江戸の方には

「江戸っ子ってのはこうでなきゃいけない」

なんてものが根強くあったようです。

宵越しの金は持たないとか、
羽織は表は地味で裏地が派手な方が粋だとか。

特に金に関しては一旦渡したものを返されるなんてこんな恥ずかしいことはないというくらいのもの。

損をしようがどれだけ困ろうが、一旦決めたものは変えない!
良くも悪くもとにかく1度決めたら曲げないという気質が江戸っ子として粋な人だと気に入られていたようです。



〜ストーリー〜

「おやっさん…今日は何も言わずにうんと言って欲しいんですよ。」

「なんだい、急に…。
何も聞かない内からうんと言えって?
随分と無茶なこと言うじゃないか。」

「いや、お願いしますよ。
とにかく『うん』と言ってほしいんです。
じゃないとあっしの男が立たねぇんだ。
なので『うん』と言ってください。
そんな難しい話じゃないんですよ。」

「そうは言っても何もわからないのにうんと言って後からそれは無理だよって話じゃ困るじゃないかよ」

「そこをね、曲げてお願いしますよ〜。
話なんて後でいいんですから。
簡単な話なんですよ。」

「だから何なんだい?」

「金貸してください。」

「なんだ、金のことか。
そりゃお前さんとオレの関係だから、用立てないこともないけど…いくらほしいんだ?」

「へへ…50円(100万円くらいの感覚)です」😅

「50円…⁉️ガーン
3円や5円なら何とかするけど、50円となるとなぁ〜。
そりゃダメだよ。」

「そこを何とか!お願いします🙏
今日中に50円無いと男が立たないんです!」

「いや、そう言われたってなぁ。
あれば何とかするけど、無いんだから」

「無いってことは無いでしょう?」😒

「お前さんにオレの懐事情がわかるかい」

「わかりますよ〜!
こんな大きな下駄屋に、貸し長屋もいくつか持ってるんでしょ?
50や100くらいの金ありますよ」

「昔からこう言うんだ。

『あるように見えて無いのが金。
無いように見えてあるのが借金』

ってな。
50円なんてそんな大金じゃ無理だよ」

「いや〜でもねぇ。
無いとホントに弱っちまうんですよ」

「無いもんは無いんだ。
無い袖は振れないだろ?」

「あっしはねぇ!
今日金を借りるって決めてきたんですよ!
借りねぇうちはここを動きませんよ」プンプン

「何だそりゃ滝汗
それじゃこっちがオマエに借金でもあるみたいじゃないか。」

「いや、あっしはもう決めたことはやらねぇと気が済まねぇんだ。
5日経とうが10日経とうがここで待ってますよ!」

「オマエさっき『今日中に』とか言ってたじゃないか。
5日経って出たらどうすんだ?」真顔

「いやぁまぁ…そうなったらそれはそれでいいんです!
何が何でも今日は…」

「ふ〜ん…オレが警察呼んでオマエをしょっぴいて行ったらどうすんだ?」

「それでしょっぴかれて牢の中で死ぬようなことがあったら孫の代まで祟りますよ」ゲッソリ

「おいおい…穏やかじゃないね滝汗
何なんだよ、ホントに。
いいからまず話をしてごらんよ。」

「そうですか?それじゃ話しますがね…。
実は先月仕事が回らなくてホントに金がなくってね。
その日食うにも困るくらいでほとほと弱ってたんですよ。
そこへあるご隠居が目をかけてくれたんで。

『今、手元に遊んでる金が50円ある。
これ貸してやるから、持っていきな。
で、こりゃ無利息無証文の催促なしだ。
またお前さんが楽な時に、無理のない時に返してくれりゃそれでいいよ』

そう言って貸してくれたんです…!
こんな世知辛い世の中で、50円なんて金に無利息無証文の催促なしなんてねぇ。
楽な時に返してくれなんて、そんなこと言える人は滅多に会えるもんじゃありません。
あっしはその時に腹の中で手を合わせちゃったんです」🙏

「へぇ〜。
そりゃ立派な人がいたもんだなぁ」

「そうです!ありがてぇ!
そういう心持ちには応えないといけない!
だから決めたんです。
いい気になってウダウダ借りっぱなしじゃいけねぇ。
何とかしてひと月で返そうと決めたんですよ!
借りたのが今月1日。
で、今日が三十日。
相変わらず生活はにっちもさっちもいかねぇけど、ここで返さねえと初めに決めた自分を裏切るようでどうにも我慢ができねぇんです。
それで旦那にお願いに来たんですよ」

「はぁ〜、なるほどねぇ。そうかい。
そりゃ偉いじゃねぇか。
わかった。何とかしてみよう。
いや、無いのは本当に無いんだ。
でもそういうことだったら何軒か心当たりがあるから、頼んで回ってかき集めてくるよ」

「ホントですか❗️ありがとうございます❗️」

「あぁ、ただ時間はかかるかもしれねぇから、ちょいとここで待ってな。」


しばらくしてこの旦那。
いろんなところへ頼んで何とかお金を集めてきてくれました💴


「ほら。これで行っておいで。
お前さんの心持ちを聞いたらその方も喜ぶだろう。
誰だって何が何でも返すんだと、そんな気持ちのいい江戸っ子の心持ちを聞けば嬉しくなる。
早く行って返してきな。
帰りにはまたお茶でも入れるから寄っといでよ」


旦那にお礼を言って出て行きます。


(いや〜助かった。
あの人もこの辺りじゃ相当な強情者だ。
意地っ張りだが、オレには一歩及ばなかったなぁ。
こう言う時は引いた方が負けなんだ)ニヤリ

「あの〜…ごめんください」

「はい。いらっしゃい。
おお、おお。はっつぁんじゃないか。
仕事の方は上手くいってるかい?」

「いや〜その節は本当に世話になって…!
あの…これ。どうぞ」

「うん?なんだいそりゃ?」

「なんだいって…忘れちゃったんですか?」

「いやいや…私が用立てた金か?」

「そうです。50円お返しします。へへ」ニヤニヤ

「私がお前さんにその金を貸した時、何て言ったか覚えてないのかい?
『無理のないように楽な金ができたら返してくれ』と言ったはずだぞ?
見たところ楽そうには見えないが…?」

「へへへ…そうなんす。実は図星なんですよ。
生活はにっちもさっちもいきませんがね。
まぁ無理言って頼み込んで、無いところを用意してもらったんですよ。
そんなわけなんで、どうぞ」

「…真顔
ダメだ。受け取れないよ。」

「えっ!何でですか⁉️」

「だから貸す時に言ったろ?
『楽な金ができたら』って。
それが何だ、無理に用意してもらったって。
それが楽な金か?冗談言っちゃいけない。
そんなことまでして返してほしいと思ってないんだよ。
向こうの人へ返してきな。」

「いやっ、でもせっかくこうやってあっしがこしらえてきたんですから…」

「イヤなんだよ。
催促なしとまで言ったんだぞ。
いつだっていいんだから楽になったら返しにこい!」

「いやぁ…しかし、そこをですね」

「ソコもフタも無いんだよ!
おいっ、そこの木刀持ってこい!
持っていかないんだったらこれで頭叩き割ってやる❗️」ムキー

「ちょちょっ、ちょい待ってくださいよ!ガーン
さっ、さいならーっ!」


逃げるように金を持って店を出てきました。


(冗談じゃねぇよ…どうしようかな…)😰


一旦、もとの旦那の店に戻ることにしました。


「んっ?おお、戻ったかぃ。
向こうさん喜んだろう?」

「あの〜…それがその…これ…」

「あれ?…なんだ?行かなかったのか?」

「行ったんですけどね…。
お返しに上がりましたって、この金どうしたかも正直に言ったんですよ。
そしたら怒って追い返されちゃいまして…。
そういうことなんで、これお返しします」

「おい…何つった、今…?
『今日中に金がないと男が立たない』
ってそう言ってただろ?
それでこっちもいろんなところへ無理を言って作ってきたこの金だよ?
それがなんだ!
今更向こうが受け取らないから返しますたぁ。
そんなもん受け取れるか❗️」ムキー

「…いや…それじゃあっしの顔が立たないんで…」滝汗

「オマエの顔なんて立とうが横になってようがどっちだっていいんだよ!
それじゃ私の顔はどうなるんだ⁉️
いろんなところへ頭下げて回ったんだぞ」

「そりゃそうですけど、あっちもこっちも受け取らないじゃ、間に入ったあっしが困っちゃうじゃないですか。」

「間に入ったのはオマエの勝手だろう?
とっとと行って返してこい」ムキー

「そんなこと言ったってねぇ…。
いや、ホントにお世話になりました。
面倒かけてあいすいませんでした。ねっ。
心持ちはあっしもわかってますから、どうぞここはひとつ…」

「なんだよ、そりゃぁ…。
お前さん、向こうで話してきたんだろ?
自分の心に嘘つくようでイヤだって話したんじゃないのか?」

「それねぇ…話す暇がねぇんです。
いきなり木刀持ち出して頭叩き割るって言われたもんで…いやいや、うかっとしてたら本当にやりかねないんですよ、あの人は!
だから向こうじゃ木刀持ってますから…これ、こっちで受け取ってください」

「ほほぉ〜…😒
おーい、婆さん。
そこらの何か…ああ、その薪割りでも持ってきな」🪓

「まっ、薪割り⁉️ポーン
そんなもん持ち出しちゃダメですよ」

「まぁまぁ、お爺さん。
子供じゃないんですから…。
それにあなたもあなたですよ。
わざわざ本当のこと言わなくったってよかったんじゃないの。
そういう時は嘘も方便って言うでしょ。

「いやぁダメですよ。
今まで嘘なんかついた事は1度も無いんだ。」

「そこはだから方便ですよ」

「ダメですっ。
これから嘘言うんだなーと思うと舌の根がつっぱらかっちゃうんだから…」😤

「まだそんなこと言って…。
なら、この薪割りで頭を…」🪓ニヤニヤ💢

「さいならーっ!」ポーン


ここでも逃げるように出てきてしまいました。


(えらいことになったなぁ…。
あっちは木刀でこっちは薪割りだよ。
この金どうしよう?
オレが持ってたって仕方ねぇし…う〜ん。
もういっぺん行ってくるしかないか…)😥

「あの〜…ごめんくださ〜い…」

「おっ!はっつぁん!
さっきはすまなかったなぁ。
倅に怒られちゃったよ。悪かった。
まぁ上がんなよ!お茶入れるから!」

「は、はぁ…。
あ、あの〜〜〜〜〜…これ」😅

「まぁた持ってきたのか、この野郎…」ムキー

「いやいや、ちっ違うんですよ!
ちょっと、ぼっ、木刀!
木刀は下ろしてください。
これはさっき借りたって言いましたけど、違うんです。
おっ、思わぬ金…そうです。思わぬ金!
それで店賃とかいろいろ貯めてたのを全部払って…」

普段から方々へ借金なんてしてるのか?」

「あ、いや、だから…。
その…え〜とう〜んと…。
だから〜…その〜…もぉ〜…!
借りなんか無えや‼️えーん

「わっ!なんだよ…いきなり大声で。
どういうことなんだ?」

「実は…」


はっつぁんはこのご隠居が無利息無証文、催促なしで金を貸してくれたことに恩を感じたことや、その恩のために必ずひと月で返そうと決めてこういうことになったことを話しました。


「ふ〜ん…自分に嘘をつくのがイヤだってか。
なるほど。そういうのは私も好きだよ。
なら、受け取ろう。でも今日はダメだ。
ひと月で返すんだろう?
なら明日でひと月だから、明日までは受け取らないよ。」

「ひと月はあっしが決めたんですよ?滝汗
これ決めるのにご隠居は関係ないでしょ。」

「だってイヤなもんはイヤなんだ!プンプン
明日って言ったら明日だ❗️」

「あっしはねぇ…何が何でも今日返そうと思って来たんです!
そりゃひと月は明日ですけどね。
それよりも半日でも早く返すから気持ちがいいんですよ⁉️
そうすりゃこっちの溜飲が下がるんですから」

「りゅういんが下がるだぁ〜…?
バカ言ってんじゃないよ!
滅多にお前に溜飲なんか下げさせないよ。
明日じゃないと受け取らないから、今日は帰りな!」

「ならあっしだって町内じゃ意地っ張りで通ってるんだから、明日までここにいますよ!」ムキー

「ほぉ〜そうかい。
こっちだってここにいてやろうじゃないか!
…とは言うもののさぁ。
もともと敵同士ってわけじゃねぇんだから。
せっかくだ。
明日まで2人で一杯やりながら過ごそうじゃないか」

「えっ?ああ…一杯ねぇ。
そりゃまた…いいですねぇ、エヘヘヘ」デレデレ

「よしっ。おーい、倅。
ちょっと牛肉買ってきてくれ。
すき焼き食ったことあるか?」

「食ったことないんで、嫌いです」

「食ってもないのに好きも嫌いも無いだろ。
食べてみたけど〜って言うならわかるよ。
あのね…さっき私は『牛肉でお前さんに一杯飲ませよう』と決めたんだ!
今日は口を裂いてでも、何が何でも牛肉を放り込むよ」

「ほぉ〜…言いやがったねぇ。
あ〜そうすか。
そりゃ牛肉食ったって死ぬこたぁねぇんだ。
なら歯を食いしばってでもあっしは食いますから、ここに出してもらいやしょう」

「よしっ。その了見気に入った。
私もこの辺りじゃ相当な意地っ張りだが、お前さんも負けてないなぁ」ニヤリ


そう言ってすき焼きの準備が始まります。
お互いに意地っ張りとしての心持ちに話が進みます。

酒を酌み交わしながら、しばらく経った頃。


あれっ、もう2時間も経ってる!
倅はどうしたんだろうなぁ…?
いや、あいつもああ見えて気は短いんだよ。
またどこかで喧嘩でもしてたら何だなぁ…。
ずっとここにいるとは言ったけど、ちょっと様子を見てくるよ。
まぁこういう場合だから、ちょっと大目に見てくれ。
その代わり私がいなくなったからって金を置いて帰ったりなんかしたら、後で酷い目に遭わせるよ!」

「そんなことしたらあっしの負けになりますから、大丈夫ですよ!」


外に出るとすぐ近くで倅が男と向かい合って立っています。


「…何やってんだ、ありゃ?
おーい、どうしたんだ?」

「んっ?ああ、おとっつぁん!
いや、牛肉を買おうとウチを出たんですけどね。
ここまで来た時にこの人と出会い頭に向かい合っちゃったんですよ。
この人が横へどいたら向こうへ行こうと思ってるんですけどね。
この人がなかなかどかないんです!」ムキー

「ふ〜ん。ちょっとそこのあんた。
あんた…横へどいたらどうかね?」

「あんたこの人の身内かい?
まぁ〜こんなに強情な人がいるんだねぇ。
私、駅まで人を見送りに行くんだが、もうこうして2時間も経っちゃったんだよ。
今から行ったってもう誰もいないよ!
こうなったら私もそっちがどくまでここを動かないからね」ムキー

「ほぉ〜…そりゃ面白い。
おい、倅!負けるんじゃねぇぞ!
オレが見届けてやるからな!
あっ…とは言うものの、はっつぁんが腹空かせて待たせてあるからなぁ…🙄
よしっ、倅。
オマエ構うこたぁねぇから、牛肉買ってきな。」

「えぇ…おとっつぁん。
そんなことしたら私の負けになるじゃないですか!」

「心配するな❗️
代わりにオレが立っててやる‼️」


〜終〜
さて、いかがでしたか?

こう言っちゃなんですが…周りからはめんどくさい人ですなぁ…🫠笑
今こういう江戸っ子気質の人っているんでしょうか???

まぁ長い人生で時には意地を張るようなことも大事かもしれませんが、基本的には臨機応変に、柔軟に生きる方が圧倒的に楽なような気がします🍀

火事と喧嘩は江戸の華。

その喧嘩の多くはこうやって単なる意地の張り合いで起こったことが多かったんじゃないかなと思います。

こんなことがそこら中で起こってる江戸の街というのはなかなか…面白そうですねぇ…✨笑

でも見てるだけならいいですが、巻き込まれたらこれほど面倒なこともなさそうなので、江戸っ子にはなれないなぁと感じた今日この頃でした🐥

ではまた(^^)