起爆装置を天高く掲げる小未憂。

ターコロが先ほどまでの下卑た笑いを一変させハトが豆鉄砲食らったような顔をしている。

5秒ほどの間をおいてからターコロが口を開いた。

「ダ、ダ、ダ、ダイナマイト!!ウワワワー!!ボス!!!カイチョー!!ダイナマイツ!!」

ターコロはひどい動揺である。動揺して若干糞をもらしていた。

しかし、動揺したのはターコロだけではない。瀬見も会長も小未憂の体に巻きついたダイナマイトを見てゴクリと固唾を呑んだ。会長の固唾はバニラ味であった。瀬見の固唾はナスの漬物味であった。しかしながら、会長、瀬見もこの状況下において口中に広がる唾の味に頓着している余裕はなかったのである。当然である。眼前にダイナマイトである。ダイナマイト・バディーではなくてダイナマイトである。色気がないのである。ドカンと爆発する代物なのである。爆発したら周辺の人間は肢体が四散して高確率で死ぬのである。瀬見と会長はダイナマイトが己の人生にリアルにそしてシリアスに関与してくることなどもちろん想定外である。その点、ターコロはデルタフォース出身であるから、あらゆる火薬兵器や重火器に精通し、ダイナマイトというポピュラーな爆薬に対しても相応の専門知識と豊富な運用経験がありそうなものである。が、しかし、誰よりも周章狼狽しているのはターコロなのである。なぜか。それにはある事情があった。が、いまここでその事情には触れない。

「全員その場を動くんじゃないよ!!
 ちょっとでも変な動きをしてごらんなさい!!!
 この起爆装置を押すわよ!!
 コレを押せば私を中心に半径30メートル以内のものは跡形もなく吹っ飛ぶんだからね!!いいわね!!」

一人一人を鋭い眼光で睨みつつ叫び、起爆装置を高く上げてグルグルまわす小未憂。完全に場慣れしている。小未憂はこういった修羅場を幾度となくくぐり抜けて来ているのである。実は、彼女はイギリス特殊部隊SAS隊員としてテロ組織『ジャムジャ・マダラー』掃討作戦参加経歴をもつ元女コマンドーなのである。さらに幼少の頃より、東映映画『くノ一忍法帖』に強い影響をうけ独学で忍法も身につけている。最近ではVシネマ版の『くノ一忍法帖』もしっかりチェックしていたし『くノ一忍法帖』初回特典付きDVD-BOX(Part1、Part2 )もちゃんと購入済みなのであった。

さて、そんなわけで、完全に場を掌握した小未憂。

蛇に睨まれた蛙状態の瀬見、会長、ターコロの三人。

緊迫の時間が全員に重くのしかかる。

そんな中、漫画喫茶の客の一人が『美味しんぼ15巻~カレー対決編~』を棚から取り出して、いそいそと席にもどっていく姿が見える。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 
 
数時間前。場所は、武蔵野警察署。多くの警察職員がせわしなく部屋の中を行きかい動き回っている。そんな中、書類や書籍やら食べ物やらで埋め尽くされたひどく雑然としたデスクに両足をドカっと乗せ、両手を頭の後ろに回し、イスの上でイビキをかいて眠っている男がいる。無精ひげと短く刈った頭髪。身長は180cm体重70kgガッチリとした体躯。彼の名は烏龍新一(ウーロンシンイチ)。捜査一課の巡査部長である。現在、彼の追っている事件は管轄の武蔵野市内で散発的に発生している『頭部殴打殺人事件』であった。この事件の共通点は被害者の全員が頭蓋骨をノートPCの様なもので激しく殴打されたことによる頭蓋骨骨折死であるのだが、その犯人はもちろん、小未憂である。
 
ものすごい勢いで武蔵野警察署の階段を捜査一課のある3階まで一気に駆け上ってきた男がいる。彼は、新米刑事の鈴木である。彼は捜査一課のある部屋に駆け込んでくるとまっすぐ烏龍のデスクへ走ってきた、そして息を切らしながら叫んだ。
 
「・・・はぁはぁ・・・うーさん!!・・はぁはぁ・・起きてください!!はぁはぁ・・また例の事件ですよ!」
  
烏龍はイビキを止め、カッっと目を見開いて上体を起こした。そして、鈴木には一瞥もくれずに大声で叫んだ。
 
「現場にいくぞ!!」

烏龍はイスの背もたれにかけてあったヨレヨレのコートを掴み取ると、鈴木とともにバタバタと警察署を出たのであった。

Written by korota

「ターコロ、食事の時間だ」

言って瀬見がパンパンと手を叩くと、店の奥からウェズリー・スナイプス似の黒人が現われた。身の丈はゆうに6尺以上あるだろうか。肢体も桁外れに大きく、組み伏せられれば屈服するしかなさそうだ。左手には特大のソフトクリームが握られている。

「ボス、マテマシター!!」

どこか浮世離れしたようなその大男は右手でスキンヘッドの頭を撫でながら下卑た笑いを浮かべている。男は瀬見に軽く目礼すると、小未憂の方へと目を見やった。

「オオ!ジャスミンジャナイカー!ヒサシブリネー!!」

自慢じゃないが小未憂には外人の知り合いなどいない。

「どなたか存じませんが人違いです!私は小未憂です!!」

外人に曖昧な態度を示すと誤解を招くと聞いていたので、小未憂はキッパリと言ってのけた。小未憂はNOと言える日本人なのだ。

「ジャスミン!カハンシンデカタリアオウ!!」

だかしかしターコロと呼ばれる男は聞く耳を持たずに小未憂の方へ近づいてくる。

「諦めなさい。テスタは物理的暴力機関の尖兵、デルタフォース上がりの偉丈夫だ。どう足掻いたって君じゃ敵わんよ」

にべもなく言い放つ瀬見。

「まさか……。あなた、私を謀ったの!?」

「そうだと言ったら君はどうするのかな?」

転瞬、小未憂の中で何かが弾けた。

「フリーズ!!」

金切り声を上げるが早いか、小未憂がジャケットを脱ぎ去ると、幾十にも体に巻かれたダイナマイトが姿を現した。

「私に近づいたら、漫画喫茶ごと吹っ飛ばすわよ!!」

起爆装置を天高く掲げ、小未憂が吼えた。
べちゃ。そのとき会長の手からソフトクリームが落ちた。


Written by Wine


小未憂はなぜか抵抗しなかった。
暫く道を歩くと、チューンナップされたピンクのジャガーが目に止まった。
男の風貌とまったく見合わない車の色である。
小未憂を助手席にぶちこみ、瀬見は車を走らせた。

「あの入金先はなんだったんだ?」
ついつい口に出してしまった。

しかし、次の瞬間その答えがわかった。

小未憂は隠し持っていたソフトクリームを助手席でエロく舐めまわしていたのだ。

「あぁ、会長への入金だったのか。」
瀬見の言葉に小未憂はハッとし、思わずソフトクリームを口に咥えてしまった。


どれくらい車を走らせたのだろう、気づくと車は漫画喫茶の前にいた。
「さぁ、ここが会長の家だ。特別お前をあのお方に会わせてやる、ついてこい。」
小未憂は驚きながらもソフトクリームを舐めまわしながら店内へ瀬見と共に入っていった。

「ご希望の席はございますか?」
と1m先で店員と瀬見との会話が少し聞こえる。
次の瞬間、店員は小未憂を見ると同時に
「お客様、店内飲食物の持ち込みは禁止でございます。」
その言葉を言われると同時にも、小未憂は波動拳コマンドを打ち込んでいた。
飛ぶPC、壊れる頭蓋骨。
またやってしまった。
目の前での光景に瀬見は少しの混乱をしていると、肩にポンっと手がおかれ、
それと同時にこれとない程の安心感に包まれた。

「この感じ・・・もしやあなたは・・・!?」

振り向くと後ろには、ソフトクリームをエロく舐める中年の男が立っていた。

「あなたは・・・?」
そう小未憂が問いかけても中年男性は、
「フフフ」
としか答えなかった。
気づけば辺りは静まり返っていた。

何分程たったであろう、瀬見が涙と共に言葉を発した。


written by semipo

「お嬢さん、お困りのようだね」
一方的で冗句の一つも言えないATMをバッシンバッシン殴打する小未憂は、背後から掛けられた声に、突拍子な、というか絶叫にも似た(にしおかすみこ参照のこと。)声にならない声を張りあげた。大の大人二人には余りにも狭隘な空間では、さぞ煩かったのであろう。瀬見は人差し指で鼓膜を守り、眼を伏せ体を縮めた。小未憂は、振り向きざま、咄嗟にノートパソコンを振り上げ、戦闘態勢に入った。

「天空落し!」
その風圧は頑丈なドアさえも震わせたが、瀬見はなんのと言う様子で、反撃した。
「昇竜拳!!」
斜め上に抉るように突き出した拳がノートパソコンを弾き飛ばした。小未憂は、グワシャンとまた大きな音を立てて天井に張り付いたノートパソコンを唖然と見上げた。
ぱらぱらと衣類に降りかかるアスベストを払拭しながら、改めて瀬見が声を掛ける。
「乱暴だね、君は。癇癪持ちかい?カルシウムを摂ったほうがいい」
小未憂は彼の声などに耳を傾けず、と言うより未だ天井から剥がれないノートパソコンを一意専心に眺めていた。そんな小未憂を見て、瀬見は仕方無しにフラグを立ててやった。
「なんと言う、ぬるぽ」
『ガッ』
重力のままに落下したノートパソコンが瀬見の脳天を直撃した。小未憂もその様子でようやく男の存在を思い出した。

「私の技を破った人は初めてだわ。貴方、どこかで?」
彼女がこう言うのも頷ける。何せ、ファミレスで出会った時よりも接近した今、彼の顔は余計美しかったのだ。小未憂の股座は大洪水である。
「何、秘孔を突いたまでだ。そのパソコンも、エスケープキー以外は難無く動作するだろう」
確かに、パソコンはムクムクーっと一回り筋肉がついた気がしないでもない。
「私に逃げ場がないと言いたいの?」
完全な被害妄想である。
「誰が上手いことを言えと。まあ、そうだな。君は俺が拿捕した、と言うことで」
彼女に拉致宣言をし、更に彼は続けた。
「先ほどからATMと戯れていたけれど、何が目的だ?」
小未憂はハッとして、声のトーンを狂わせながら言った。
「入金をしたかったの。でも、お金が無いと入金と言うものは出来ないのね」
後ろ手に諭吉を隠蔽した。小未憂の右脳は、こう言う時に限ってよく働く。
「振込み先を教えて。俺がやる」
会長の愛須 舐太郎と言う個人名に多少の疑問を覚えつつも、瀬見は慣れた手つきで振込みを済ませた。

「甘美な香りが漂っているね。ここは。君、風呂に入った方が良い」
自宅に連れ込むつもりだろうか。彼女の手首に手錠をかけるように指で掴み、車へと誘導した。


written by uron