熊谷達也氏の「相剋の森」を読みました
熊さんのことを書いた本を読んでみようかな昨今話題になる事が多い「熊さん」の事を書いた小説をググっていると、お勧めな本としてこの本が紹介されていました。北海道の知床で悲しい事件があって、射殺された後に熊に対して「可哀想」や犠牲者さんに「自業自得」的な発言が有りました。その後、秋田県を中心に犠牲者が多数になりましたし、その現場も山に山菜を取りにいっていたとかじゃなくて、人間の生活範囲で発生していて、さすがに「可哀想」的な発言は目にしなくなりましたが、ググれば「動物愛護」や「環境保護」的な団体さんのサイトも存続しています。熊さんと人間の共存って本当に難しい問題です。自分も普段は市街地で生活していますが、林道などを自転車で走っていると「熊出没」の立て看板を見ることもあるのです。幸い、滋賀県では被害者さんが発生するところまでは行ってないですが、獣害と言われる畑を荒らしたりはあるでしょうね。出版社のサイトからは 直木賞受賞作に連なる「森」シリーズ現代編。 編集者・美佐子は「山は半分殺してちょうどいい」というマタギの言葉に衝撃を受ける。人はなぜ他の生き物を殺すのか? 自然との共生とは? 著者渾身の「森」シリーズ現代編。(解説/赤坂憲雄)相剋の森/熊谷 達也 | 集英社 ― SHUEISHA ―直木賞受賞作に連なる「森」シリーズ現代編。編集者・美佐子は「山は半分殺してちょうどいい」というマタギの言葉に衝撃を受ける。人はなぜ他の生き物を殺すのか? 自然との共生とは? 著者渾身の「森」シリーズ現代編。(解説/赤坂憲雄)www.shueisha.co.jp出版社のサイトからの紹介はあっさりとしたものです。「山は半分殺してちょうどいい」はこの本で、象徴的な言葉ではあるのですが、そう簡単に解釈したり解説できる言葉でも有りません。なので、出版社としてもこの程度の紹介にして置いて、後は実際に手に取って読んでね、の意味なのだろう~と思います。2001年の新聞掲載でしたどの本も手に取った時に発行日を見るようにしています。年月が経過していると、随分と違った印象を受けることもあるし、読んでいて途中でなにかしらの違和感を感じて→時代が進んでいた、というような事がしばしばあります。この本、(単行本)は2003年10月発行でした。そして、元々は新聞掲載でして、最初は2001年11月からだと有ります。新聞は河北新報(仙台)、中国新聞、徳島新聞、新潟日報(この物語の主たる舞台です)、日高新報、毎夕新聞(徳島)と地方紙に限ります。後に文庫も出版されています。なので、2025年からすると、なんと20年以上前になります。しかし、熊に対しての行政などの対応はほとんど変わってないんだなぁ~を思わせました。捕獲した熊さんの行先はこの本では、人的被害っていってもおばあさんが襲われる事故はあるのですが、まだ死亡事故は発生していません。しかし、獣害と言われる被害はアチコチで発生しています。また、マタギと呼ばれる人達が、人間と自然との関わりのなかで、微妙なバランスと秩序を持って熊を獲物として銃猟している様子が描かれます。主人公は都会育ちのライターさんなのです。彼女は最初、別に熊を食用に捕獲しなくても豚や牛が居るではないか?という都会人ならではの考えを持っているのですが、取材を深く進めていくと、様々な人々がいて、それぞれに事情があって、それと世相や時流というものの流れの中で変化していく人々が描かれて、小説の形を取りながら、読者に「山」や「熊」「自然」、そして「人間」がどう関わっていくかを伝えてくれていると感じました。その中で、捕獲した熊さんを遠方に離すという活動をしている団体が登場します。彼らの言うことは、殺処分でないし、一見理想のように思えます。2001年では、こうした団体さんが活動を盛んにされていたのかな~と思ったりしました。しかし、作者はこの団体のリーダーさんをやや「若僧」って感じに描かれていて、どうも、こうした遠方に封獣することに批判的なんだろうなぁ~が臭ってきますね。いくつかググっていると昨年度(2024年度)の捕獲した熊さんの処分の数の統計がヒットしました。(出典は環境省)→〇大きな表ですが、引用します。要注意は、捕獲数でして、銃猟の数が入っているのか?までは分かりませんでした。今年被害の多い秋田県では、なんと2,183頭も捕獲していますが、その全てが殺処分です。また全国の合計では9,279頭捕獲されていますが、そのほとんどが殺処分ですね。捕らえて→遠くに封獣するっていう事をしても、一度でも人間の作物や食物の味を知った彼らはまた人里近くに来るって事でしょう。それと、この資料は驚きが更にあって、 一方で、北海道は1,422頭、秋田県は2,183頭が捕殺されており、秋田県に生息するツキノワグマの、推定4,400頭のほぼ半分の数です。今年被害が続出している秋田県では、推定数のほぼ半数を殺処分しているのです。しかし、今年は全国で最も被害が出ています。推定値が間違っているのかも知れませんが、驚きです。心配なのは自然の原理が崩れたのではと思うことです過去にも「熊さん」が登場する本は読んでいます。その中で驚くべきは、雄熊の繁殖に対する執念ですね。厳しい環境下では強い自分の遺伝子を残すことが最大の生存を支えるのでしょう。雄熊は発情すると、当然雌を探します。しかし、多くの雌熊は、その時期は子育てをしていて、発情はしないのです。そうすると、雄は子熊を殺して雌の発情を促すっていうのです。生まれた子熊が殺されると→当然、数としては減りますね。しかし、あまりに多くの殺処分があって、強い雄が多く捕獲されたとすると、通常より多くの子熊が生き延びて→従来のエリアでは縄張り争いが激化→人里に子連れが出没っていう図式になっているのでは?と想像しました。秋田県では2023年は398頭、2022年は660頭なので、2024年の2183頭は破格の数字です。2023年は秋田県では被害人数は70名と多いのですが、死亡者は無かったのです。自転車の本から入ってしまいましたがこの作家さんの本、先に自転車(ロードバイク)が登場する本を先に読んでいます。→「明日へのペダルを読みました」→「エスケープ・トレインを読みました」が、そっちは趣味の延長線的な作品でして、本来はこっちらしい。熊谷氏は、wikiから引用すると→〇 『漂泊の牙』『まほろばの疾風』『荒蝦夷』『迎え火の山』など、東北地方や北海道の民俗・文化・風土に根ざした作品で知られる。2004年、『相剋の森』から始まり『氷結の森』で終わるマタギ3部作の第2作『邂逅の森』で、初の山本周五郎賞と直木賞のダブル受賞を果たす。と直木賞作家さんでも有って、この「相剋の森」はマタギと呼ばれる、東北地方の自然との共生しながら、伝統的な狩猟をする人達の三部作らしいですね。恐らく他の2作も同様に「熊さん」が重要な役割だと思われます。