日本語というものはとかくいろんな言い回しがあります。
江戸っ子らしいべらんめぇ口調やら、同じ大阪でコテコテの関西弁があるかと思えば船場言葉なんて上品に話すものもある。
江戸時代では一般人とお武家様の言葉も随分違います。
落語でもよく一般人と侍が話す場面が出てきますが、一般人が侍の言葉をイマイチ理解してないという描写がたびたび出る。
さらに格式の高い言葉なんてのになるとこれまた大変です💦
方言でもないのに日本人同士がわからない言葉ってのはどういうことなんでしょう?笑
まぁ今でも堅〜い言葉というのは使われてはいるのですが、普段から聞き慣れない言葉ってのはなかなか耳にスッと入ってこないもんですねぇ😅
〜ストーリー〜
ある日、大家さんに呼ばれたはっつぁん。
「あっ、どーも。大家さん♫
いや〜最近はちょっと仕事が無くってね〜。
まぁ来月になったらまた仕事が入ってきますからその時に…ねっ♫」
「…何の話してんだ、お前は?」
「何って…。大家さんがわざわざ呼びつけるんだからアレでしょ?
チンタナのことでしょ???」
「なんだその、チンタナってのは?」
「店賃(たなちん)をひっくり返したんですけど」
「つまらないことするんじゃないよ。
違う。そんなことで呼んだんじゃないんだ。
はっつぁん…お前さん今年いくつだっけ?」
「へへへ…お恥ずかしいねぇ。
自慢じゃないけど今年32だよ。
うまくいきゃあ来年は33なんだ。」
「別にうまくいかなくても来年は33だよ😓
いや実はね…そろそろ身を固めないか?」
「身を固める?
そりゃ大変だねぇ…藁を土でコネて?」
「左官の仕事じゃないんだよ…。
嫁をもらいなさいってこと!」
「お嫁さん⁉️
お…お嫁さんってぇとその…あなたの前だけど…女か⁉️」
「当たり前だろ…?
男の嫁なんてのは世話しないよ。女だ」
「へぇ〜っ!
あっ、でも仲人ってぇのはいいことばっかり言って後からガッカリするなんてよく聞くんだ。
先に聞いとくよ。
まず…歳は?
自分で言うのもなんだけどねぇ、頼りないんだあっしは。
ちょっとくらい小言の言える年増じゃないと〜…って言ってもあれだよ?
来てみたら80超えてるなんてのはダメだよ?
かと言って今年生まれたばかりってのも…」
「うるさいなぁ、お前はもう!
そんなもん世話するわけねぇだろう?
歳はハタチだよ」
「ハタチぃ〜?オレより12も若いの⁉️
いや若くて文句は無いけどさぁ。
オレのところにそんなのが来るってことは…あぁ〜そうか。
嫁入り道具が無いとかだろ?」
「そんなことはない。
夏冬の道具くらい持ってくるよ」
「夏冬の道具ねぇ…。
コタツとウチワじゃないでしょうね?」😒
「バカ。
タンスの2竿くらいは持ってくるだろ。」
「ふ〜ん…タンスねぇ🙄
あっ、そうか💡
ってことは器量が良くねぇんだろ?」
「いやいや、まぁそう言っちゃ何だが、ありゃ並よりよっぽど優れてるね。」
「ホントかよ〜?
年が12も若くて器量もいいと。
あっ、ハハーン。何か傷でもあるね?」😏
「それがねぇ〜…あるんだよ」
「あるのかよ…!
その言い方は『無いんだよ〜』って来るのかと期待しちゃったよ。」
「いや〜…まぁ何というかなぁ…。
聞かれたからこそ尚更言うんだが、実は傷がある。」
「ハハっ。まぁね。
そりゃそうだと思ったよ!
キズモンじゃなきゃオレのとこへなんか来るわけねぇんだから。
何?横っ腹かどっかに穴でも空いてんの?
水飲むとそこから出てくるのか?」
「そんな壊れた水瓶みたいなのがいるかよ。
傷というのはな…」
「わかってるって、大家さん!
口がこーんな裂けてるんだろ?」
「バカ。黙って聞きな。
実はこの傷というのはなぁ…。
言葉が丁寧なんだよ」😅
「へ?😶
…何言ってんだよ〜。ヤダなぁもう。
いーっつも大家さんがオレに言うじゃねぇか。
『はち公、お前は言葉がぞんざいでいけねぇ。
丁寧な言葉遣いを覚えなきゃ笑われるぞ』
って小言食らわしてくるのはあんただろう?
言葉が丁寧ならけっこうじゃねぇか」
「ところがね…ものには『度』というのがあるんだよ。
丁寧な上に『バカ』が付くんだ。」😥
「へぇ〜…バカ正直ってのは聞いたことあるけど、バカ丁寧ってか。
どういう風に???」
「この前、風の強い日があったろ?
表でバッタリ会ったんだ。
すると深々と挨拶をされて、
「これはこれはお家主様。
コンチョウはドフウはげしゅうして
ショウシャガンニュウしてホコウなりがたし」
(今朝は怒風激しゅうして小砂眼入して歩行成り難し)
…とこう来たんだよ」
「ヤケドのまじないか何かかい?」
「いやいや、コンチョウは今朝(けさ)のことだな。
つまりは風が強くて目に砂が入って歩きにくいってことなんだ…。
これが挨拶だよ?
私も何か返事をしなきゃいけないと思ってたところに横の道具屋の中でタンスと屏風が見えたからさぁ。
いかにもスタン、ブビョウでございますって言ったら向こうが目を丸くしちゃってたよ」
「大家さんも大家さんだねぇ…
さすがだよ。」
「バカやろう。褒めることじゃねぇよ。
まぁ京都のさるやんごとなきところへ勤めていたせいらしいんだがな。
それが傷といえば傷なんだが…どうだい?」
「へっへっへ…
冗談じゃねぇや、大家さん…くれ♫」🫱
「手ぇ出すんじゃないよ
じゃあ吉日を選んで婚礼としたいんだが…吉日が近頃に無いなぁ。
う〜ん、来月…」
「えぇ〜!そんなに待てませんよ。
思い立ったが吉日っていうし、そこんところは『よしっ、今夜だ❗️』とかポーンと言ってくださいよ」
「おっ、いいこと言うね♫
なら今夜にしようじゃないか。
何はともあれ婚礼なんだ。
掃除して身綺麗にしておきなよ」
そう言って大家さんが出て行きます。
「いや〜何のかんの言っても面倒見のいい大家さんだなぁ。
ありがてぇや。
嫁さんまで世話してくれるなんてなぁ〜♫
独りもんってバカにされてきたけど、今日からは2人だ!
おっ、隣の婆さん!
今夜はいいことがあるよ♫」
「あら、はっつぁんかい。
いいことって言うと婚礼でもあるの?」
「そうなんだよ、婆さん〜♫
おめでとう」
「私に言ってどうすんだい😓
へぇ〜…じゃあはっつぁん結婚するんだねぇ。
おめでとうねぇ。
ウチの中キレイにしとかなきゃいけないよ。
何かお手伝いすることがあったら言いなよ」
「ありがとう婆さん!
早速なんだけど火種もらえねぇかい?」
「はいはい、そっち持っていくよ」
「あ、いいよ。
隣なんだから壁の穴からわたしてくれ。
これから覗いちゃダメだよ、婆さ〜ん」
もらった火種で七輪に火を起こします。
「いや〜嫁さんかぁ。
オレのことなんて呼ぶのかな?
あなたー♫なんて?へへへ
差し向かいでメシを食うよなぁ。
『あなた。お茶漬けなんてどう?』
『おうっ、いいねぇ♫』
な〜んて言うと向こうが先にちょっと米を装ってなみなみと湯を入れてサクサクっと食べるんだ。
箸が茶碗に当たってチンチロリ〜ン♫
たくあんだって小さい口で食べるからポーリポリッつって。
かわいいなぁ〜💕
オレはもうちょっと豪快に米を入れて湯も少しでいいからザクザク食べるよ🍚
箸が茶碗に当たったらゴツゴツ言いやがる。
たくあんなんか丸ごとかじるからバーリバリってなもんだ。
サークサクーのチンリロリン♫
ザークザクーのゴーツゴツ♫
チンチロリンのポーリポリ♫
ゴーツゴツーのバーリバリ♫
サークサクーのチンチロリン♫
ザークザクーのゴーツゴツ♫」
「うるさいねぇ、もう❗️
何やってんだい⁉️」
「覗いてんじゃねぇよ、婆さん‼️」
そう言いながら大家さんが件の嫁さんを連れてやってきました。
大家さんは長居は無用だと言って、話が終わるとそそくさと出て行ってしまいます。
「あっ、あの〜どうもどうも。
今後はひとつ兄弟同様に…ねっ。
ところであの〜…大家さんからあなたのお名前を聞いてなかったもんで、ちょっと教えてくれませんか?」
「はい。
自らことの姓名を問いたもうや。」
「!…これか…
いやあの〜オレはハチゴロウで、大家さんはセイベイさんって言うんだよ。
あなたのお名前を聞きたいんだ」
「自らことの姓名は、父はもと京の産にして、姓は安藤、名はケイゾウ。
字(あざな)は五光(ごこう)と申せしが、我が母33歳の折、ある夜、丹頂(たんちょう・鶴)を夢見てわらわを孕めしが故、垂乳根(たらちね)の胎内を出でし時は鶴女(つるじょ)、鶴女と申せしがそれは幼名。
成長ののち、これを改め清女(きよじょ)、清女と申し侍る(もうしはべる)なりぃ〜〜〜っ」
「はべったねぇ、こりゃあ…
それ、あなた1人の名前⁉️
そりゃとてもじゃねぇが覚えきれねぇや。
ちょっとここに書いてくださいな。
なるほどねぇ〜。
ふ〜む、大家さんが言う通り難しいや。
あっ、書けた?何々…?
ミズカラコトの〜セイメイは〜
チチは〜モトキョウのサンにして〜…
セイ〜は〜アンド〜、ナは〜ケイゾウ〜…
あざ〜な〜は、ご〜こ〜お〜と〜…
…
…成長〜の〜のち〜
こ〜れ〜を〜あ〜ら〜た〜め〜
キ〜ヨ〜ジョ〜、キ〜ヨ〜ジョ〜と〜
申ぉ〜〜うし〜はべ〜る〜なぁ〜りぃ〜〜」
チ〜〜〜〜〜ン…
「ナンミョ〜…」🙏
「隣の婆さん❗️
念仏につられるからやめてくれ❗️」
そんなこんなで真夜中🌙
この嫁さんがはっつぁんの枕元にて。
「あ〜ら、我が君(きみ)。
あ〜ら、我が君。」
「…うっ、う〜ん。ふわぁ〜〜〜ぁ。
…な、なんスか?もう夜が明けたんすか?」
「一旦偕老同穴(かいろうどうけつ)の契りを結びし後は、百歳(ももとせ)、千歳(ちとせ)を経るといえども、君ココロ変ずることなかれ…」
「あらかしこ、あらかしこ…🙏
…じゃないや。
なんだかよくわからねぇよ〜。
とりあえず早く寝よう。」
カラスがカーで夜が明ける☀️
当時の奥さん達は旦那には寝顔を見せないということで朝が早い。
この嫁さんも例に漏れず早起きです。
「あ〜ら、我が君。あ〜ら、我が君」
「う〜ん…その起こし方何とかならない?
友達から『ワガキミのハチ公』なんて言われちゃうよ。
どうしたの?」
「シラネの在処、いずくなるや?」
「シラネ…?
シラネなんてオレはシラネェ」
・・・
「…笑わねぇなぁ、オイ。
シラネってな、何だい?」
「自らが尋ねるはヨネのこと」
「あらっ!ヨネちゃん知ってんの?
同い年なんだよ、あれ」
「いいえ、人名にはあらず。
俗に申すコメのこと」
「早くそう言ってくれよ〜…」
さて御御御付け(おみおつけ)。
味噌汁ですね。
これを作ろうと思ったら入れるミ(具のこと)がありません。
そこへ家の前を朝商いのネギ売りが通ります。
「ねぎや〜ネギっ。いわつき〜ネギ〜♫」
「のうのう。
門前に位置なすオノコやオノコ。
オノコや〜オノコ。」
「ん?…こっち見てる…。
ってことはオレを呼んでんのかな…?
まぁとりあえず行ってみるか。
へい、お呼びで。何でございます?」
「その方、鮮荷(せんが)のうちに携し(たずさえし)一文字草(ひともじぐさ)。
値(あたい)、何銭目になるか?」
「ひっ、ヒトモジグサ…?
あっ、こっこれですか???
これなら1束30文です」
「なに30文とや。
召すや召さぬや我が君に伺う間、門の石根(せきね)に控えておじゃ」
「へ、へへーっ!🙇🏻♂️
…って何だよ、芝居じゃねぇんだから。
ついやっちまったけど…」
「あ〜ら、我が君。あ〜ら、我が君。」
「寝てらんねぇな、全く…
はいはい、何だい今度は?」
「はや日も東天(とうてん)に出現(しゅつげん)ましませば、うがい手水に身を清め、神前仏前に御灯明(みあかし)な供え、御前召し上がって然るべし。
恐惶謹言(きょうこうきんげん・結びの言葉)」
「へぇ〜っ。
メシを食うのがキョウコウキンゲン???
じゃあ酒を飲んだら、
よって(酔って・依って)件の如しか💡」
〜終〜
さて、いかがでしたか?
非常〜〜〜にセリフの難しい…というかややこしい演目☠️
補足が多いよ…!笑
しかしこうして文章で見ると何となくわかるのも自分で書いていて面白いところでしたね。
ちなみに「垂乳根」(たらちね)というのは母親を差す言葉でして江戸落語の呼び方。
もともと上方落語であった「延陽伯」(えんようはく)を江戸落語に持っていったものです☝️
新米落語家の演目として教えられることが多いそうですが、寄席では大御所でも演じることの多いものです。
ゴールデンウィークお楽しみでしょうか?
後半も良いお休みを♫
ではまた(^^)