先きの日
わかれゆく毎日
毎日あった思い
誰も知ることのない思ひの渦が
背後に音を立ててながれてゐる
思ひはもはや悲鳴をあげない
ただ ながれて往くだけだ
何もないところに
深い溝や 淵のやうなところに
あなたがたも 私も
うしろを見たことがない
うしろに音となって
つぶれた毎日のあることを
毎日が死体となつて堕ちてゆくのを
みようとも知らうともしないのだ
けれども先きの日がきらめいて
何が起り何が私共を右左するか判らない
また先きの日のおばしまに
誰かが思案に暮れ 待ちわびてゐるかも判らぬ
先きの日を訪ねて見よう
何処かにあるはずの先きの日
室生犀星
20年ぶりに室生犀星の詩を読みました。年月を経ても、人の感性、思考は変わらないものですね。
後ろを振り返っても、しっかり在るものはあるのですね。
初秋に犀星の詩を読むなんて、少し詩的ですね。

