モンゴル音楽

モンゴルの声楽
モンゴルの声楽には、三つのタイプがあります。一番目はハイラフという「叫び声」や「うなり声」的な歌い方で、トールチ(吟遊詩人)が弾き語る朗踊調の「だみ声」がこれに分類されます。二番目はドーラフ(歌う)やアヤラフ(旋律をつける)と呼ばれる一般的な民謡の歌唱法で、さらにオルティンドー(長い歌)とボギノドー(短い歌)に分けられます。三番目はホーミーと呼ばれるもので、ハイラフ調の低音をベースに、口腔を技巧的に使って倍音を響かせるものです。

オルティンドー
「長い歌」の意味を持つ、モンゴル民謡の代表的な歌唱法です。オルティンドーは豊かな声量で音を自由に長く伸ばして歌うのが特徴、喉を巧みに操り何通りものビブラートを使い分けます。日本民謡の追分と良く似た雰囲気を持っており、ペンタトニック(半音のない5音階)の音階で哀愁を帯びた独特のメロディーとなっています。オルティンドー歌手は国民栄誉賞に輝く女性の「ノロブバンザト」と「ネルグイ」、男性ではやはり国民栄誉賞の「ドルゴリン・バトトゥムル」が有名です。

ボギノドー(ボグンドー)
「短い歌」の意味。この民謡の特徴は、リズムが規則正しくはっきりとしていること。歌詞は風刺や皮肉を利かせた内容のものが多く、速いテンポで歌われます。と言っても、なかにはスロー・テンポの曲もあったりします。ポイントは、インテンポでリズム感があることでしょうね。そのぶん、表情が華やかでオルティンドーよりもややポップス感覚。日本人には、ボギノドーのほうが親しみやすいと思います。

ホーミー
喉歌。ホーメイ。声帯を振動させながら気管や口腔で倍音を共鳴させ、同時に二つの音声(ときには三つの音声)を発する技巧です。西モンゴルのアルタイ地方で発生した唱法と言われています。鼻のホーミー、口と鼻のホーミー(ハリフラー)、声門のホーミー(ボービル)、胸のホーミ-、喉のホーミーの5種類があるそうです。なかでもトゥバ共和国は盛んで、フーン・フール・トゥ(男性ホーメイ・グループ)を始めとする完成度の高いアーティストがいます。ちなみに、トゥバ共和国はモンゴルの隣の国です。
ところで、ホーミーの呼び方も国や地域によっていろいろ。中国ではホーリンチョールやコーミジュ、トゥバではホーメイやコーメイ。日本ではホーミーが一般的となっています。CDジャケットの英語には、khoomei(ホーメイ)のほかに、throat singing(スロート・シンギング=喉歌)なんて書かれていますよ。

民族楽器編


馬頭琴(モリンホール)
モンゴルを代表する民族楽器。棹の先端に馬の頭部の彫刻が施されていることから、モリンホール(馬の楽器)と呼ばれています。弓と弦も馬の尻尾の毛で作られています。台形の胴を両膝ではさみ、弦の張ってある面を客席に向けて弓で弾きます。音色は野性味あふれる力強さと甘く切ない繊細さを兼ね備え、二弦楽器とは思えないほど豊かな表情です。この音色について・・・。何年か前になりますが、最初に生演奏を聴いたのはムンフバットという若手で「津軽じょんがら節」のようにダイナミックな弾き方でした。次にブーホーという奏者を聴いたのですが、まったく違っていましたね。情感たっぷりでロマンチックな弾き方でした。まるでチェロ奏者のヨーヨー・マのような感じで聴き惚れてしまいました。女性の馬頭琴奏者はモンゴルでも珍しいそうですが、ウヤンガというかなり若い奏者を聴きました。これがまたいいんですよね。何がって? ぽっちゃりとしたモンゴル美人だったんです。

シャンズ
三線。日本の三味線に似た楽器です。そもそもは中国の楽器で元明時代に伝わったとか。骨で作られた直径1cm、長さ10cm程の円柱形のバチで弦を爪弾いて演奏します。

ヨーチン
楊琴(西洋琴)。台形のテーブルが共鳴箱になっていて、上部に弦が張られています。それを竹製のスティックで木琴のように叩いて演奏します。ピアノと同じ打弦楽器ですが、琴なのでピアノほどの迫力はありません。どちらかというと軽やかで繊細な音質です。ヤタグを原型にハープなどの西洋楽器を合体させたものとか。ホーミーの伴奏によく使われます。インドのサントゥール(ヨーロッパなどではダルシマと呼ばれている)と親戚関係の楽器です。

ホーチル
二胡。四弦楽器ですが少し変わっています。一弦と二弦、三弦と四弦のグループになっていて、それぞれが同じ音程に調弦されます。したがって、一見は二弦楽器のようです。演奏のとき、各グループの弦を同時に弾きます。ユニゾンの厚みのある音質になるというわけです。ドルボン、オタスタイ、ホールとも呼ばれています。

ヤタグ
日本の琴によく似た形をしています。と言うよりも、日本の琴のルーツです。ただし、演奏のときは床に置きません(私が単に、見たことがないだけかも?)。椅子に座り、膝の上に乗せます。大きさが人間の背丈くらいあって結構重いので、斜めに構え一方の端を床で支えて安定させます。一般的には14弦です。

リンベ

横笛。六つの指孔をもつ吹奏楽器で、竹、木、金属などで作られています。チベットのグリン(グ=鷹、リン=笛)に由来しているとか。ツォール(縦笛)よりも音域が高く、華やかな音色となります。モンゴルの民族音楽は動物を題材にしたものが多く、このリンベで小鳥のさえずりを見事に表現します。

ツォール
縦笛。リンベよりも大きめの吹奏楽器で、主に中音部から低音部を受け持ちます。アンサンブルの中で使われることが多いようです。コンサートでは、リンベとツォールは同じ奏者によって演奏されています。モンゴル国立歌舞団のガントムール(日本モンゴル文化協会主催「モンゴル国立歌舞団コンサート」1998924日新宿文化センター大ホールで来日)は、息継ぎをしないで長く演奏することができ、他の演奏家には真似のできない卓越した表現技術をもっています。

演奏家/歌手編

ノロブバンザト
ナムジリーン・ノロブバンザト。1931年生まれ。モンゴルでナンバー・ワンと言われている女性のオルティンドー、ボギノドー歌手です。1957年にモンゴル国立歌舞団に所属しデビュー。同年にモスクワで開催された第6回世界青年学生祭典、民俗芸術コンクールで金メダル。その後は数々の賞を獲得。1981年には国民栄誉賞に輝いています。