T19「よ、宜しくお願いします」
「初めまして。私は婚活エージェントのKと申します。我々をどちらで知って頂いたのですか？」
T19「会社の先輩がWebサイト見付けて「ここ良さそうだよ」って紹介してくれたんです。マッチングアプリで行き詰っちゃったもんですから」
「成る程。我々は膨大な会員様の家族構成、職業、年収、普通は聞かれないようなプライベート事情に至るまでを把握し、価値観の当て嵌まる男女に出会って頂いて、ご成婚までを仲介します」
T19「おぉ･･･そう聞くとエージェントっぽいですねぇ」
「T19様は定職に就かれていて持病も無いようですし、このコースでの入会なら十分に見込みは有ります。今は20代キャンペーンをやっておりまして、かなりお得ですよ」
T19「へぇ３万４千かぁ･･･アプリと比べたら安くは無いけど、そんぐらいの値打ちはありますよね」
「いえ、もう一桁」
T19「へ？･･･いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん･･･34万！？」
「今「高っ」て思ったでしょう？しかし、マッチングアプリに溢れる男女は多くが遊び目的。その中から真剣に婚活をしていて、しかも自分と相性の合う相手をピンポイントで見付け出すのは至難の業です。運良く良い相手と出会えたにしても、そこからの交際は誰もサポートしてくれない。だらだら付き合って破局ということも起こり得る。そうなってもアプリの運営が何をしてくれるわけでもない。我々はアプリの限界を遥かに超えたサービスができる。だからこそ、この金額です。もちろん、私を頼って頂けるかの判断はT19様に委ねますので、決まり次第、また連絡をお願いします」
T19「･･･」
マッチングアプリは全消ししちゃったし、親もうるさいし、普通の結婚相談所行くのも気が引けるしで、婚活エージェントなる方に話を聞いてみた私T19。K氏はスーツの決まったおじさんで若干怪しいけれど余裕たっぷりな方でした。
T19「で、緊急会議を開かせてもらったわけだが、流石に34万ってなると、俺もだいぶ迷ってるのが正直なところです」
13「今年は調子良く節約できてたのが水の泡だぞ？」
オレノ「ステラ３台買ってもお釣りが来る金額ね。頭が痛いわ･･･」
アンカニー「マスター様？昨年クソデカいドールに５万円お出しになったこと、今年に入ってマッチングアプリに４万円出費されたこと、数ヵ月に１回は２万円の風俗店にお顔を出され、常連客みたいになってること、私は目を瞑ってきましたが･･･今度という今度は反対せざるを得ません！D軍の尊厳のためです！そうですよねボス！」
ダーター「･･･マスターの意思に任せる」
アンカニー「何故ですか！？D軍の活躍に悪影響が出るかもしれないのです！」
ダーター「影響が出るほど活躍できていない、D軍は」
デビル「そうそう！ポッパーばっかり使うじゃんかマスター！」
アンカニー「我々は泣き寝入りですか！？」
ダーター「必要なら、私が出向く。それでどうかな？」
アンカニー「･･･」
ダーター「マスター、やるなら価値ある投資になるよう努め給え。半端な男で終わらぬように」
T19「はい」
婚活は大事ですが釣活も忘れるわけにはいかず、思い悩みつつ夜道を走り、向かったのは某県某市のバス釣りポイント。
ここでD軍メンバーを使ってあげたら良いのに、釣果重視で操作の簡単なルアーをチョイス。我ながら気の利かない男だなぁ。
河原にカエルがいっぱい居て、それを狙ってバスも岸に寄って来てるでしょうってことでルアーを水面でモジモジさせると、１投目で明らかにバスじゃない巨大魚がHIT。引きを楽しみつつ、暴れ疲れさせてから岸へ誘導。
持ち帰って鯉こく作りたかったけど、クソ重いコイツを担いで釣り歩くのは地獄だろうし断念してリリース。
ちなみに鯉こくって亀とか鳥でも作れるそうで（要は肉の臭みを消したい時に有効な調理法）、そこまで何でも有りなら、私的には不味いと悪名高いトド肉で鯉こくやってみたいんですよねぇ。
ルアーの泳ぎを速めてナマさんを連続GET。明るくなると同時にポツポツ小雨がパラつき、水面に浮かぶルアーに猛アタック。
ライギョか！今日はそんなこともあろうかと、怪魚専用の男前セッティングなんだよな！また川に飛び込むのはごめんなんで。
晴れ間が出てちょっと暑くなり、えっちらおっちら川を遡行してると、30センチぐらいのバスが佇んでいました。
私が近付いても逃げも隠れもせずジッと睨み返すその背後には巣。
バスの♂に卵を保護する習性があるのは有名な話ですが、ここまで肝が据わった奴は今まで見たことがありません。
自分の５倍は大きい相手を前に１歩も引かない。それどころか今にも飛び掛かって来そうな出で立ち。
声は出せなくても「失せろ」と言っていることがハッキリ伝わる怒りの目。
･･･あんた、男の中の男だねぇ。見習わせてもらうよ。
父親バスの気迫に負け撤退。帰りの高速道にて、猛スピードで駆け抜けていく高級車達を横目に、悠々と走る我がNワゴン。
やっぱ男は中身だよ。高い車乗って大物感出そうとしたって、運転の荒さで正体がバレバレだぜ。
かく言う私がホンダで軽トラの次に安いNワゴンに乗ってるのは❝現金一括で新車を買ってみたかった❞というしょうもない理由。
そりゃあ、ディーラーに120万円の札束をポンと手渡した瞬間の高揚感たる筆舌に尽くし難いもんでしたが、後々考えるともっと安い金額で中古のジムニーとか買えただろと複雑な気分になります（笑）。
まぁNワゴンは既に６年乗ってて相棒同然ですし、ここまで来たらもう廃車まで付き合おうかと。
数日後。
T19「こんにちは」
エージェントK「どうぞおかけ下さい。お考えは固まりましたか？」
T19「えっと、確認したいことがあるんですけど、紹介後も、相談すればサポートしてもらえるんですね？」
エージェントK「もちろんです。T19様に合う服装のコーディネート、デートコースの提案、ランチやディナーの予約、プロポーズのタイミングから台詞の助言まで、全てサービス内容です」
T19「契約期間は１年ですけど、たった１年で成婚しちゃうのって、それはそれで大丈夫なんですかね？」
エージェントK「T19様、宜しいですか？運命の出会いがあり、素敵な恋愛で仲を深めて最後に結婚。それは誰もが憧れる展開です。しかし今日日、ドラマや漫画でもそんな展開は無い。時間は待ってはくれない。運命を待ち続けた結果、20代が終わって30代、40代、50代･･･そんな方を何人も見てきました。結婚❝前❞の展開に拘るより、結婚❝後❞の充実に力を入れるのが賢明だと私は考えます」
T19「･･･」
エージェントK「その理念の下で、出会い～成婚を最速で済ませられるよう仲介して参ります」
T19「乗った！」
T19「35万あるんで、お釣り下さい」
エージェントK「確かに承りました」
今回の決まり手：プロガイドIM６＋カルカッタ200XT＋カーボナイロン25ポンド＋ふく鯰、カクル