ホームの対岸、線路脇の土手を覆う蔓草の葉が夜風に吹かれてゆらゆらと揺れている。全ての葉がこちらを向いて、それぞれにくらくらと。大きなモザイクが瞬間ごとに色を変えるその様は、涙を堪えているときの視界に似ていた。
黒と緑が交互に並ぶ裏側から、じっとこちらを伺う一対の目がある。夜闇に輝くそれはおそらく猫か狸の類だろう。轟音と共に駆け抜ける通過列車に驚きもせず、ひたむきにホームを睨み付けるその眼の先に、己が身があるのがなんだかむずがゆい。警戒しているのか威嚇なのか、すくんでいるのか、それとも、誰か待っているのか。忠実とは程遠い我が家の犬を思い出す。

向かいの席でぐったりとうなだれている女性の指にいくつも絆創膏が巻かれていた。緩く波打つ細い髪がカーテンのように横顔を覆い隠していて、何故だか、誠実そうだと思った。
髪が黒いからか。爪が短く透明だからか。房飾りのついた革のブーツに細かい襞の膝丈のスカート、これからどこへ行く、いや、帰るのか。終点に到着しても彼女は身動ぎ一つせず、薄いカーテンで顔を隠したままだった。
決して顔を見たかったわけではないのに、何度も振り返って彼女が目を覚まさないか見ていた。隣に座っていた男が親切にも揺り起こそうとしているのを見て、慌てて目を逸らしたのだ。

都会へと続く列車を道半ばに降りて、広々とした稲田の真ん中を貫く市道に導かれた先、私の学び舎は県境の山の中にある。
遮るものがあまりにもないために風はどこまでも吹き抜ける。散った木の葉を舞い上がらせ、さして大きくもない我が目にも、律儀に砂を放り込む。