うちの事務所の本棚に、Tと書かれたファイルがあります。

Tは県内のある地名です。

以前見たファイルの中身は、Tにある施設をつくるために揃えた資料と、新聞のスクラップでした。

目を通したそのファイルの中身と、父の話を合わせると、昔こんなことがあったそうです。

県内のTという場所にある施設をつくるため、まず地域住民の同意を取り付ける必要があり、関係会社が手分けして挨拶と説明に一軒ずつ歩いてまわったそうです。

その際、一人の年配女性が激しく反対し、挨拶に回る父の先回りをして、

アイツの話を聞くな!

と終始ついてまわられたそうです。

さらに誰かがある新聞に投書したため、そのことが記事に取り上げられて結局施設はつくれないことになりました。

もちろん誰一人として違法行為はしていないし、法令に則り説明をして回ったにもかかわらず、

新聞社は、

そんな施設は必要ない!

とか、

おかしいのではないか?

というあからさまにワンサイドに立って反対する内容でした。

さて。

その施設の予定地は、その後ほど無くしてゴミ焼却場になったそうです。

うちが目指した施設よりも、はるかに沢山の人の出入りや、多くの車の往来があり、さらには音や臭いの問題に周囲の住民が悩まされることになったと風の便りに聞きました。

うちが予定していた施設は、ひっそりと人が訪れる場所でしたが、住民の猛反対の結果出来ずに済んで、年配女性を中心におそらく喜んだのだと思います。

ゴミ焼却場は、逆に喜んで誘致したのか、それとも反対できなかったのかわかりません。

わかったことといえば、そのファイルが僕にものすごく多くのことを教えてくれたということ。

いつかこのファイルと話も後の世代に引き継がなければならないと思うのでした。