東日本大震災で津波の被害に遭った宮城県石巻市にある、かやぶき屋根をふく専門業者が再建を目指している。保管していた1年分のヨシは流されたが、取引先の支援を受け、少しずつ仕事を再開している。社長の熊谷秋雄さん(47)は「この町でやらなきゃいけないことがある」と話し、ヨシ原が広がっていた古里の復活を願う。

 石巻市を流れる北上川の河口は、細く固い良質のヨシが取れる国内有数の産地として知られてきた。この地で熊谷さんの祖父は1948年、ヨシの刈り取りと販売を始め、父貞好さん(77)が93年、熊谷さんが現在社長を務める熊谷産業を設立した。

 会社は技術を評価され、世界遺産に登録された中尊寺(岩手県平泉町)の弁財天堂のほか、「日本一のかやぶき屋根」と美しさをうたわれる正法寺(しょうぼうじ)(同県奥州市)のふき替えや修復を手がけた。

 津波による被害は深刻だった。約30人の従業員は全員無事だったが、自宅が流された従業員も多かった。河口近くにあったヨシの保管倉庫や社屋を失い、仕事を支えてきた豊かなヨシ原は海水につかった。

 支援の手を差し伸べてくれたのは取引先だった。長野県にある寺は震災直後、自宅が被災した従業員を気遣って「住み込みで屋根をふき替えてほしい」と依頼してくれた。ヨシは青森県内の同業者がトラック3台分、無償で提供してくれた。

 熊谷さんは被害を免れたヨシを従業員と一緒に拾い集め、地元にある民家13軒の屋根も修理した。今は宮城県角田市や岩手県花巻市にある旧家で屋根の修復を手がけているが、十数カ所の寺院の発注を受けている。

 熊谷さんは今、倉庫跡地に建てた仮設の小屋で生活している。津波が押し寄せた北上川の川辺に、小エビや小魚がようやく戻ってきたのに気づく。熊谷さんは、黄金に輝くヨシの大群落が復活する日を待っている。【垂水友里香】