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毎日朝から晩まで、金持ちの大人相手に靴磨きをし家族を養うその少年の夢はトランペット奏者だ。

仕事が終わると、あのお店のショーウィンドウに飾られたトランペットを眺めに寄り道するのが彼の日課になっていた。

雨の日も風の日も雪の日も、くる日もくる日も彼は休む事なく毎日働き続け、そしてトランペットなど無論買えるわけがないと、ただひたすらに眺め続けた。

そんなある日、いつもショーウィンドウに飾ってあるはずのトランペットが無くなっているではないか。少年はたちまちショックで、猪木の延髄をくらったマサ斎藤のごとくその場に膝から崩れ落ちた。彼の人生の唯一の楽しみがたった今なくなってしまったのだ。無理もない。

どの位の時間がたったのだろう、暫く呆然としていると、肩をポンと叩かれた。振り向くと、大男がたっていたのだ。

「やあ!」と挨拶をして大男は話しはじめた。

「おれは昔ピアノを弾いてた。だが不慮の事故でおれは片手を失った。それでピアニストになる夢をあきらめたんだ。今思うとバカな決断をしたと思う。30年以上経った今でも後悔しているんだ。お前さんは毎日このトランペットを眺めてる。そんなにまでトランペットが欲しいか?そんなにまでこのトランペットを吹きたいか?」

驚くことに、大男の手にはあのトランペットが握られていた。彼はトランペットを少年に差し出す。

「ずっと迷ってたんだが、毎日お前さんの眼をみていて決めたんだ。おれはお前さんの夢にかけてみようと思う。これをお前さんに預けるよ。そして将来そいつでお金を稼いだら代金を払ってくれればいいさ。おれはこのトランペットの店主だ。それまでおれはこの店を守り続ける。さあ、持ってけ小僧」

少年は躊躇するも、大男は譲らない。

「おれは決めたんだ、いいから持っていけ」

「あ、ありがとう…おじさん」

少年は嬉しさのあまり目に涙を浮かべ何度も何度もお礼を言って、走って去って行った。

と、美談。

その後、少年がどうなったかは皆さんのご想像にお任せするとして、今おれは猛烈に欲しいものがある。毎日毎日ネットでそいつを眺めてるが、おれの目の前にも大男が現れないかとずっと待ってるわけですが、当たり前だけど一向に現れてくれません。あぁ金持ちだったらな…と思いながら働く毎日だ。

なんだか美談のあとにすんません。



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