普段は下戸でまったく酒が呑めない彼女の体から
酒の臭いが漂っている。
よく見ると彼女の足元には、昔、誰かから戴き、
料理酒代わりに使っていた日本酒が転がっていた。
前かがみの状態で髪を振り乱したまま、俯(うつむ)き、
まるで別人のように豹変している彼女の姿を呆然と
見ていた僕に彼女は突然、小さく呟いた。
『みんな‥死ぬんだよ‥』
彼女は傍(そば)に転がる一升瓶を手に取ると両手に
しっかりと抱きかかえ、僕を別人のような顔で睨みつけた。
『どうせ‥みんな死んじまうんだっ!』
彼女の怒声に我を取り戻した僕は、とっさに彼女に駆け寄り、
彼女から一升瓶をもぎ取ると、両腕にしっかりと彼女を抱きかかえた。
『誰も死なんから。大丈夫やから。』
抱きかかえる僕の体を彼女は押しのけようと激しく抵抗した。
『うるさい!お前なんかに何が判るか!』
その声はいつもの彼女の声とはまるで違うものだった。
突然、肩に激痛が走り、僕は仰け反りながら、彼女をとっさに押しのけた。
彼女が僕の肩に噛みついたのだ。
狼狽(ろうばい)する僕を見て、彼女は大笑いした。
その顔は彼女とはまったく別人の者のようだった。
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『みんな‥死ぬんだよ‥』
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『誰も死なんから。大丈夫やから。』
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『うるさい!お前なんかに何が判るか!』
その声はいつもの彼女の声とはまるで違うものだった。
突然、肩に激痛が走り、僕は仰け反りながら、彼女をとっさに押しのけた。
彼女が僕の肩に噛みついたのだ。
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