登場作品
新 必殺仕事人
必殺仕事人 Ⅲ
必殺仕事人 Ⅳ
必殺仕切人
必殺!
必殺六 主水死す!
必殺 三味線屋 勇次

中条きよし


第一回なので、本来なら、藤枝梅安か中村主水について、書くべきなのだが、何せ、私を裏家業に導いた張本人なのだ。
時を逆上ること二十七年前、『ザブングル グラフティ』を観に、弘前松竹に行った時のこと。
予告が次々と流れる中、そのテーマは、館内に鳴り響いた。
スクリーンに、大写しに表れた漢字二文字。

『必殺』

今でも、忘れられない。
竹林の中での勇次の殺しの場面に、心を奪われてしまった。
しかし、田舎の青森に住む一中学生のこと、映画を見るわけでもなく、そのことは、しばらくすると、記憶の彼方に葬り去られてしまった。
が、名も知らぬ一時代劇の殺し屋と、思わぬところで、再会を果たすのだった。
当時の私の日課の一つに『世界のプロレス』の録画があった。
木曜日の深夜、タイマーをセットするのだが、私が寝ている最中に、父が、チャンネルをずらしていたらしく、翌日、テープに写っていたのは、思いも寄らない映像だった。
黒装束の若者が、鋭利な針で首筋を貫き、人を殺す。
八丁堀の役人が、悪人を斬り殺す。
そして、糸で吊り殺す…。
いきなり、そのシーンが、始まったのだ。
前の日の新聞をチェックし、番組をチェックした。
『必殺仕事人Ⅳ』
さらに、もう一つの偶然が重なっていることに気付く。
野球中継が長引き、仕事人の放送時間が、十五分ずれていたのだ。
ずれていなければ、当然、ビデオには、何も入っていない。
十五分ずれたから、殺しの場面だけを、見ることができた…。

画して、私は、奇妙な偶然が、重なったことにより、三味線屋の勇次と再会することになったのだ。

さて、前フリはここまでにして、三味線屋の勇次を紹介しよう。

中条きよし演じる勇次は、新仕事人から、レギュラー入りした。
中条は、以前のシリーズでも、艶のある悪役を演じていたが、『恐怖の大仕事』において、フランキー堺演じる『名倉堂与一』の針金で、吊り殺される悪人を役じた。
その時、工藤栄一監督、山内プロデューサーに推薦され、レギュラー入りが決まった。
三味線弾きのおりく(山田五十鈴)の息子だが、実の父親は、外道な仕事人で、おりくに殺されている。
中村主水とは、当初は、反目しあい、隙あらば出し抜かんといった緊張感が漂う中、仕事をしていた。
おりくは、そんな勇次に対し、きびしく諫めたり、なだめたりと大人の対応をしていたのが、印象深い。
実は、『視聴率が下がるようなら、入れ替えますから』と、佐門の復活を匂わせられたらしいのは、内緒の話だ。
主水、秀、勇次の黄金トリオの実現で、視聴率はうなぎ登りとなり、三シリーズに渡り、チームを組んでいく。

表家業は三味線屋。
張り替えを中心としたメンテナンスの作業をしながら、小唄を教えている。
中村家にも、出入りしており、せん、りつは、勇次が家に来ると、下へも置かぬもてなしをして、主水をゲンナリさせている。
ちなみに、中村家に、表家業で、頻繁に出入りしたのは、勇次だけ(鉄が、ぎっくり腰の治療に、出向いたことはある)。
殺し技は、三味線の糸(劇中では五番)に、蝋を染み込ませたものを、標的に向かって投げ付け、くびり殺すという荒技。

「助けてくれ?何人、てめえに、そうすがって頼んだんだ?」
昔の女が、泣いて助けを乞うても、無慈悲に地獄に送り出す、一切の感情を捨て去り、仕事に徹するクールな仕事人。
必要以上に仲間と群れるのを好まず、常に一歩引いた態度を取り続ける。
その穴埋めに、女のぬくもりを求めるのか…。

仕事人Ⅳの最終回、秀、加代を見送り、江戸に残る。
鬼アザミの元締めの元で、仕切人グループに加入するが、その外道な仕事ぶりに反目。
仕立屋新吉、髪結い勘平とともに、新グループを結成する。
大奥を追放され、命を狙われたお国、清、虎田龍之介も、仲間に引き入れ、闇の仕事を続ける。
江戸の仕切人の縄張り争いに巻き込まれた勇次たちは、ほとぼりが冷めるまで、江戸を離れる。
その後、江戸に舞い戻り、中村主水、秀と再会。
中村主水の最期を見取り、闇に消えて行った…。


中条きよし自体は、勇次のキャラを大変気に入っており、土曜ワイド劇場の「マル秘京都仕事人」などでも、ピアノ教室の講師をしながら、恨みを晴らす裏の仕事人(?)をしている。
殺しのシーンは、そのまま、勇次の衣装で表れ、糸で吊り殺している辺り、スピンオフと言えよう。

中条きよしは、勇次の復帰には意欲的なので、主水なきあと、必殺を支えてもらいたいキャラである。
若い渡辺の後ろ盾として、現存する仕事人を見守ってもらいたい。