当時、2階建ての立派な一軒家に

家族で住んでいた僕は、ある朝、

見知らぬ男の叫び声で目を覚ました。


そして間髪入れず、

二階から階段を何か大きなモノが

転がり落ちる大きな物音。


「殺される!助けてくれー!」

という悲鳴と共に、見知らぬ男が

玄関から飛び出していくのが窓から見えた。


僕の部屋は階段を降りた、すぐ横にあり、

玄関から最も近い。


叫び声を上げながら血まみれの男が走り去り、

構成員たちが怒声をあげながら、

逃げた男を追いかけていく。


それを耳で確かめ終えると、

僕は部屋の扉を静かに開け、階段を見あげた。


階段には無数の血痕が滴り落ちていた。



あたりが静寂に包まれた。


僕は血痕を踏まないように気をつけながら

ゆっくりと階段を上がった。


階段よりも更に返り血に塗(まみ)れた応接室で、

父は真っ赤に染まったドスを握り締めて立っていた。



逃げた男のその後の行方を僕は知らないし、

知りたくもないが、父は、逃げた男の仲間に

騙されたようだ。


その結果、多額の負債を抱え込み、結果、

借金返済のために購入した家を売ることになった。


先妻の息子たちは金の無くなった父親の下から

そくささと立ち去り、僕は父と母の三人で

2DKのマンションに移り住む事になった。


信じていた仲間に騙された事によって

男の心は更に荒んでいた。

一戸建てに住み、高級車を乗り回す生活から一転したのだ。


父親を慕っていた義理の兄達も

いつのまにか出て行った。


僕にはもちろん、母親や、構成員にも

手当たり次第に当り散らし、

見境なしに誰かを殴り飛ばす事が増えた。


母は男に胸を木刀で強く打たれ、

片方の肺が潰れた事もあった。


手の付けられない男の暴挙に

構成員はその数をどんどん減らしていった。



15歳の大晦日の夜。

僕は当時、同級生のバンドメンバーと

初詣に行く予定を立て、僕の家で待ち合わせた。


部屋に友人を招き、好きなバンドの話などで

盛り上がっていたら、奥の部屋から、父親が

大声で僕の名を呼んだ。


急いで男のもとに駆け寄ると父親は

酒臭い顔をしながら、自室のストーブに

灯油が入ってないと僕を怒鳴りつけた。


男の機嫌が悪い事を察した僕は

友達がいる手前、まず友達に外で

待っていてもらおうと考え、

「あとですぐ灯油を入れに戻るから待っててください。」

と父親に伝えて踵を返した。


すると突然、男の怒りは爆発した。


「俺がやれって言うたら今やるんじゃ!
このくそボケがっ!!!」

と、僕の髪を乱暴にわし掴みにすると

そのまま僕を部屋の中央に投げ飛ばし、

木刀を手に取ると、なんの躊躇も無く

僕の顔面を何度も殴打し始めた。


空手の有段者の男の言い分は

素手で殴ったら人を殺してしまうから

木刀で殴ったほうが加減をするから

という異常なものだった。


構成員にそう自慢げに話す男の顔を見ながら

僕は何度、吐き気をもよおしただろう。


木刀の一撃が僕の右目に突き刺さり、

鈍い音がした。


あまりの激痛にもんどりうって倒れる僕を

心配する様子もなく、男は木刀で何度も何度も・・

呪いの言葉を吐き続けながら1時間以上に渡り、

うずくまる僕の全身を殴り続けた。


この事が原因で僕の右目には一生

障害が残ることになった。



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