●バンコク


 父がはるばるシェムリアップにやってきてくれた。久々の再会。もう、父が来る一、二週間前の日なんて飛行機が墜落する夢を見たほど(ホント何度も立て続けに!)無事にカンボジアへやって来れるか心配していたのだ。空港で60歳を迎える父の姿を見てやっとホッと一安心。パック旅行で添乗員さんがついている訳でもなく、母が一緒な訳でもなく英語もろくに話せない昭和二十年生まれの私の父が無事に成田を出発し人肌気温36度のバンコクの空港で乗り継いでこのカンボジアの大地に一歩踏みしめることが出来るかどうか。しかも父は足の神経が悪くてひきずっている。
 日本からの救援物資を受け取る。殆んどが授業の教具として折り紙や日本のお菓子。自分が只、食べたい為でもある。それとカンボジアから日本の流行を追いかけるための(気にならないようで実は気になる)最新ファッション雑誌、そしていつかカオスに浸るためのロンリープラネット・インド本を受け取って最後に一通の封書。母からだ。母の書いた文字。一字一時なぞるように読んだ。胸が熱くなる。まるで野口英世の母が息子にしたためた手紙並み。(三上博史主演映画『遠き落日』/ご参考まで)今回のカンボジア行きに際して母は断固として反対だった。日本で働いていいお婿さん見つけて欲しいのが本音らしい、そりゃそうだろうよ。でもムスメはアジアに沈没し、惚れた異国で一年暮らして日本にやっと戻りいい職場で働いていたと思っていたらまた舞い戻ってしまったからさ。あはは、ごめんなさ~い。
 そしていま、父の人生初・一人旅に便乗しここ天使の都と呼ばれる隣国の首都にいる。プロペラ機で50分の場所。陸路だと6時間以上はかかるというのに。考えてみれば父とこんな長い時間を二人だけで過ごすのも初めて。父の背中。白髪。しわの一本一本。この目に焼き付けておいた。(♪ヒートウエイヴ『親父』/ご参考まで)明後日、父を空港へ見送りに行った後、再びシェムリアップへ戻る。
 六十歳の父の見たカンボジアの印象。
 「赤いな・・・」
 
 シェムリアップは赤かった。