前編はこちらから↓
しばらく経って…。
「…遅いねぇ、どこに行ったんだろう?
おやっ?おお、文七(ぶんしち)❗️
やっと帰ってきたか❗️」
「旦那、遅くなって申し訳ありません。
途中、昔の馴染みに出会ってつい話し込んでおりましたら遅くなってしまいました。」
「…そうか。
掛けは頂いてきたか?」
「は、はい!頂いてきました!」
「その払いはどこにある?」
「こ、ここにございます!」
「?…そこにあるのか?」
「はい。…これでございます。
同じく掛けを取りにきた誰かが間違ったようでして財布は違っておりますが、こちらに入れて参りました。
次の勘定日にまた自分のものを返してもらってきますので…どうぞ、お改めください」
目の前に出した50両。
それを目にした店の旦那と番頭2人が顔を見合わせて不思議そうにしています。
「?…番頭さん。確かに50両あるね…。
どういうわけなんだろう?」
「ふ〜む、文七。この金…どうしたんだ?」
「ど、どうって…。
掛けを頂いて参りましたが…」
「文七。私はいつも言ってるだろう?
お前さんは本当に囲碁が好きだ。
前に私が夢中になりすぎてはダメだぞと、うんと叱ったことがあったな。
お前さんがそれから気をつけると言うから大目に見ているけど、なぜまたそんなに夢中になるんだ?」
「?…は、はぁ」
「今日…得意先に行って掛けを頂いた後、御用人のナカムラ様が碁を囲っておられたのを、そばに座ってずーっと見ていたそうじゃないか。
するとそのうちにナカムラ様のお相手をすることになったが、門限が近くなった時に慌ててオマエがお暇(いとま)をした。
その後だ。
ナカムラ様が碁盤を片づけると、その下から財布が出てきた。
きっと文七が忘れたのだろうと心配をかけまいとしてすぐにこちらへ使いを寄越して届けてくださったんだ。
なので、もうその金は今ここにある。
となると、この金…50両という金が増えたんだ。
お前、この金をいったいどうしたんだ?」
「え"っ…⁉️
じっ、じゃぁ私は…金を忘れてきてたんでございますか…?
取られたんじゃないんですか⁉️
あわわ…こりゃぁ大変だ‼️」
「なんだ?どうしたんだ?」
「なんだじゃありません…!
今年17になる娘が女郎になって悪い病気に…❗️」
「これこれ…落ち着きなさい。
オマエに17の娘がいるわけないだろ?
何があったんだ?」
文七は橋の上であった出来事を2人に話します。
「なんと…聞いたかい、番頭さん?
50両恵んでくれただなんて…。
今時そんな御奇特な方がいるんだねぇ…」
「嘘じゃないな?
はぁ〜…それはよかったなぁ〜。
で、それはどこの何というお方だ?」
「そ、それが…どこの何という方かを仰らずに行ってしまいました…」
「そりゃお前が聞かないとダメじゃないか」
「は、はい…。
ですが、いきなり私にその金をぶつけて逃げていってしまいまして…」
「不思議な人がいるんだな…🤨
お金を取って逃げていくのは聞いたことあるが…。
何か覚えてないのか?」
「えーと…何か、女物の浴衣を着てまして、あと〜…あ、職人の方なんだそうで…」
「女の浴衣を着た…職人…?」🤥
「はい。そう…左官屋だと確か。
博打にハマってその借金を返すために娘のお…お〜…今年17になるおし…おしん、いや、おしま…違うな。
おし…おひ…あっ、お久さん!
お久さんが吉原の…何とかいう店に身を沈めてお金をこしらえてくれたと。
来年の大晦日に返さないとそのお久さんが店に出されて悪い病にかかって…❗️」
「おいおい…まぁまぁ落ち着いて。
泣くんじゃない。」
「ふ〜む…なるほどなぁ。
しかしだいぶわかってきたぞ。
手がかりがあったじゃないか。
その女郎屋の名前は覚えてないのかい?」
「それがその時は私も夢中でして…忘れてしまいました。
そうですね…あっ、なんでも吉原でも大店だと言ってました。」
「大店だと言われても、ワシは吉原に詳しくなくてなぁ。
番頭さん、知ってるかい?」
「え"っ…い、いえいえ‼️
私なんてとんでもございません!
吉原がどこにあるのかもよくわからないのでございますけども、ええ。
いや、しかし人間聞いたものは必ず思い出せるものです。
何とか引き出せるようにしますので…。
文七、順を立てて考えよう。
例えば…店の名前は長いか短いか?
『屋』が付いたかどうか?」
「えーと…吉原の…吉原の〜○△という…いや、長くはございませんね。
吉原の○☆…屋も付いてございません。」
「よしよし。じゃ『楼』はどうだ?」
「…いや、楼も付きませんね」
「よし、だんだん近づいてきてるぞ。
屋も楼も無い。
もう一度『娘のお久が〜』から言ってみなさい。
思い出すかもしれないから」
「はい。
娘のお久が吉原の§⁂…今年17になるお久が吉原のs…吉原のさ…んっ?
吉原のさ…『さ』が付きます❗️
吉原のさ£…吉原のさの…ハッ!
吉原の『さの』なんとかです‼️」
「❗️…佐野槌かっ‼️」💡
「そうです‼️それです、佐野槌‼️」
「そうか!よく思い出した!
旦那、佐野槌ですよ!
吉原の京町2丁目にある立派なお店で〜…!
え〜…大変なお店だトイウコトヲ伊勢屋の番頭さんがオッシャッテマシタ。ハハハ」🤖
「ふむっ!
伊勢屋の番頭さんに礼を言わないとな
よし、番頭さん。ちょっと相談を…」
何やらヒソヒソと話をして夜が明けます。
ところは変わって長兵衛さんの家では大喧嘩の真っ最中🔥
「何度もうるせーな‼️
なんべん言やぁ気が済むんだ⁉️
だから身投げしようとしてるやつにあげちゃったんだってずーっと言ってるだろ⁉️」
「そんなこと信じられるかい‼️
だからってそんな大事な金をあげちゃうなんてどうにも納得いかないよ⁉️
どこの何て人だい⁉️」
「それは聞いてねぇからわからねぇ❗️」
「そんなことお前さんが聞かなくったって向こうからなんか言うもんだろ⁉️
礼くらい普通言うだろ⁉️」
「いや、だからぁ!
その金をそいつにぶつけて帰ってきちゃったんだよ!」
「そこっ❗️
そこが私はわからないの!
悪いことしたわけじゃないだろ?
50両恵んでやってるんだよ⁉️
なんで叩き付けて逃げてこなきゃいけないのよ?」
「だってそいつが強情であーだこーだ言って受け取らねぇからこっちもカーっと来て、投げて逃げてきたんだ!」
「またそこがわからないんだよ❗️
50両無いと死ぬって人がどうして50両恵んでもらって『いらない』って受け取らないわけ⁉️」
「そんなこたぁよくわからねぇけどよぉ!
だから投げてきたんだ!
いい加減にわかれっ!こんちきしょう!
成り行きでそうなっちゃったから、オレもよくわからねぇんだよ❗️」
「いろんなこと話してそんな金を渡してきてるんだからなんか覚えてるだろ⁉️」
「何にも覚えてねぇんだって❗️」
「覚えてない…?
そんなわけにいかないだろ?
…さぁ…何とか思い出してもらおうじゃないか」👹
「…火箸取り出して何しようってんだ⁉️」
おっかさんは火箸を長兵衛さんの顔の前へ。
「(プラプラ)…何って…。
(プラプラ)…そんなのわかんないよ?
さぁ、どこの誰だい⁉️」
「いや、待て待て!待てって❗️」
「あの〜…ごめんくださいまし」
「はっ、はーい!だっ、誰か来た。
誰か来たからちょっと待て!
とりあえず火箸を置けって
その格好見られたくないならその屏風の裏に隠れろ。
えっ、はーい!
ちょっと片付けものしてるから待ってくれ!
覗いたりしたら火箸が飛んでくぞ!
早く隠れろって!頭隠せ!尻が出てるよ!」
何とかかんとか表を開けると見慣れぬ人が数人で立っています。
「あの〜左官屋の長兵衛様のお宅はこちらでしょうか?」
「ふふっ。
そんな堅苦しく言われちゃくすぐったいね。
長兵衛はオレだけど、アンタ誰だい?」
「私は隣町のべっこう問屋の近江屋宇兵衛と申します。」
「ああ、べっこう屋さん?
じゃあウチじゃなくて、家主だったら用事があるよ。
あそこの女将さんは頭のもんには金かけるからねぇ。
ウチのかみさんには用事がねぇや。
じゃっ、お引き取りを…」
「あ、いえいえ。違うんです。
あなた様に用事がございますので、恐れ入りますがちょっとお邪魔を致します。
これっ、文七!こっちにお入り。
お前が言っていたのはこのお方か?」
「じーっ…ハッ!旦那!このお方です!
間違いありません。
親方っ!昨晩は危ないところを助けてくださいまして…誠にありがとうございました!」
「昨晩?…んっ?
おめぇ、よく顔を見せろ。
ははぁ…おめぇだぁ!よく来た!
来たぞー、チキショーめ!
おうっ、オレは橋でおめぇを助けたな⁉️」
「は、はいっ!助けて頂きました…」😭
「50両の金を恵んでやったな⁉️」
「はいっ!恵んで頂きました!」
「ふふっ♫
ほ〜れ、見ろ❗️
嘘なんかついてねぇだろ、このバカ‼️
えっ?あ、いやいや、独り言でござんす。
いや〜よく来てくれたなぁ。」
「昨晩はこの文七が大変にお世話になりまして、何とお礼を申してよいやら、お詫びをしたらよいやら…」
昨晩、あの金はスリに遭ったと勘違いしていたことを長兵衛さんに話しました。
「なんすか?こいつの勘違いで…?
バカ‼️こんちきしょう。
誰もいなかったら飛び込んでるところじゃねぇか!
おめぇが死んで金だけ出たってどうすんだ、ホンットに…❗️」
「本当にご迷惑をお掛けしました。
それでまずはこのお金をお返し致しますので、どうかお受け取り頂きたいと…」
目の前に50両の金が出されます。
「い、いえいえ。
こんなもん受け取るわけにいきませんよ。
その金はそいつにやっちゃったんだから。
今更返してくれなんて言えないね。
やったんだからそいつが使えばいっ…!
い、いやいや、一旦やったんだからそいつのかnっ!
袖引っ張るんじゃねぇよっ❗️
や、やったものを…また返っ!イデデデ!
いやだからね、そいつはそのうち店持つんでしょ?
じゃその金はその時につかっ…❗️
く、首絞めるんじゃねぇ…離せって…だーっ、こんちきしょう!
イデッ❗️火箸で突くんじゃねぇよ!
いつの間に持ってやがったんだ」
屏風の裏から鬼の形相をしたおっかさんが見えますが振り切ります👹
屏風の方を向いたまま話す長兵衛さん。
「はぁはぁ…いや、だから!
一旦あげた金を返してもらうなんて気持ち悪いことはオレはできねぇんだよ!
何?お久?お久はわかってるよ!
お久はオレが何とかするんだから!
えっ?金?うん、出たんだ。
出たんだそうだけど…う〜ん…そりゃそうだけどもさぁ…う〜ん…わかったよ、ったく…。
ゴホン!
あの〜…今、親類一同で協議致しました結果、これはせっかくだから頂いておいた方が良かろうということになりましたので、これは頂いておきます。」
「おお、早速ご承知くださいましてありがとうございます。」
「先に言っときますが誰にもいっちゃあいけませんよ⁉️
一旦やったものを返してもらったなんて仲間に知れたら何言われるかわかったもんじゃねぇんだから」
「それから、お願いがございまして…」
「なんです?もう何も頂きませんよ?」
「実はこの者は文七と申しまして、長くウチで働いております。
大変正直者で、律儀な者でございます。
そろそろ一軒の店を持たせようかという話が出ておりますが、幼少の頃に二親に死に別れましたので身寄り頼りがございません。
店を持つには後見人が必要となりますので、昨晩命を救って頂いた命の親ということで、親方様にその代わりになって頂けないかと思っているのですが、ご承知頂けませんでしょうか?」
「えっ?こいつの?
オレなんてそんな性分じゃねぇんですが、後見人ですか?
こんな道楽者の親に持つと苦労するけど、構わねぇのか?
…そうか。変わってやがるねぇ。
じゃ、引き受けましょ」
「ありがとうございます。
では今度は私のお願いでございまして。
見ず知らずのお方に50両という大金を恵んでやるなんていうことは手前共商人ではとても考えられないことでございます。
それを親方はなすった。
誠に漢気(おとこぎ)のある立派なお方だと皆で感心しておりました。
ぜひ私どもとも親類付き合いをして頂きたいと思いまして、いかがでございましょうか?」
「バカ言っちゃいけないよ、旦那。
買い被りすぎだ、そりゃ。
ウチはこんな貧乏で、そっちは立派な屋敷に住んでる。
雲泥の差ってやつだし釣り合いが取れねぇ。
そりゃそっちがいいって言うなら構わねぇけどさぁ。
親類になるってぇなら困った時はちょくちょく借りに行くけど…いいかい?」
「ハッハッハ。
いえいえ、どうぞ。おいでください。
ありがとうございます。
ではこれは身祝いということでどうぞ」
「おいおい、もう何も受け取れね…んっ?
それ…ちょっと待ってくれよ?
それはそこの酒屋で売ってる…良いほうの⁉️
あら〜…これは頂いときます。
酒にゃ目がなくって…あらっ?角樽まで!
嬉しいねぇ〜!」
「それからあの〜…お肴なんていうものもご用意して…」
「いやいや、ちょっと待ってくれ。
あっしらはね、味噌舐めてるだけでも飲めるんだ。
肴を荒さねぇのが自慢だからそれは…」
「いえっ、もうあつらえて参りましたので、ぜひご覧ください。
おーい、こっちだ!」
そういうと長屋の狭い路地の前に駕籠がタッタッタッタッと走ってきます。
駕籠屋が駕籠をサッと開けると、そこから出てきたのは長兵衛の娘・お久です。
昨日までとは打って変わってキレイな着物に身を包み、煌びやかな飾りを頭に付け、化粧までした晴れ姿で現れました✨
「おとっつぁん…ただいま帰りました」
「んんっ?…あれっ?
お、お久…?お久じゃねぇか❗️
ど、どうしたんだ、そりゃ⁉️」
「私…この旦那様に身請けをされたの」
「えっ⁉️旦那が身請けを⁉️」
「このお肴…お気に召してございますでしょうか?」😄
「は…ハハ…大好物でございますよ〜」😭
思わず平伏する長兵衛さん。
「ありがとうございます…!
これで親子のものが助かります。」
「そうですか!いや〜よかった!
ささ、娘さんは近くへどうぞ」
「おとっつぁん。
おっかさんはどうしたの?」
「おっかぁいるよ!
おっかぁは…あ、辻の間に入ってらぁ。
お、おーい!お久が帰ってきたぞ!
そんな屏風の裏に隠れてねぇで、ほら!
おい、お久。おっかさん呼んでやんな」
「うん。
おっかさん?おっかさーん!」
長兵衛さんから渡された半纏に腰巻きだけじゃ人前に出ていけない。
おっかさん、ずーっと屏風の裏に隠れていましたが、娘のお久さんに呼ばれてはいても立ってもいられません。
パーっと飛び出して、親子がしっかりと抱擁をする!
嬉し涙に暮れたと申します。
このお久と文七が一緒になりまして、麹町で元結屋を営みました。
『文七元結』という一席でございました。
〜終〜
さて、いかがでしたか?
最後までお読み頂きありがとうございます。
さてこの文七元結。
江戸〜明治を生きた稀代の落語家・初代三遊亭圓朝が創作したお話です。
作中の文七は実在した人物をモデルにしたとされております。
このお話。
いかに長兵衛さんにとっての金の重みや葛藤、金を受け取った文七の焦りなんかを演じるかが噺家さんの腕の見せ所です💪
ただでさえ尺が長い上に、この重い話の中にも笑いを取り入れないといけないという
重過ぎてもダメ、軽過ぎてもダメ
という本当に噺家さんの腕や技量が試される難し〜い演目なのでございます。
しかし何度聞いても本当に面白いお話です😆
ぜひこのゴールデンウィーク。
お時間や機会がありましたらYouTubeなんかでもありますので、「文七元結」でご覧ください♫
ではまた(^^)