菌[キン] | 五階から胃薬

菌[キン]

幼い頃、よく母なんかに言われたものだ。

「手を洗ってきなさい、ばい菌だらけだから」


幼い私は、漠然と「ばい菌」と言われるものが何であるのか、よくわからなかった。

おそらく汚れなんだろうと、そう考えていた。


細菌というものの存在を知り、なるほど恐ろしいものだと思ったものだ。


洗濯をして、乾燥機を使わずに部屋干しをする。

なんだか臭うのだ。

だが朝の慌ただしさから、昨日洗濯して部屋干ししたものを着ざるを得ない場合が、多々ある。

不愉快である。

朝家を出る時点から臭うのだ、その臭いと、一日つきあわなくてはならない。

私自身の体臭と思われるのも不本意である。

いったいこの臭いは何なのだと思っておったら、それは細菌の発する臭いなのだと知った。


体臭は、菌によるものなのだ。


風邪をひいた時の痰が緑色なのも、菌の色なのだ。


細菌というものは、そこかしこに存在していて、我々とは切っても切れない関係なのだな。

逐一感心してしまう。




幼い頃、そうした細菌という概念を知る前から、「ばい菌」という言葉は知っていた。

概念としては、それこそ大差はない。

「菌がうつる」とか、そんなことを言っていたのだから。


小学校の頃、矢吹君という男子がいた。


矢吹君は保菌者であった。

「ヤブ菌」保有者。


なぜ彼が「ヤブ菌」を宿すに至ったのか、その経緯は不明だが、とにかく気づいた頃には彼は感染していたらしい。

普段は皆楽しげに遊ぶ。

矢吹君がいじめられていたのかと言えば、そうともいえない。

私も矢吹君と遊んでいたし、彼が仲間はずれになることもほとんどなかった。

だが、その時は突然訪れる。


休み時間が終わりに近づくと、誰かが突然「ヤブ菌」の存在を思い山し、その猛威に怯えるのだ。


「ヤブ菌がうつる!」


誰かがそう叫ぶと、今まで仲良く遊んでいた子供達も一斉にその存在を意識し始めるのだ。

そして逃げまどう。

例えばそれなりに分別がつくような年頃になれば(?)、矢吹君の振るまいとしては

「ヤブ菌をうつしてやるぞー!」と逃げまどう子供達を追い回す、これが正解だろう。

だが小学生である。

矢吹君は、ただただ、なぜ自分が「ヤブ菌」に感染してしまったのかをわからないまま、悲しそうにしていた。


さて、、ヤブ菌保菌者の彼は、更なるレヴェルに到達することになる。


いよいよ小学校に、恐怖の大王が現れた。


その名も


「ヤブ菌トリオ」


一人なのに。


矢吹君、大変でしたね。


ただ、面白いことに「ヤブ菌トリオ」はいじめられっ子ではなかったのだ。

本当に面白いことに、皆と仲良くやっていたのだ。


そう、恐怖の大王は、突然訪れる。