少しずつ少しずつ理性っていう壁からカケラが溢れ落ちていることにボクは気づいていた。


トキはクリスマス。街は赤色と賑やかな音楽で華やいでいた。ボクは人生に疲れたヒトみたいな歩き方をしていることに途中でハッとした。


ココロが寂しがってる。なんてよくわからないことを思い立って、車に乗り込んだ。いつものエステに向かった。

彼女に会おうと思った途端、ココロはなんとなく踊っているように思った。


到着するなり、壮大な景色に少し驚いた。


閑静ないつもの施設は、クリスマスバージョン。出入りしている女の子はみんなコスプレをしていて、華やかな感じだった。


「こんにちは。予約してないんやけど、いけますか?めっちゃ忙しそうやけど、、」

息を整えて落ち着こうとしながらオーナーに話しかけた。

「あー、この時期来るなんて珍しいね。落ち着いた雰囲気は今日はないよね。ごめんね。毎年この時期はコスプレで盛り上げてるのよ。やらなかったら売上全然ないからね。今年は余計頑張っちゃって。営業しちゃったのよ。」笑いながらオーナーさんは得意げに話した。

「そっか。カップルばっかりやもんなぁ、、この辺。いいことやん。忙しいってことは。」

「疲れちゃうけどね。あ、ごめん、ちょっと待てる?あの子やんね?スケジュールみるよ。あ、、、40〜50分待てる?」

「あぁ、もちろん。」

別室を空けてもらい、そこでお茶をもらって寛いだ。


寒い日だというのにその部屋は暖房がよく効いていて、ボクは思わず目を閉じた。

完全に寝落ちしていたころ、あぐらをかきながらウトウトしている自分に気付き、眠たい目を擦った。そのとき、部屋の扉が空いて、オーナーが声をかけてきた。

「準備そろそろいけそうやから、部屋行ってくれる?ごめんね、待たせて。寝てるとこ起こしてごめんね。」

「いやいや。大丈夫。熟睡ちゃうし。OK。部屋行っとくね。ありがとう。」

と、本気で寝てしまいそうになっていた自分を何故か隠してそそくさと部屋に行った。


ボクは部屋でのびをしながらあくびをして、深呼吸して目を覚まさせた。

そろそろかと思うと鼓動が高鳴り始めた。緊張している。こんな気持ち、久しくなかったな。そう思いながら待っていたら、ノックが聞こえた。


「失礼します。あー来てくれたんですね。嬉しい。めちゃくちゃ待ったんじゃないですか?」

と平然と入ってきた彼女はサンタクロースのコスプレで、ボクは言葉を失ってしばらくしてから自然に笑顔になった。

「え?なんか変?なんで笑うの?」ちょっと怒り気味に見えた彼女はそう言ったが、ボクは

「ちゃうよ、コスプレって初めて経験してるし、めっちゃ可愛い。似合ってる。だから、普通にニヤけた。気に障ったならごめん。」慌ててこう言った。

「うん、今日はね、コスプレデイやねん。笑われたかと思った。でも、そう言ってくれてよかった。」

彼女は微笑んだ。

「忙しそうやったね。」

「うん。めっちゃ。久しぶりに自分でコスプレするよーって声かけたらみんな来ちゃった。」

「えー休憩なしってやつか?大変やったなぁ。」

そう言ったら、彼女は表情がゆるんだように見えて

「疲れたぁ、、戦闘モード解除しちゃう。」

と、ボクにもたれかかってきた。

ボクは彼女をそのまま自分の胸に頭を下げて置かせて、寝そべった。そしてこう言った。

「もういいよ。話さなくて。ここで目閉じて頭置いといて。」

そう言った後、彼女はささやく。

「え、、仕事しなきゃ、、」

「俺の前ではいいよ。休んで欲しい。」

そう言ってチラッとしばらくしてから顔をみると本当に目を閉じて休んでくれていた。

ボクはこれが嬉しいんだよな。と考えながらトキが経つのを待った。ぬくもりを感じながら。

そして、ブザーが鳴った。

「あ、しまった。休みすぎた。」なんて慌てたから、ボクは、「あと少し、こうしてて欲しいから延長しよ。」

「いいんですか?」

「当然。」

「聞いてみますね。」そう言って受話器を手に取った。

「延長お願いします。え、、はい、、あ、、はい、、わかりました。」

ゲンナリしたように受話器を置いた。

「もうダメって、、今日はこの後のご予約予定いれてるらしくて、、、」

「そっか。仕方ないね。」

「うん。」

残念そうな感じが半端ないけど、セラピストにはかなり厳しいと聞いていた。

これは今日はしかたなかったが、もっと休ませたいな。とおもいながら片付けをしている彼女に話しかけた。

「予約さえしてたらもっと一緒にいれたのかな?俺のここで休んでくれて嬉しかったんやけど、ちょっと悔しいなぁ」

照れたように笑いながらボクは胸のあたりに手を置いて彼女の目を見て言った。

「私ももっといたい。でもね、、そんなお願いできない。それに、怖い。急に来なくなったり会えなくなったりしたら、、悲しくて泣いちゃう、、だからあんまり会いたいって思わないように努力してる。」

悲しそうに目を背ける彼女をボクは思わず抱き寄せた。


次回へ続く