昔デパートに行ってお遣い物を買う際、包装とのし、名入れをお願いすると、それをする専門家がいました。

 

各売り場にもいたり、サービスカウンターにいたり、あるいは学校で言うと教頭先生のような雰囲気をもつ方が奥から現れてすばらしく美しい字で名前を入れてくれたものです。

 

それがいつしかデパート業界も閉店や合併など再編が繰り返され、そういうスキルを持つ方がいなくなってしまった。

 

現在ではのしや名入れはPCや専用の機械でプリントしているので名入れについては問題がないともいえるでしょう。

 

けれど、名字や屋号・会社名などに使われている字が旧字や常用漢字ではない字体の場合、必ずしも正しく表記されなかったり、時間がかかるという問題が起きています。

 

うちの屋号はよく間違えられる字が含まれているのですが、ある時手渡しするお中元を業者さんに注文してうちに届いたのを見たら、そこではないノーマークの別の字が間違えられていて大慌てしたことがあります。

(プリントする前に原稿の確認を怠った業者が悪い)

 

で、プリントはうまくやれば問題ないのですが、包装ということに関しては依然として手作業が主流です。

 

これが店によって上手い下手の差が大きい。

 

セロハンテープをべたべたと何枚も張るのは美しくありません。

 

何度も折り方を間違えて折り目が入った包装紙でさらにテープがべたべたと張り付けられたものを平然と渡してきたため、やり直すか自分でやるから代わってくれと言った方を知っています。

 

うちも唯一、一つだけそういうことをしなければならない商品を扱っていました。

 

パソコンなどでの印刷が主流ではなかった時代、僕は字を書くのが苦手なのでそれは大問題でした。

 

待っていただける時間がある場合はPCで作成してプリンターで印刷しましたが、その時間がない場合、自分が苦手なためお客様ご自身で書いていただくのでもいいかどうかを訊いてから商品を準備し始めました。

 

けれど包装に関しては、商品の大きさや形状が決まっているため何とかなることです。

 

いろいろな商品の包み方を研究して、最適な方法を見つけました。

 

それはテープは使わない。

 

そして最初に商品に合わせて包装紙を切る。

 

それでもこれが気に入らないといわれる場合もあるかと思います。

 

実は昨日、最後に残っていたその商品を家族に渡しました。

 

家族の職場でご不幸があったため、お世話になった方に差し上げて使ってもらえればと思って、しっかりと包装をしました。

 

のし紙はいくつかのパターンのものや書き損じた時のスペアも一緒に渡して、すぐに貼れるようにと裏に両面テープを貼っておき、名入れのペンも渡しました。

 

そんじょそこらの業者と比べても見劣りすることなどないどころかできうる完璧な仕事だと思っているのですが、それでもどう思われるかは相手次第ですので気になります。

 

お金をもらっていないからいい加減にやったということもないし、もらっといて手抜きするわけでもなく、僕の技術と知識と気遣いをすべてそれに取り込みました。

 

でもダメだしされるのかな。

 

もし改善点や要望があったら言ってもらえると有り難い。

 

その商品の取り扱いは今後やらないつもりなんですが、人は同じことを仕事で長くやっていると、いいとか悪いとかじゃなくてそれが当たり前になって色々気づかなくなってしまいます。

 

僕のやり方は間違いなくたくさん考えて試した結果行き着いたものなので、それより上回るものがすっと出てくることはないと思います。

 

けれど、世界的に高い山がいくつかあるように、登頂ルートもいくつかあるように、別のやり方で到達した頂が他にもあるのではないかと思います。

 

自分より優れた技術を見てみたい。

 

自分に匹敵するような別のやり方があるなら知りたい。

 

職人の生き方としてはそれで正しいと思うのです。

 

いやはや僕は包装やあて名書きの職人じゃないんですが、それは職人らしい考え方というのですかね。

 

2-3日中にお客様の代わりに贈り物を選んで準備しますが、そのお店は普段使いというよりは贈答品専門店ですから、安心してお願いできるのです。

 

包み方とか見ていたいのですが、奥でやっているため見れません。

 

本気で知りたいなら自分用に一つ買って、それを開けてみればいいのですが。

 

いや、だから包む仕事はもうしないから必要ないんだっけね。


追記


家族から職場の代表者さんにお渡ししたそうです。


見た瞬間、


これはいいものだね


と言われたそう。


家族は中身見ていないからわからなかったけれど、包装はともかく中に包まれた商品の箱からして違うことが持てばわかる方にはわかるのでしょう。


これがうちに残る最後の商品。

最後にプロとして恥ずかしくないものを渡せたと思っています。