突然のキスに
驚き傘を落としていた


抵抗しても
離そうとしない力強い腕


目の前を遮る傘もなくて
たくさんの人にその姿を見られた



ひ「や‥っ‥めて」



なんとかその腕から逃げると
臣くんは雨に濡れた髪をかき上げた





ひ「臣くん‥私‥‥」





臣「何にも言わなくていい
ここにお前がいるだけで十分」



勝手に居なくなった私を
今でも想ってくれているの‥?

そう思ったら
胸が熱くなった

でも‥



ひ「ごめん‥私もう‥」



臣「何も聞きたくない
お前があの日から
今日まで
どんな風に、誰と‥」


誰と、と言いかけて言葉をとめた


臣「お前が俺の前から離れた
理由がいくら考えても思いつかなかった」


綺麗な顔を歪めて私を見る



臣くんのせいなんかじゃないよ


瞬き一つでも
絵になるくらい
臣くんはあの頃から増して
美しかった


臣くんの為と言って
本当は怖かっただけなんだと
やっと気づいた


世界が違う



そう感じていたあの頃
どんなに愛されていると
感じても
不安だったのだと


「日に日に離れていく時限に
あなた自身が苦しくなるはず」


あの人の言葉を思い出す


ほら、やっぱり‥


もう、こんなに世界の違う人に
なっているんだね



私なんかじゃ
釣り合わない



私の選択はまちがって
なんかなかった



ひ「今、岩ちゃん‥剛典と
付き合ってる」


臣くんの眉がピクッと動く



臣「‥岩ちゃん‥と‥?」


ひ「うん」


臣「どうゆう事‥?」


ひ「どうゆう事って‥言葉の通りだよ。
臣くんの前からいなくなったのは
岩ちゃんと付き合う事になったからなの」


うまく嘘をつけているだろうか


ひ「今は一緒に暮らしてて
いずれ結婚も、なんて話もでてるし‥」



臣「‥そ、っか」


臣くんが切ない目で
短く返事した


臣「ごめんな」


ひ「そ、そうだよ。
あれからもうだいぶ経つのに‥」



臣「いいよ、嘘つかなくて」



ひ「え‥?」


臣「また、俺が嘘つかせてるんだろ?」



ひ「‥」


臣「お前が今、誰と付き合っていようが
関係ねーよ」


ひ「関係ないって‥」


臣「居なくなった理由も
もう、どーでもいい」


ひ「‥」



臣「ずっと探してた
会いたくて触れたくて
苦しくてどうにかなりそうだった」


一歩近づいて
濡れた私の髪に触れた



臣「この手はお前に触れる為にあるんだ」

私の目を見つめて優しく微笑む

臣「この目はお前を見つめる為にある
この声はお前の名前を呼ぶ為
この心は‥」

軽く拳を結び胸をトントンと叩いた


臣「ひろみを愛する為だけにあるんだ」



いつの間にかまた臣くんの腕の中にいた


臣「お前がいなきゃ
生きてる意味がねぇよ」


臣くんの声が震えていた