってるんや。

早く止めんかいな❗️」


「大丈夫やって。それスリコギや」


「え?…あ、ホンマや。

スリコギ振り回して何してんねん…」😓


「ん?これスリコギか…。

…バカにしやがって、ホンマに。」


「清八…こっちも諦めよかって言うてたんやし、オマエも…な?」


「…そっちはどうやってこの起請もらったか知らんけどな。

ワシがこれを書いてもらうにはなぁ…ひと通りやない訳があるんや!」えーん


「おいおい…泣いてるで、おい。

何かあるんか?」




この清八が小照と出会ったのはある日に堺で仕事があり、仲間と女郎屋へ遊びに出かけた時のこと。


仲間とのくじ引きの結果、清八がそこにいた女郎の中で飛び抜けて美人であった小照と一晩過ごすことになりました🌙


「美人は寝間が悪い」

つまり顔のいいのは素っ気ない態度が多いと言われていましたが、小照は勤め気離れたもてなしようです。


そのもてなしように清八は驚きます。



「あなたみたいな人のお相手ができて嬉しい。

年季が明けたら一緒になりたいわ」



という言葉には女郎の言うことを間に受けたらいかんと思ってはいますが、しかし小照をすっかり気に入った清八。

それを機に毎晩のように店に通い、本物の恋人のような逢瀬を楽しみます。



ところが堺での仕事を終えて大阪へ帰ってからはすっかり店から遠のいてしまいますが、そんなまたある日のこと。


仕事を終えて家へ帰ろうとする途中に小照がいます。



「小照⁉️おまえ、どうしたんや???」


「あんたに逢いたさに堺からこっちへ仕替えを取ってきたの。」


「えっ!オレのために…⁉️」


「あんたの家がここやとは聞いてたけど、家に入れてもらうわけにもいけへんし、お母はんに挨拶することもできひん。

とにかくあんたと話したいことが溜まってるから、ここの店に来て!」



なけなしの金をかき集めて小照のいる店へ行っていろいろと話していると、実は今20円(50万円前後)という金がいるという話をされました。


景気の良い仕事もなく20円どころか火の車の生活です。



「わてが頼んだら20円くらいの金、すぐに段取りしてくれるお客さんはいるけど、そんなことを頼んだらあんたと所帯を持つ時の障りになったらいかんと思うさかい、これだけはあんたの手でこしらえて欲しいの。

こっちへ来るについてあちこちに無理ができてるし、どうかお願いします。」



そこまで言われれば何とかしてやろうと思いますが、帰っても大した金はありません。

仕事場の親方に借りようにも既に無理を言ってあるような状態です。


家の不要な道具を売っても焼け石に水。

とても20円には足りません。


仕方なく商家で奉公をしている妹のところへ向かいます。



「すまん。

奉公してるお前に心配かけまいと言わなんだが、たった1人の母親が明日をも知れん大病で、人参という高薬がいるんや」



すると話の途中で涙を浮かべた妹。



「まぁ…わてに甲斐性がないばっかりに兄さんにそんな苦労させて…。

ちょっと待ってて」



そう言って中へ入ると大きな風呂敷を持って出てきました。



「これを売るなり質に入れるなりしてお金に替えてもらいたい。

あとここに別に50銭ある。

これで兄さんに車(人力車)に乗って帰ってと言いたいけど、重いやろうけどこれでお母はんに好きなもんの1つでも食べさせてやって!」


(ああ、嘘ついてすまん…!

こんないい妹を騙すのはホンマに罪なことやけど、いずれあいつがお前に代わって孝行をしてくれることになれば、いつか笑い話にもできるやろう。)



そう言って心の底から手を合わせました🙏


しかしそれを質へ持って行っても中は木綿などの安いものばかりで大したお金にはなりません😥


明くる日にもう1度妹のところへ行って話をします。


しかしその店の中で毎晩のように男が会いに来ることを心配したこの店の番頭さんや主人。

とても良い人で、事情を話すと給金の前借りをさせてくれました。



そうしてやっとのことで作った20円というお金。

小照の前に出してあげました。



「おおきに…ありがとう!」



と言うかと思えば、1円札や50銭玉など大小いろんな金の混じった20円を見て、



「清八さん、これは銭の見本?」


「お前の目にはこれが銭の見本に見えるかわからんけども、これには人間1人の涙が入ってるんや。

そう思って使ってくれ」


「…清八さん…。

わて、もうこの金いらん」


「なんでや⁉️」ガーン


「職人さんというのは気散じ(きさんじ・気苦労のないこと)なもんやと思って私らみたいなもんでも末始終(すえしじゅう)苦労も共にしようかと思ってたけど、そんなに折り目切り目の挨拶もいる堅苦しいお家やったら私みたいなもんとても務まらんさかい、もう今日までの縁やと思ってこれを持って帰って…。

私は二度とあんたに会いまへん」



今更そんなものを突き返されてもどうにもできません。



「いやいや、すまんすまん。

これはワシが言い過ぎた。

どうぞこの金、難しいことも何もない!

気の済むように使い捨ててくれ!」



と、頼んで取ってもらうような始末です。

その時に小照が



「えらいすんまへん。

私の気持ちはこうこうや…」




「…って言って渡してきたのがこの起請や‼️

騙されたワシはアホで済む。

でも…でもなぁ、暑いにつけ寒いにつけ、奉公してる妹がワシは不憫で…」えーん


「ほぉ〜…話を聞けばそりゃ最もや」


「妹が不憫…!可哀想で…!」


「あ、不憫なわやぁぃ〜〜!

ツケテンテン ツンツクテンテン♫」


「おいっ、三味線弾いてる場合か!」ムキー


「つい芝居を思い出して…」😅


「アホ。

いやいや、実はな清八。

ワシも貰ってるんや、小照に」


「なんやて⁉️源やん、お前まで⁉️」


「いやいや、もう聞かんといてくれ。

ワシは起請まで書いてはくれたけども、よそから真夫(まぶ・本命)があるってなことを聞いたもんでな。

それで足が遠のいてたからワシはそんなひどい目には遭ってはおらんのやが、仲のええ友達3人でこんだけ振り回されてるのには黙ってるわけにいかんで」


「だからここは一番、ワシが暴れ込んで…」


「そんな手荒いことしてお前が罪になったらどうすんねや?

それより、これから3人揃って出掛けよう!

それで…ヒソヒソ」



こうして3人揃って難波へ向かいます。