小未憂は諍いごとが嫌いである。暴力は嫌いなのである。しかしながら、この女、ファミレスでの飲食代を支払うのがそれ以上に嫌いなのである。なぜならば、お金が減るから。
 
小未憂はお金が減ることが何よりも嫌いなのである。というか、お金が大好きなのである。だから、会計学上、損益に計上されるイベントは全て手段を選ばずに粉砕するのである。現金回収を目論む人間が眼前に立ちはだかったのならば、老若男女問わず殺すのである。スマートにそつなく殺すのである。風車の弥七ばりにだ。先手必勝である。

頭蓋骨を粉砕された人間は高確率で死ぬ。もちろんロイヤルホスト店員も死んだ。小未憂が反戦ソングを歌う直前に店員は脳みそをアスファルトにぶちまけて絶命していた。

余談。
サツガイされた店員はロイヤルホスト東武蔵野店の店長であった。店長という責任ある立場をまかされて忠実に身を粉にして職務を全うしてきた。趣味はビリヤードと映画鑑賞であった。妻子があった。享年36歳であった。まじめだけが取り柄であった。温厚で誰からも好かれる性格であった。なのに、食い逃をげした客・・・いや、結果的に客ですらなかった淫乱露出狂派遣社員26歳(♀)小未憂に殺されたのである。無念である。
 
さらに余談。
店長撲殺の凶器として用いられたノートPCについてだが、激しい殴打の道具として使用されたのにも関わらず、液晶画面に若干ドット落ちがみられる程度の損傷であった。WindowsXP正常起動おkであった。メモリーは2GBに増設されているのであった。日本製であった。プラチナ製だから頑丈なのであった。さて、ここで示される重要な教訓とはなにか?それは ”少々値段が高くても頑丈にできた質の良い道具を使え。” ではあるまいか。

話をもどす。

小未憂は、銀行に向かって歩いていく。店長殺害の現場には人だかりが出来て大騒ぎになっている。遠くからは、パトカーと救急車のサイレン音が聞こえてきている。

現場から遠ざかる小未憂。野次馬の誰かが「あの女が・・・・」と小未憂に向かって指をさしている。だが、誰一人として、彼女を追ってくる者はいない。なぜならば不気味だから。
 
小未憂は目的地へ歩を進める。歩きつつ歌う。歌いつつ歩く。人を殺めた直後に軽やかに麗らかに歌うのである。踊るように歩くのである。まじ不気味である。いや、不気味なだけではない。忌まわしいのである。こういった人物に追いすがり声をかけ問い詰める。といことを、人はまずしないのである。

小未憂は歌う。

「B-29に抱かれたい~♪硫黄島で抱かれたい~♪
 
 殺人サンボで羽交い絞め~♪
 
 うぇいうぇい~瀬見ちゃペロペロ♪おぅおぅ瀬見ちゃぬちゃぬちゃ♪ 
 
  ぐじゅぐじゅうえぇうえぐうずうずzぅあぁづ~♪」

もはや反戦ソングなどではないのである。猟奇的なケダモノの詩(うた)に変容している。
が、この女、良い声をしている。小未憂は美声の持ち主である。
ジャズシンガー、ブロッサム・ディアリーの全盛期を思わせるコケティッシュな美声である。

店長殺害から10分後。小未憂は銀行に到着した。
店長殺害現場からは僅かに300m程度しか離れていない。

銀行というものは、どんなに鬼畜淫猥好色卑劣な人間に対しても午後3時まではしっかりと窓口を空けて対応してくれる。しかし、今は夕方6時過ぎ。ATMコーナー以外はシャッターが下りている。小未憂はPCを持ち歩くが機械オンチである。なぜならば、PCをもっぱら凶器として活用してきたから。そんな小未憂であるから、ATM操作もやっぱり苦手なのである。

「・・・いろいろあってなんだか今日は疲れちゃったなぁ~~( ´ー`)ふぅ~~」
小未憂はATMコーナーで独り言をもらした。ブロッサムディアリーばりにである。

そして、おもむろにATMの液晶画面を見つめ、タッチパネルから 

●振込み 

の項目を選んで、手続きを始めた。

しかし、何度やっても入金がうまくいかない。

『ピー!! もう一度 初めから やり直してください。』

抑揚のない音声と画面メッセージで手続きのやり直しをATMが強制してくる。

しだいにイライラする小未憂。

『ピー!! もう一度 初めから やり直してください。』

「うぅ!!もう!!
 ソフトクリームをいやらしく舐める会の年会費の入金がちっとも出来ない!!
  くそぅ!!サノバビッチ!!」

顔を紅潮させて、苛立ちを露にする小未憂。

『ピー!! もう一度 初めから やり直してください。』
「!!!!!??」

『ピー!! もう一度 初めから やり直してください。』
「!!!!!???」

『ピー!! もう一度 初めから やり直してください。』
「!!!!!????」

『ピー!! もう一度 初めから やり直してください。』
「!!!!!????????」

『ピー!! もう一度 初めから やり直してください。』

「・・・・うがぁぁぁ!!!!!!!!!
 
 このファッキンA!!ファッキンT!!ファッキンM!!!!!!!111111」

小未憂の中で何かが弾けた。と、同時にATMコーナーに入ってきた男がいる。その男こそ、誰あろう、小未憂が一目で恋に落ちた平成のガニュメデス。神秘的、蠱惑的な男、瀬見そのひとであった。


Written by korota

ロイヤルホストを後にした小未憂は、ソフトクリームをいやらしく舐める会の年会費を振り込みに銀行へ向かっていた。

――彼、名は瀬見といったかしら。

端正な顔立ち、精悍な肉体、男性器を連想させる前下がりボブ。年齢は私と同年代か、それより少し下か。遠目で見た彼は、周りから隔絶した神気に包まれて、まるで現代に舞い降りたガニュメデスのように佇んでいた。神秘的、蠱惑的といった言葉がよく似合う。

歩を進める最中、思い出すはレストランで逢った美丈夫のことばかり。

「ふふ」

小未憂が薄く微笑う。その様子はどこか白痴じみていた。

妄想こそ私のすべて。そう思って今まで生きてきたのに、私が今抱いているこのリアルな感情、膣奥から沸き上がるこの溢れるパトスはいったいなに? 小未憂の股間から粘液があふれ、太ももを伝って地表へと滴り落ちる。瀬見を想う内面の気持ちが、愛液の湧出となって表れたのだ。

「ふふ」

小未憂はびっしょりと濡れそぼった秘裂を中指の腹で下から上へと繰り返しなぞり、やがては秘孔を淫らに掻き回しながら東京の街を闊歩した。口から嬌声が漏れ、女体が大きくうねる。既知外である。今の彼女を見た者はみな口を揃えてこう言うだろう。事実、彼女の脳は9割方セミパラチンスクへと旅立っていたし、歩きながらも周囲の様子はまるで目に入ってなかった。

そんな折のことだった。

「ちょっとそこのあなた」

背後から声が聞こえ、肩を叩かれた。
まさか……。期待に下肢を震わせながら、小未憂は後ろを振り返った。

「お客さん、お勘定まだ済んでいませんよね? 困りますねぇ、こういう不埒なことをされると。ここじゃきまりも悪いだろうから、とりあえず続きは事務所で話しましょうか」

瀬見――じゃない。
転瞬、小未憂の中で何かが弾けた。

「お待ちなさい、地球の声が聞こえるわ」

言って、アスファルトの地面に耳を当てる小未憂。「なになに? 米ドルは? まだまだ下がる?」。奇抜な行動で注目を惹き付けつつ、彼女は足払いで店員を転ばせた。

「今年中に95円まで下がるわ!」

小未憂は素早い所作で立ち上がると、勢いそのままにプラチナ製のノートPCを一気に振り下ろした。がつり。頭蓋骨が割れる音がして、店員は動かなくなった。

「マッカーサーに抱かれたい~♪ 防空壕で抱かれたい~♪」

自作の反戦ソングを口ずさみながら、小未憂は銀行へと歩を早めた。


Written by Wine

小未憂には、恋愛なんてものは必要なかった。
必要なのは、自分だけでよかった。
一目興味を持つ男が現れても妄想には敵わない。それを経験と共に理解していた。

外はまだ雨。

気づけば店内には瀬見と小未憂だけになっていた。
珍しく彼に対する興味は尽きない。
目から入る情報だけでまだ確かなものがほとんど得られない。
不思議な感じだ。

窓から外を見れば、店の周りに綺麗に植えられた植物の奥に、道路が見える。
車の量は少ない。
昔小学生の頃、雨の日の登校中に見た、葉っぱの上にいるカタツムリを思い出した。

古い記憶と雨の音、そして目の前にいる不思議な瀬見という男。
気づけば心地が良い空間になっていた。
それに浸っていたが、店員がテーブルに置いたコーヒーの音でハッとした。

ふと我に返った小未憂の目に映ったのは瀬見からの視線だった。
小未憂は何故か軽く頭を下げ、席を立った。
瀬見からすれば不思議な感じだろう。

またどこかで会えるかな。

そう思い小未憂は店を後にし、次の目的地まで足を速めた。





何度目だろうか。

既に数回の絶頂に達した小未憂は、少々の賢者モードに深いため息を吐いていた。誰かに気付かれてはいないだろうか。或いは、何かしらの異臭を嗅がれているかも知れない。そうして不安を駆り立てることで、彼女はまた興奮を覚えた。次はどんな妄想をしようか。窓の外、車窓から自分を覗い、また、同じようにオナニーに繰り出している男性がいるかも知れない。

指先でプッシーを弄びながら、そんな事を考えた矢先、一人の男がファミレスに入店したのを横目に確認した。顔は良く見えないが、ほっそりとして、身の丈は百八十は有るだろうか。店員が指で一を作ると、男は小さく頷いた。やがて、男は小未憂の方へ歩み寄り、一つ向かいの席に腰を下ろした。顔立ちはなかなか整っている。いや、それどころか、世間体的に見て相当な美男子に分類するだろう。男は、メニューをろくに見もせず、鞄から一冊の本を取り出すと、自分の世界へと入っていった。当然、彼の目の前で不審な行動は出来ない。小未憂は、ただただ、その男の破廉恥な姿の妄想を膨らませていた。

やがて、店長らしき風格の男が彼を訪ねた。

「瀬見様、いらっしゃいませ。本日は、どうなさいますか」

この会話から察するに、彼は相当な得意先なのだろうか。金の匂いにも、また、敏感な小未憂は、心の内で僅かながら、誰にとも無く喝采を送った。

「先ずはコーヒーを。後は適当に運んでくれ」

男は、一言だけ告げると、また、私小説に眼を落とした。






 春のある日。朝から雨である。平日の夕方の4時過ぎ頃。東京の武蔵野市に住む26歳の派遣社員、日向 小未憂(ヒナタ コミユウ)は自宅の近くにあるロイヤルホストへと来た。そして窓に面した席に座り、ドリンクバーをオーダーし、アンニュイな瞳で窓を見つめていた。30分ほど前、テーブルに自ら運んできたレモンティーはすでに冷めてしまっている。

 一見、待ち合わせでもしているように見える彼女だが、そういうわけではない。彼女は暇なのだ。だから、ロイホにきたのだ。ただし、彼女にとっての『暇』とは、ある一定の時間が経過すれば自然と解消されるものではない。彼女の『暇』とは、いうなれば、彼女の精神が永続的に作り出すある種の飢えと乾きなのである。わかりやすく言うと彼女は刺激を求めていた。それも性的な刺激である。だから、ロイホに入店した直後から彼女は淫猥なことしか考えていなかった。例えば、股間にナスを挿入したまま武蔵野から日本橋まで徒歩でいったらどうなるかしらん。とか、桜の木に手をつかされて立ちバックスタイルで後ろから激しく犯されて桜の木がグワングワン揺れて満開の桜が全部散ったらステキなことよね。などといったことをである。小一時間以上もそんなことをノンストップリミックスで空想をしていたのである。

 ちなみに、彼女は外出時は常にノーパン&ノーブラである。露出癖である。1年365日原則下着をつけないのである。見られたいのである。でも、ただ闇雲に見せるのはあまり興奮しないのである。でも見られたいのである。だから下着をつけないのである。インモラルである。であるから、今日もファミレスというエロとは対極にあるファミリアな空間において淫猥な妄想を繰り広げ、体の芯から湧き上がるエロティックな情動に身をまかせ、下腹部から滔々といやらしい液を垂れ流し、こっそりじっとり秘部をまさぐり、ひそかに絶頂に達してはヤマハ発動機トラクターのごとくブルブルと体を震わせ、そして深い吐息をもらすのであった。


 ロイホのソファーはいまやグシュグシュに濡れてテラテラと光っている。