抗がん剤の臨床試験は第一相試験、第二相試験、第三相試験と段階を踏んで、エビデンスある治療、薬剤となります。しかしこの内容については、医師でさえ理解していないことが多いのです。私も恥ずかしながら、当初は医師になって15年以上、しかも抗がん剤関係の臨床、研究をしていたにも関わらず、全く知りませんでした。今でも、抗がん剤治療に関わっている医師に、臨床試験特に第一相試験のことを聞いても、本当の抗がん剤の専門家である腫瘍内科医を除くと、内容を理解していないのが現状です。
もちろん第一相試験の内容を理解していないことを批判しているわけではなく、これを理解すると、私がなぜがん休眠療法をこれだけ熱心に主張しているかが理解して頂けるのではないかと思っているからです。
第一相試験とは、例えばネットや教科書で調べると、毒性試験、安全試験という言葉が羅列され、つまりはどの程度副作用が出るかを検討する試験と説明されています。私も医師になってからも15年間以上はそういう理解でした。
ところが、第一相試験には大きな別の役割があるのです。それは、「投与量の設定」です。世界中で行われている抗がん剤の投与量は、いずれも第一相試験で決定されたものです。第二相試験、第三相試験で、その薬剤や治療が無効と判断されることがあっても、投与量が変更されることはありません。
私が指摘したいのは、「投与量の設定」の方法なのです。
まず、肝機能、腎機能などの異常がなく、全身状態にも問題がない比較的健康ながん患者を集めます。その内3人に、動物実験などで推測された安全と思われる抗がん剤の量が投与されます。3人いずれにも、重篤な副作用が出なかった場合は、抗がん剤の量を次の段階に増やして、別の3人に投与されます。この3人でも重篤な副作用の有無が検討され、1.重篤な副作用が誰にも認められなかった場合にはさらに次の段階の量へと進みます。2.2人以上に重篤な副作用が出た場合は、そこでストップとなります。3.そして1人の時は、別の3人に対し、同じ量の抗がん剤が投与されます。つまり、この量では合計6人に投与されたことになります。そして、6人中3人以上に重篤な副作用が認められた時には、ここでストップとなりますが、6人中2人以下の場合は、次の段階の投与量に進み、また新たな3人に投与されるという仕組みです。第一相試験は、理論的には最小9人で決定されますが、通常は15人程度(3から4段階で決定)になることが多いようです。
このストップした投与量が、「最大耐用量」と呼ばれ、通常この量か、一つ下の量が、抗がん剤の投与量(推奨用量と呼ばれます)となるのです。
少しややこしい話になりましたが、大まかに言えば、半分以上の患者に重篤な副作用が出る量が「最大耐用量」ということになります。ただ、一段階につきそれを僅か3人で決定されているということです。
私がこれを初めて知った時は、本当に驚きました。信じられませんでした。現在も、医師や薬剤師が標準療法の標準量を厳格に守って抗がん剤治療にあたっていますが、その標準量が、こんな簡単な方法でしかも少人数で決めて大丈夫なのかという素朴な疑問です。テーマ:抗がん剤でも紹介しましたが、さらにアルコールと同様に個人差も存在するにも関わらず、それがないことを前提にした方法であることは明らかです。
そのため、もし同じ抗がん剤をあちこちで第一相試験がなされると、「最大耐用量」は場所によって異なる結果となる可能性も高いのです。実際、ある抗がん剤の第一相試験がいくつかのグループによってなされたところ、グループにより「最大耐用量」が1.5倍も異なるという結果が出たこともあります。
ここで改めて考えてみると、試験で登録される患者さんはがん患者とは言え全身状態に問題がない方ばかりです。しかし実際の臨床の場では、高齢者はもちろん、全身状態が落ちている方、肝機能に少し問題がある方などがほとんどなのです。さらに、前述しましたように、抗がん剤にはアルコールと同様な機序で個人差もあるのです。この状況で、ここに紹介した第一相試験に基づく投与量で、本当に問題ないのでしょうか。このことこそ、私が標準療法の問題点と指摘したポイントです。
ところで、私が開発したiMRD法(個別化最大継続可能量)(テーマ:がん休眠療法④で紹介)は、患者様一人一人で第一相試験を行なっているようなものです。しかも第一相試験本来の目的である安全性と継続性を見るためにです