釣りデート当日。午前６時。ブロンコビリー岡崎稲熊店前（Nさんとの待ち合わせ場所）。
T19「･･･よし、出発しますか」
８時。
T19「のんびり走り過ぎたかねこりゃ。一先ず美味いモン食って釣りに備えないとな。天気予報は晴れのち曇りのち雨。最高の釣りデート日和！なんてね。どうでもええわ天気なんか」
スクリーム「８時･･･旦那、上手くやってるかな？初っ端から会話無くなってお通夜になってないか心配で心配で」
13「マスター、緊張してこの２日ぐらい全く喋らんかったからな～。空回りしてなきゃ良いが」
ラスカル「そうだよ。僕がアドバイザーで付いてってあげようって言ったのに断固拒否されてさぁ」
スクリーム「でも案外、あだ名で呼び合えるぐらいになってたりしてね」
ラスカル「あだ名かぁ･･･そう言えばさ、マスターのハンドルネームの❝T19❞ってどういう意味なの？」
13「Tは名前のイニシャル。19は誕生日。あいつ高校の頃ゴルゴ13に熱中していてな、G13と似た響きになるニックネームを三日三晩悩んだ結果決まったんだよ」
スクリーム「キッズステーションでやってたねーゴルゴ･･･ひょっとして昔の旦那の写真が軒並み目付き悪いのって･･･」
13「そういうこと。憧れてたんだろうな～ハードボイルドな男に」
ラスカル「馬っ鹿だなぁマスターw」
13「ちなみに正しい読みは❝ティーナインティーン❞な」
※ネットを通じて知り合った方には大抵「てぃーじゅうきゅうさん」って呼ばれるT19。
８時30分。某県某市、道の駅の食堂。
「いらっしゃいませ。お１人様ですか？」
T19「えぇ独りです。何か、変わったジビエ料理はありますかね？」
「今日でしたら猪ラーメンか熊カレーがございますよ」
T19「クマ！？良いですね～体力付きそうで。じゃあクマを１つ」
「はい畏まりました」
T19「頂きます･･･うん！美味い！」
「全然獣臭く無いでしょう？」
T19「思ってたより柔らかいし上品な味なんですね。この辺の山のクマですか？」
「えぇ、駆除された月輪熊の肉です」
T19「いや～、出くわして今度は僕が食われないように注意しないと。へへっ」
「今日は山登りですか？」
T19「いやいや、軽く渓流釣りに」
「まぁ･･･昨日の雨で増水してるやろうし気ぃ付けて下さいね」
T19「ああどうも。危ないと思ったらすぐ上がりますんで」
10時。某河川遊漁券販売所。
T19「すみませ～ん、遊漁券下さい」
「はいっ、男性１名様ね。今日は濁りで厳しいかもしれませんけど宜しいか？」
T19「まぁ、どうにか釣れるように頑張ります。へへっ」
「この頃はけったいなブラックバスがだいぶ上流の方まで上がって来とるし、糸切られんようにねぇ」
T19「へぇこの川にバスが！気を付けます（知ってる）」
スクリーム「10時かー、もう釣り始めてるかな」
13「ところでお前、どうして近頃マスターの相談役になってんだ？」
スクリーム「あたし今年で19歳だから、年頃の女の子の心理を教えてほしいって旦那が」
13「人間じゃないやつに恋愛相談しても駄目だろう」
スクリーム「人間の相談相手が居ないからこうなってるんでしょ。仕事と趣味に時間費やし過ぎた結果っすよねー」
ラスカル「おいちょっと！これ見てよ･･･」
俺の気分とは対照的、川岸の雑魚達は活気に満ち溢れてんねぇ。八つ当たりのタモ網ガサ！
小魚の顔ぶれを見るに、まだまだ渓流って感じじゃないなぁ。取り敢えずはバスを狙ってみますかね。
･･･おかしい。何でこんな葬式みたいなムードで釣りしてんだ。Nさんとワイワイ騒いで、釣りデートを満喫するはずだったろ？
あっ、HIT。体が勝手にアワセ入れたか。へへっ、悪くないバスだ。
んじゃあもうちょい標高高い所まで行って、本格的に渓流やろう。
釣り初挑戦のNさんに渓流はハイレベル過ぎないかって？無問題。平気。大丈夫。一切心配無用。
･･･釣りがしたいって声掛けてくれて、一緒に釣具買いに行って、笑顔で「Trout fishingやりたい！」って言ってくれたNさん。
しかし釣りデート２日前、アプリから、LINEから、Nさんは忽然と消えた。
気持ちの整理がつかない中、迎えた今日この日。俺は予定の30分前から待ち合わせ場所で待機していた。
何かの間違いだ。Nさんが来ないと決まったわけじゃない。来てくれる可能性は有る。シュレディンガーのNさんである。
･･･約束の時間を過ぎても、Nさんが現れることは無かった。
実はNさんってちょっとドジで、同じブロンコビリーでも岡崎六名店の方へ行っちゃった･･･という可能性も諦め切れず、そっちも見に行ってみたけどNさんの姿は無かった。
何か勘違いして、同じハンバーグレストランのびっくりドンキーに行ってるんじゃないか･･･とも考えたが、ドンキー岡崎店にも、豊田南店にも、Nさんは居なかった。
そんなわけで、結局、今回も普段通りのソロ釣行。この身１つだから、沢も藪も遠慮せず進んで行ける。
ポイントも全部独り占め。好きな所にルアー投げて、飛び付いて来た魚を淡々と引っこ抜く動作のループ。
･･･何がいけなかった？失礼なことを言った覚えは無いし、馴れ馴れしい態度もとっちゃいない。
「一緒に釣りするの楽しみです！」って言ってくれたのは、単なる社交辞令だったのか？
どうでも良いんなら、初めから声なんて掛けなきゃ良かったじゃないか。
お別れするにしたって、最後の挨拶ぐらい、「仲良くしてくれてありがとう」ぐらい言わせてくれても良いじゃないか。
一方的に消え失せちゃって、独り残された俺はどうすりゃあ良いんだよ。
･･･漁協のおっちゃんは厳しいって言ったが、魚が多くて良い渓流じゃないの。
Nさん、今日来とけば、数え切れんぐらいのアマゴとイワナが見れたのに、御一緒できず残念です。
魚の顔見過ぎて、貴女の顔がどんなだったか、どんなお話したか、段々記憶が薄れてきちゃいました。最後に１つ。
短い間ではありましたが、仲良くしてくれてありがとうございました。
スクリーム「Nさん用のロッドとリール･･･」
ラスカル「こないだのデートで買って来たラインやルアーも置きっ放しだ･･･」
スクリーム「あ、雨上がりだし、夕方からまた雨の予報だし、釣りは中止になったのかもよ？」
13「いや。マスターのやつ、自分のトラウトタックル１セットだけ持って行ってる」
スクリーム「･･･じゃあ旦那は今、誰と釣りしてんの･･･？」
15時。某河川渓流付近の山道。
T19「あの女の人、結局何だったんだろうねぇ。俺が白人女子と釣りデートなんて、今になって想うと現実味無さ過ぎだよなぁ。夢か幻覚だったのかなぁ。いや、確かに彼女は居た。今はもう見えないだけで、確かに居た。彼女はきっと･･･」
今回の決まり手：アモルファスウィスカー・ファントム562ULF＋月下美人MX＋ナイロン８ポンド、ナイロン４ポンド＋ギルネード、スピアヘッド・リュウキ38S