おやじ達の「あの頃」１

今の子供も昔の子供もヒーローに憧れを以て「戦い」が好きなものだ。語り継がれた話であれ、絵本であれ、映画であれ、書籍で有れ、今ならゲームであれ、身近なスポーツであれ、「戦う」の結果の陶酔感は参加であろうと、観戦であろうと、あるいは想像であろうとも官能を与えてくれる本能による。現実の悲惨とは掛け離れての誘惑的な本能が「戦う」の中に存在するのだ。自分が「読み」を覚えた時も漫画はほとんどが「戦い」のテーマだし、勝った者への賛美だから、「戦う、勝つ」は人生のテーマで有り続けている。２０２１年以後も変る事は無いだろう。自分の親も、そのまた親もそんな憧れを抱いて生きてきたはずだ。

こんな、好奇心に気付いてもいた子供時代の自分は、日夜仕事を戦い終えて過ごす大人の話すが好きで、家にお客が来ると、似つかわない緑茶を給仕しながら、大人同士の会話に聞き耳を立てていたものだ。それも小学生前と言うのに、子供と遊ばない全くの変子供だった。その中でも、おやじ達の、昔話には、あれこれの体験からヒーロー部分を見つけては心の中で「小躍り」していたものだ。

だが、？やはり命の存亡する戦い、実戦争の話は、大人達からは、ほとんど聞いていない。史実に残った東郷さんや乃木さんの話も聞けてないし、出征した東亜戦争の話も聞けていない。実際の戦争は、話せない悲惨過がおやじ達に伝える言葉を作らせない。思い出して泣く事も無ければ、涙も出さない、ただ急に寡黙になって、５年に一度くらいに一言、「ポツリ」また「ポツリ」と言った具合だ。あの勝った戦、日露戦争でさえ、この村では、鎮魂や慰霊の行事しか残さず、残された皆々は心に閉じ込めてあの世へ旅立って行った。
戦争の悲惨を語ったところで、自分達にはどうする事も出来ない、と達観したかのように。またの繰り返しを覚悟の消さないように、戦う炎を消さないように、か？そんなおやじ達も、依然、子供の火が消えないのか？相撲、プロレスなど格闘技の好きさ、を残していた。

そんな、平穏な日々が戦争を遠くしたある日、おやじ達は茶飲み話が、いつもの方向を少し変えて、「あの頃は、嫌な時代だった」「そうそう」「何か、返せば、非国民だ、気様！」「直ぐぶっ叩かれて、ホント、おっかなくてね～」、、、「鬼畜米英、馬鹿にして言っても、機関銃と鉄砲では勝てる訳ねエ」、、、と勝てない戦争は解っていたみたいだ。当時に新聞配布された天皇皇后陛下の写真を見て、「天皇様の顔は見てはいけないものだった」と教えてくれた。束の間の短い短絡的な戦争話のそこには、悲惨を消した思い出と、そもそもの吐き出す勝敗の是非を言い、しかし消化したのか？悲惨の色は出さなかった。「ポッと返って来た時（復員）は、み～んなで泣きながら万歳、万歳したね～」と。
残念な事に、漫画やテレビで見るようなヒーローに届くような憧れの微塵無き話ではあった。相手国、アメリカ兵の戦後記を知っても、やはり戦争を子に伝える人は、少なそうで子供も気持ちを忖度して想像で理解しているようだった。戦争と言うもの語れるのは、きっと国レベルの話なのだろう。そうだとしても、我が家、田舎百姓の家で戦争で苦しい生活？日本が日本を取り戻す戦争？日本人が笑顔を作れる戦争？いずれも当て嵌まらない、「人が人を疑い、落し入れるような嫌悪の人間関係が庶民に在ったとすれば、その観点、１つからも戦争の意味が変わる。

日本はこの戦争で、武士道を以て良く善戦した。敗戦はした、とは言え、義を貫いた、そう言う面も見えていた。けれども、そこに国民を脅し、国民同士を監視し合うような暗黒が有った、恐怖統制があった。とすれば、それは天皇統制の古来からの日本の姿ではない。
日本は建国以来、現代民主主義とは違うものの「民衆大事国家を貫いて来た」国だ。大東亜戦争、太平洋戦争の前から、おやじ達の言う「あの頃」が始まり、１９４５で終焉した。敗戦で悔しい情けなさ、も有っただろう。さらに将来未来の不安も有っただろう。だが、おやじ達の「あの頃」を聞く限りは、「あの嫌な時代が終わって良かった」の心有りで、それを押し殺した安心を持ち、アメリカの進める民主主義を飢えを満たすかのように、取り込んだ。