9月9日に発売となりました『ナイトランド・クォータリーVol.30 暗黒のメルヘン〜闇が語るもの』石神も短篇「It is only make-believe」を寄稿しております。
割と急遽、のご依頼だったのでとりあえずお題をくださいとお願いして、いただきましたのが「ピーター・パン」です。
実はピーターパン、原作を読んでおりませんでした。ディズニーは…子供の頃観たかもしれませんが、よく覚えていません。
ロンドンの夜空を飛ぶピーターと子供たちのシルエットがとても美しいなあと思って、ディズニーショップでポーチを買ったりもしました。
なので知っていることといえば
ヒーターパンは大人になることを拒んでいる少年
妖精の粉で子供たちが「飛べる」ようになる
妖精を信じる心が大切
ティンカーベルは気が強くて可愛い
フック船長はワニに腕を喰われた
くらいのものです。
「パン」という位だからきっと牧神なのだろうなあ、ディズニーでもパンフルート吹いていたようだし、そういえば牧神の物語は書いたことなかったし、よし、書いてみよう。
まずは原作の翻訳二冊を読み、ディズニーのアニメも観ました。
職場にも持って行って、休憩時間にも繰り返して読みました。原文でどういう表現をしているか気になったのでペーパーバックも買いました。
何か、思っていたのと違う…。
というのが感想でした。
最終章で、ウェンデイのもとにピーターが戻ってくるのですが。
ウェンデイがフック船長を話題にするとピーターは
Who is Captain Hook?
と尋ねるのです。
あれだけの大立ち回りの末に殺した敵のことを忘れてるんかーい。
で、ピーターはけろりとして
I forget them after I kill them (殺したらすぐに、忘れてしまうんだ)
と答えるのです。結構ホラーですよ、この台詞。
その後、ティンカーベルのことを聞かれると
Who is Tinker Bell?
とも尋ね返しています。妖精はすぐに死んでしまうから、忘れてしまったようです。
ピーターとティンカーベルは分かちがたいペアだと勝手に思い込んでいた私も、ウェンディとともにショックを受けるのでした。
陽気で無垢で無情なピーター。なかなか面白いやつじゃないですか?
ピーター・パンのエッセンスの入った物語ではなく、ここはもうしっかりと「ピーター・パン」の物語を書こうと覚悟を決めました。ピーターをまっすぐに描けば、きっと「暗黒のメルヘン」となるはずだと思いました。
原作の最後にほんの少し、ウェンディの娘ジェイン、ジェインの娘マーガレットが登場しています。
「It is only make-believe」は「ピーター・パンとウェンディ」の後日譚、母になったジェインと娘マーガレットの物語となりました。文体も翻訳児童文学の雰囲気になるように書きました。
ちなみにラストの一行は、原作のラストの一行と全く同じになっています。
邪悪な何かも登場します。少し。
タイトルの「It is only make-believe」も原作のピーターの台詞からいただきました。
make-believe (作り事、ごっこ遊び)とreal(現実)の区別がほぼないはずのピーターが、ネバーランドでウェンディと「家族ごっこ」をしている時におそるおそる「It is only make-believe,isn't it」と尋ねるのです。
何だかとても哀しい台詞に思えました。
「It is only make-believe」児童文学がお好きな方、ホラーがお好きな方にお読みいただけたら、嬉しいです。