家庭用の掃除ロボットとして世界的にヒットしている、米アイロボットの「Roomba(ルンバ)」。その最新モデルである「700シリーズ」が、10月7日に国内発売された。今回は特に日本のユーザーの意見を取り入れ、畳掃除への対応やデザイン性の向上など、多くの機能改良を施したという。 2002年に米国で最初のモデルが発売されてから、これまでに600万台を販売したというルンバは、700シリーズで第7世代目となった。これから先、どこまで進化していくのか。家庭用ロボットの未来図は――。アイロボットのコリン・アングルCEO(最高経営責任者)に聞いた。
――ルンバが世界的にヒットしているが、これまでに家庭用ロボットの成功例は珍しい。消費者に受け入れられた理由を、どう分析しているか。
コリン・アングルCEO(以下、アングル):これまでに発表されたロボットの多くは、様々な機能を持っていることをアピールポイントにしてきた。だが、結局はそれらを低いレベルでしか実現できていない。一方、ルンバはきちんと機能する。しかも、購入しやすい価格なので、富裕層のためだけの製品で終わっていないのが強みだ。
それに従来のロボットといえば、人を驚かせるようなデモンストレーションをする精巧なものが多かった。しかし、どれも高価で、“芸術”のようなもの。テレビのパフォーマンス向きではあっても、決して実用的ではない。
日本の技術は優れているが、売るための「製品」ではない
――日本の企業や研究機関はロボット分野で高度な技術を持っているが、家庭用に関してはほとんど実用化が進んでいない。こうした現状をどう見ているか。
アングル:日本の企業や研究機関が、非常に高度な技術を持っているという考えには、私も同感だ。しかし、日本の企業や研究機関は、二足歩行したり、走ったりするヒューマノイド型の開発にこだわっているのが気になる。これらは技術的には非常に優れているものの、どちらかと言えばデモ用の技術であり、製品化することに焦点が当てられているように思えない。
また、日本のロボットの多くは収益を得るためのものではなく、他社に対する技術的な優位性を証明する手段、という意味合いが強い。それはマーケティングのためのロボットであって、製品ではない。アイロボットはロボット専業のメーカーとして、売るためのもの、売れるものを作ってきた。それが大きな違いだ。
――売れるロボットと、そうでないものの違いは、特にどこにあると考えているか。
アングル:(少し考えて)ちょっと変わった回答をしたい。我々が売るロボットが仮に故障して、ユーザーに愛想を尽かされてしまえば、当社の従業員は仕事がなくなってしまう。つまり、これはビジネスである、ということだ。
一方、デモ用ロボットの目的は、エキサイティングなショーを見せること。それが違いだと思う。我々のロボットはビジネスであり、デモ用ロボットはアカデミック(学術目的で非実用的)なものだ。
アングルCEOは、日本企業の技術力を認めながらも、技術偏重で実用的ではないと辛辣に指摘する。事実、エキサイティングなショーを見せる人型ロボットは、要素技術の開発には役立っているが、それ自体が製品として店頭に並ぶことはない。「これはビジネスだ」「ロボットはかっこいいだけではなく、役に立たねばならない」と言い切るアングルCEOの言葉は、日本のモノ作りの未来を考えていく上で、示唆に富んでいると言っていい。単機能であることがルンバの強み
――家庭用掃除ロボットの分野で競合製品が増えている。アイロボットの強みはどこにあると考えているか。
アングル:我々の最大の強みは、床をきれいに掃除することに特化して、ルンバを開発していることだ。あれこれ技術を詰め込むのではなく、完璧に床掃除をこなすためだけに技術を投入し、最も効率の良いシステムを構築したと自負している。
例えば、ルンバはセンサーによって汚れている場所を感知し、そこを特に念入りに掃除する。状況に応じて最適な動きを素早く判断する人工知能「iAdapt(アイアダプト)」を搭載しているので、家具が置いてあるような場所でもきちんと掃除できる。
競合他社のロボットには、部屋をマス目状に区切って順番に掃除していく仕組みの製品もある。それらは何も置いていない部屋であれば有効だが、物が置いてあると混乱して掃除を十分にこなせない。家具がたくさんあるような部屋では、きれいに掃除できないだろう。
――ルンバは2002年の発売から9年を経て、第7世代に進化した。今後、ルンバをどう進化させていくのか。また、どのような理想像を思い描いているのか。
アングル:今後は新たな特徴をルンバに加えていくというよりは、家庭でいろいろな作業をこなすロボットを新たに提供していきたい。ルンバは自らスイッチが入り、床をしっかり掃除し、そして自分で充電もする。これと同じように、床や壁の拭き掃除をするロボットや、風呂掃除をするロボット、洗濯物をたたんでくれるロボット、芝刈りロボットなど、さまざまな領域で可能性があると思う。アイロボットは、こうした分野において、ロボットを進化させていきたいと考えている。
ロボットがロボットを管理するという未来図
――家庭用ロボットの未来像について、どのようなイメージを持っているか。また、どのようなニーズに応えていくか。
アングル:長期的な目標としては、家が家自身をメンテナンスするような仕組みを、ロボットによって構築したい。そうすれば、その家の住人が家事から解き放たれるはず。これが家庭用ロボットの未来像だ。
先ほど説明したようなヘルパーロボットを充実させる一方で、双方向型のロボットが必要になるはずだ。この双方向型ロボットが、住人とコミュニケーションして“執事”のような役割を果たし、個々のロボットを管理する司令塔になる。こうした長期的なビジョンの鍵となるのが、開発中のロボット「AVA(エイバ)」だ。
それ以外にも、ロボットは遠隔医療にも有用だと考えている。最新の医療テクノロジーが病院だけでなく、一般家庭にも入ってくるだろう。高齢化社会が進むとともに、遠隔医療のニーズは高まってくるはずだ。
ロボットが家を守り、メンテナンスし、そしてユーザーの健康までも管理してくれる。アングルCEOが思い描いているのは、そんな未来だ。高齢化社会においては、家の掃除や重い物の持ち運びなど、身の回りのことを誰かに任せたいというニーズは高まる。アングルCEOは、「それをロボットに任せることで、高齢者が長く一人で豊かに暮らせる」とも指摘する。こうした考えはアイロボットに限らず、ロボット開発に携わる多くの企業に共通しているはずだ。 今後、我々の身近なところで、ロボットの存在感は増していくことになるだろう。ただ、その未来像は、我々が思い描いていた「鉄腕アトム」や「ドラえもん」がいるような世界とは、ちょっと違うのかもしれない。(文・写真/瀧本 大輔=日経トレンディ、写真/近森 千展)