不思議な花・アッツザクラ ~何ゆえにシべを隠す~
日本列島から
桜の便りが聞かれなくなると、
この花が咲きだす。
「アッツザクラ」
この花は不思議な花である。
まず
生き物にとって一番大事な
生殖をつかさどるオシベメシベが見当たらない。
どう見ても見当たらない。
ご覧の通りである。
花であれば、
本来ならこの花の中心に
オシベとメシベが必ずなければいけない。
椿でも
ユリでも
仮にそれが木に咲く花であろうと、
球根で咲く花であろうと、
オシベとメシベを
必ずこれ見よがしに備えている。
アッツザクラには
どうして見当たらないのだろうか。
さてそのオシベとメシベ。
決してないわけではない。
花にとっては少々手荒いが
せっかくの機会だから、
皆さんにもご覧にいれましょう。
実はこの花弁の奥に
ひっそりと潜んでいるのです。
これがシべ。
上から花びらで覆われて、
外からはまるで見えない。
この花は、
昆虫などの虫の視覚に訴えて
花に来てもらうのではなく、
多分
フェロモンか何かを出して、
特定の虫を呼んでいるのかもしれない。
そのような隠されたシべのほかに、
この花には
人為的な不思議があと2つある。
まず名前。
アッツザクラのアッツは
アリューシャン列島のアッツ島から付けられた名前だが、
原産地は
南アフリカ共和国のドラケンスバーグ山脈周辺で、
アッツ島とはまるで関係がない。
アッツ島については、
日本の男子ならばご存知かと思うが、
ご存知ない方のために少し述べよう。
時は太平洋戦争のさなか、
昭和17年6月、
ミッドウエー作戦に呼応して
米ソの連絡遮断、
敵の航空基地の利用阻止などを目的として、
日本軍は
アリューシャン列島のアッツ島とキスカ島を占領をした。
しかしミッドウエー作戦の失敗により
大本営はアッツ島とキスカ島を見捨てた。
昭和18年5月、
米軍第七師団総勢1万1千人がアッツ島に上陸を開始。
迎える日本軍はわずか2千数百。
後年「バンザイアタック」と呼ばれるすさまじい突撃で、
日本軍は玉砕。
生還者はわずか27名。
アッツザクラは
この時の
アッツ島占領の時にちなんでつけられたとか、
全員玉砕を悼んで付けられたとかいうが、
なんとも無責任な名前を付けられたものである。
きっと付けたのは、
2,000以上もの仲間を見殺しにした
無責任な軍関係者だったろう。
ちなみにキスカ島の日本軍約6,000人は
島全体を米軍の艦隊に包囲されながら、
濃霧に乗じて、全員奇跡の脱出を果たした。
彼らが、米軍を迎え撃つために
アッツ島からキスカ島に移動していなければ、
アッツ島での玉砕は、
8,500人以上になっていたはずである。
更に名前の人為的不思議。
アッツザクラは
サクラではなく
科 ユリ科
属 アッツザクラ属
種 アッツザクラ
に分類され、
一属一種。
サクラではないのにサクラの名をもらい、
そして自分以外に仲間がいない花である。
さびしいと言えばさびしい花アッツザクラ。
仲間のいない寂しさからか
ただピンクであるというだけで、
6弁の花なのに
サクラという無責任な名前を付けられた恥ずかしさからか、
あるいは
子孫を残せず散って行った
若き兵隊の悲惨さを知ってか、
生殖という事実を密かに隠し、
静かに咲く花。
アッツザクラは
不思議な花である。




