僕は友達が居る手前、

なるべくうめき声を押し殺していた。


その僕の行為は、更に

男の怒りを増徴させる事に繋がった。



男はぐったりと倒れる僕の胸ぐらを掴むと、

そのままベランダまで引き摺って、

僕の上半身をベランダの柵の外へと押し出し、

手に持った銃を僕の口に無理やり押し込んだ。


「ワシに撃ち殺されるか、ここから飛び降りるか・・
いますぐ、どっちか決めろや。」

男の声はあまりにも冷静で無感情なものだった。


何人もの人間を平気で始末してきた人間にしか出せない・・

そんな無機質な声とその表情に僕は心底から死を覚悟した。


頭の中で

「飛び降りるほうが助かるかもしれない・・」

と咄嗟に生きることに執着している自分が居る反面、

俺は此処でこの男に殺されるんだ。

という絶望感と悔しさに、僕は溢れ出す涙が止まらなかった。


「許してください・・許してください・・」

懇願する僕の言葉にも男は無表情のまま

親指で銃の撃鉄を引きあげた。




死ぬんだ 死ぬんだ 死ぬんだ 死ぬんだ 


頭が真っ白になったそのとき

母親と孫を見せに帰郷していた姉の叫び声が聞こえた。


母が半狂乱の声を上げながら

銃を持った男の腕を後ろから抱きかかえ

必死に男を止めに入った。


ベランダの柵を滑り落ちる僕を

姉が咄嗟に抱きしめた。



僕は間一髪、命拾いをしたのだ。


帰省した姉を母が迎えに行き、

そして家に帰ってきた所だった。




「ひどい顔になって・・・」


涙ぐみながら僕の顔を優しくなでる

姉の顔を見ながら僕は心から安堵し、

姉に小さく微笑んだ。



頬につたう涙が僕のものなのか、

姉のものなのかも分からなかった。


のちに、隣室に居た友人とこの時の話をしたが、

友人は「人生で一番、生きた心地がしなかった。」と語った。


血だらけの僕の顔を見た友人は

体の震えが止まらなかったという。


彼には本当に申し訳ないトラウマを

植え付けてしまったものだ(笑)


つづく
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