太宰治の妻 | 西甲府キリスト福音教会 私的完全非公式ブログ

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 太宰治の作品には、聖書の聖句が随所に出てくる。太宰の作品は、自身に引きつけ血肉化した聖書を土台にしていると言ってさえよい。太宰と聖書については、何人もの著者が本を著している。パピナール中毒により入院させられた精神病院では、聖書のみを耽溺した。入院中の実体験を素材としている「HUMAN LOST」では、「聖書一巻によりて、日本の文学史は、かつてなき程の鮮明さを以て、はっきりと二分されてゐる」と書いている。また、ユダとイエスの双方に自分を重ね合わせた「駆込み訴え」は圧巻である。太宰と聖書については、機会があれば、また、稿を改めて書きたい。

 太宰は、井伏鱒二の紹介により、山梨で女学校の教師をしていた石原美知子と結婚する。この石原家と西甲府教会で牧会している藤原孝行牧師とは浅からぬ縁がある。

 山梨県甲斐市にある功徳院には美知子の実家である石原家の寺がある。2018年6月24日、石原家の当主、次男の石原明氏の納骨式が行われ、明氏の息子、孫、明氏がアメリカのボストンで物理学の教授をしていた当時世話をした日本人の弟子たちが参列した。納骨式は、住職が墓前でお経を読み上げ、明氏の長男が聖書を読みハンドベルのような鐘を鳴らし、仏経とキリスト教の儀式が並行して行われた。藤原牧師は、この納骨式に石原家との縁でキリスト教の司式を行うために参列している。

 明氏の長男であるポール石原氏はアメリカのホイートン大学の教授で熱心なクリスチャンで、この日、西甲府教会の礼拝にも出席した。

 周知のとおり、太宰は多くの女性との関係があるが、誰とも自身の十字架を命がけで背負い生死をともにした。一時的であれ、世間的な家庭を営むことができたのは、美知子とのみだけであった。しかし、太宰は、世間並みの幸せな家庭を築き続けることは終生できなかった。

 家庭の幸福を壊してしまう自分が、そこに留まることは許されないことだったからである。私には、罪と使命に翻弄された太宰の生き方に、マタイ10章34節以降の言葉が重なってきてならない。

「わたしが来たのは地に平和をもたらすためだと思ってはなりません。わたしは、平和をもたらすために来たのではなく、剣をもたらすために来たのです。なぜなら、わたしは人をその父に、娘をその母に、嫁をそのしゅうとめに逆らわせるために来たからです。 さらに、家族の者がその人の敵となります。」 

 遺書には、「美知様 お前を誰よりも愛していました」とあった。

 太宰は、最後まで自身の重い十字架を背負いきれなかった。