伊藤浩志「復興ストレス〜失われゆく被災の言葉〜」(彩流社)を読む
伊藤氏のご専門は脳神経科学で、この著書では長年のストレス研究の成果をもとに被災者、特に母子避難者の不安には、生物学的な合理性があることを脳科学的に証明され、放射線の健康リスクについて新たな視座を切り開かれている・・
と書くと堅い学術書と思われてしまうが、高い実証性(心身二元論への反証)を保ちながらも、原発事故・被災者の持つ不安を肯定的に捉えた実践の書のように感じられた。
まるで闇夜の進路を照らす灯台のように。
本の副題は、被災地の「本当の意味での風化」につながる。
「風評払拭・復興推進キャンペーンは、少なからぬ人たちには社会が風化を望んでいるように思えてくる。仕事などより一にも二にも家族の健康リスクを心配する人は、自分が見捨てられてしまうと感じてしまう。」
「私たち自身が何が起こったのか、何を思っているのか言えなくなつてしまうこと。それが自分たち自身の風化です。諦めや泣き寝入りになってしまうことです。そうした中で、無力感にさいなまれるようになるのが、最も恐れていることです」
(避難生活を続ける市村さん)
孤立、そして分断されるなかで、
不安を口にする人が「科学的事実と不安というものをごっちゃにしている」などとなぜ非難されなければならないのか。
これに対して、不安とは生存の危機に対する警報装置であること、放射線被ばくの不安には、「社会の病」と言える社会的、経済的な格差が上乗せされていること、
「現行の科学的リスクアセスメントの対象から抜け落ちてしまった」そうした健康リスクを正当に対象化することの重要性が明らかにされている。
「最も重大な社会の病とは、言うまでもなく原発事故に対する国と東京電力の過失責任がきちんと問われないことだ」「自分たちの未来にとって最も大切な価値は何」か「被災者が中心になって、このような議論を粘り強く続けることが、「本当の意味での風化」を防ぐこと」であり「本当の意味での復興対策になる」という言葉が印象に残る。
他にもたくさんの気づきが語られているが、できるだけ多くの人がこの本を手にとって、真の復興をイメージしてもらうことを望んでやまない。
http://www.actbeyondtrust.org/campaign/mailmagazine/images/1708/index_m.html