009 花の色は 移りにけりな いたづらに 我身世に経る 眺めせし間に  小野小町


015 君がため 春の野に出でて 若菜摘む 我が衣手に 雪は降りつつ  光孝天皇


021 今来むと 言ひしばかりに 長月の 有明の月を 待ち出でつるかな  素性法師


023 月見れば 千々に物こそ 悲しけれ わが身ひとつの 秋にはあらねど  大江千里


030 有明の つれなく見えし 別れより 暁ばかり 憂きものはなし  壬生忠岑


040 忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は 物や思ふと 人の問ふまで  平兼盛


043 逢ひ見ての 後の心に 比ぶれば 昔は物を 思はざりけり  権中納言敦忠


050 君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな  藤原義孝


052 明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほ恨めしき 朝ぼらけかな  藤原道信朝臣


053 嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る  右大将道綱母


054 忘れじの 行く末までは 難ければ 今日を限りの 命ともがな  儀同三司母


055 滝の音は 絶えて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞えけれ  大納言公任


056 あらざらむ この世のほかの 思ひ出に いま一度の 逢ふ事もがな  和泉式部


057 めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬまに 雲隠れにし 夜半の月かな  紫式部


059 安らはで 寝なましものを さ夜更けて 傾くまでの 月を見しかな  赤染衛門


061 古の 奈良の都の 八重桜 今日九重に 匂ひぬるかな  伊勢大輔


063 今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを 人伝ならで 言ふよしもがな  左京大夫道雅


065 恨みわび 干さぬ袖だに あるものを 恋に朽ちなむ 名こそ惜しけれ  相模


066 もろともに あはれと思へ 山桜 花より他に 知る人もなし  前大僧正行尊


067 春の夜の 夢ばかりなる 手枕に 甲斐なくたたむ 名こそ惜しけれ  周防内侍


068 心にも あらでうき世に 長らへば 恋しかるべき 夜半の月かな  三条院


070 寂しさに 宿を立ち出でて 眺むれば 何処も同じ 秋の夕暮れ  良選法師


077 瀬を早み 岩に堰かるる 滝川の 割れても末に 逢はむとぞ思ふ  崇徳院


079 秋風に たなびく雲の 絶え間より 洩れ出づる月の 影のさやけさ  左京大夫顕輔


080 長からむ 心も知らず 黒髪の 乱れて今朝は ものをこそ思へ  待賢門院堀河


081 ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば ただ有明の 月ぞ残れる  後徳大寺左大臣


082 思ひわび さても命は あるものを 憂きにたへぬは 涙なりけり  道因法師


083 世の中よ 道こそ無けれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる  皇太后宮大夫俊成


084 長らへば またこの頃や 偲ばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき  藤原清輔朝臣


094 み吉野の 山の秋風 さ夜更けて ふるさと寒く 衣打つなり  参議雅経