渋谷の地下にある楽器店では、マーシャルの音出しを自分にさせてくれなかったどころか、電源を入れるとブレーカーが落ちて停電してしまい散々でしたので、日を改めて別の楽器店にも行ってみることにしました。

 

そこは新宿駅からかなり歩いた場所にあり、メインの通りから伊勢丹だか丸井だかの交差点を左に曲がったところにある楽器店さんでした。

 

前回のこともあったので、まともに対応してくれるかどうかもわからず、少し不安でした。

 

ちなみにその時僕はまだ16‐17歳。

 

まぁ、マーシャルを本当に買えるのかと疑われても仕方ないですよね。

 

でもその店員さんは、とても感じよく、

 

「今準備するね!」

 

とテキパキと動いてくれました。

 

で、持ってきたのはトーカイのレスポールタイプ。

 

当時トーカイ楽器がギブソンを追い越すくらいのものを作り上げる意気込みで発売した自信作。

 

それの最上級機種でした。

 

店員さんがパラパラと音を出し始めました。

 

50Wのマスターボリューム付きと言えども、常識的な音量では歪みにくいはずなのに、かなり歪んでしかもパワーがあり、抜けるようないい音です。

 

えっ?

 

マーシャルの音よりもギターにびっくりしました。

 

トーカイのそのギターは、当時の定価がギブソンのベーシックなレスポールよりも高い値付けだったはずで、もしかしたら値引きすると同程度の価格になったのかもしれませんが、本家を直接見据えて作られたそのギターは、広告通りに素晴らしいものだと思いました。

 

「はい、どうぞ!」

 

予想外にもその店員さんは僕にそのギターを手渡してくれ、気のすむままご自由にどうぞと距離を置かれました。

 

ホントに買うのかどうかもわからない16-17の小僧に、マーシャルと合わせて一押しの最上級機のギターを選んで渡すあたり、今考えてもできるセールスマンです。

 

僕も以前日産ディーラーで働いていた際に、こんな話がありました。

 

向かいの別系列の日産ディーラーに軽トラで乗り付けた農家のご夫婦が、

 

若いセールスマンに、

 

「シーマをください」

 

と言ったら、

 

「おばさん、シーマは高いんだよ」

 

と言われて追いかえれて、

 

僕の働いていたディーラーにやってきました。

 

「こんな格好で・・・軽トラで来たけれど、シーマ売ってくれますか?」

 

って言われて、対応した所長が驚いたそう。

 

「いったい何があったのですか?」

 

と訊いたところ、

 

「畑帰りのみすぼらしい格好だからと若いセールスマンにも馬鹿にされてしまったみたいで・・・」

「でも今日買おうと決めていて夫婦で来たんですよ!」

 

って。

 

結局当時の最上級グレードをフルオプションで、お買い求めいただき、総額800万円の車となりました。

 

で、新車点検に来られた際に、トランクの中に泥の付いたねぎをそのまま放り込んであってまた驚いたらしい。

 

800万円でも豪農の方にとっては軽トラ並みの扱いかって担当していた係長がびっくりしていたっけ。

 

で、初めて音を出したマーシャルはとても良かった。

それよりもトーカイのギターが気にいってしまって。

 

「いや、このギター良いですね!」

 

って言ったら、

 

「気にいったらそっちも買ってね」

 

と返されました。

 

いゃあ、商売上手だわ。

 

結局その日は買わず、また別の楽器店も回ることにしました。

他のラインナップ、つまり100Wやマスターボリューム無しのものも音を聞きたかったので。

 

当時はLAメタルが流行っていて、さらにバブルだったこともあり、様々なメーカーのアンプがどんどん入ってきていました。

 

秋葉原の楽器店(今はその建物はPC専門店に代わっているかな)で見たギャリエンクリューガー(今はどうか知りませんが当時はそう呼んでいた)の小型のステレオギターアンプはかなり良い音でした。

 

たまたま試奏を始めた方がいらして、ちょっと離れて聞いていたのですが、音の良さにびっくり。

 

ジャズコーラスの2スピーカーで現在一番小さなラインナップくらいの大きさですが、128,000円だったかな?

いや当時のJC120の金額くらいしてまして、良いなとは思いましたがマーシャルを買った直後だったので・・・

 

その後、たまたまPAのアルバイトをしていた地元のイベントで中尾ミエさんのバックバンドの方がそのアンプと同機種思われるものを使っていていらして、やはり安定した良い音でした。

 

しかもその時、こちらが用意したモニタースピーカーの音が出ないというトラブルがあったのですがギターアンプの音量を大きめにして演奏されていてプロの力量を感じました。

 

音が出なかった原因は、アルバイトしていたPAを設置した楽器店はピーヴィーの特約店だったので、イベントの為に足りない分のパワーアンプとモニタースピーカー等をピーヴィージャパン?から借りて設置したのです。

 

ところがしっかり接続したにもかかわらず音が出るモニターと出ないモニターがある。

 

それ市制何十周年のイベントだったので、ピーヴィーからも人が来ていて、調べてもらったらピーヴィーの持ってきたスピーカーと楽器店が使っていたスピーカーのXLR端子の接続が全く違っていたからでした。

 

具体的にはグランド(グラウンド)、ホット、コールドの配列が全く異なり、それがわかった時点で開演まで時間が無く手直しせずにスタートしてしまいました。(責任者さんの話によると)

 

実は1992年までは国際的にもその配列って決まりが無かったそうで、当然巷には異なるパターンもあったらしいです。

 

普通一般的な家庭用のスピーカーというとプラスとマイナスの配線繋げは良いと思いますが、PAは2本じゃなくてコネクターになっていて先が3つのピンが出ています。

 

単なるバラ線じゃないからすぐに直せないのです。

 

ずいぶん話が逸れたましたね。

 

マーシャルにしろギャリエンクリューガーにしろプロが使うアンプってやっぱり良いものだという事です。

 

ちなみに、ギャリエンクリューガーというと現在はベースアンプのイメージが強いかもしれませんが、僕としては当時のイメージが強く、ギターアンプなんですね。

 

マーシャルですが、最終的には当時マイケルシェンカー氏も使っていたJCM800の50Wマスターボリューム付きにしまして、当時行きつけだったお茶の水の石橋楽器ロックサイドさんで買いました。

 

さらに余談ですが、当時農家のお客さんにシーマを販売した係長は、現在ディーラーの社長になられ、さらに吸収合併した向いのディーラーの社長も兼務しており、なんと県内9社の日産関連グループの社長となっているそうです。

 

出来る人とできない人の違いってなんとなく分かりますか?