旅行2日目。


昨日は班の中では結局瑛子ちゃんと

和枝と話しただけで、他の3人とは

あまり話さなかった。


昨日の夜は瑛子ちゃんとちょっと

おしゃべりして、あとは早く寝てしまった。

和枝たち4人はかなり遅くまでしゃべってた

みたい。今日は眠そうだ。




やっと期末も終わり、今日か ら3泊4日の旅行だ。
朝、7時半に学校に集合。

荷物がけっこう重いので、ヒロちゃんが送ってくれることに
なった。他の部屋住みの子たちとパパがうちの門のところで
手を振った。ママはヒロちゃんと一緒に送りに来てくれた。

早く家を出たので、学校の前に着くとまだ7時8分だった。
クラスごとに整列してから班ごとにバスに乗った。

ママがあたしの窓の下に来ていつまでもいろいろ言うので、
バスがなかなか出発できなかった。


今日は4代目の襲名式だ。
何事もなければいいけど。

今日から期末試験。初めての期末だし、
一応ひととおり勉強したけど、イマイチ自信ない。
とにかく早く終わることを祈るのみ。


4代目・斉藤さんの襲名披露 があるとかで、パパは
いつもの通り川上さんを連れて出掛けていった。
たかしくんは今回は留守番だ。パパはたいてい
この2人を連れて歩いている。

襲名式はあさってらしい。今回は電車で行ったので、
あたしも途中の駅まで送って行きたかったけど、
光龍会とのことがあるので用心のため行けなかった。

今のところはお互いにたいした被害もないみたい
だから大丈夫だとは思うけど、油断は禁物だ。

パパ、気を付けて行ってきてね。


学校の帰りに偶然和枝と会ったので、2人で寄り道した。
和枝は旅行の班が一緒になってから、クラスでも時々
話しかけてくるようになった。話して見ると怖くないし
子供の頃と全然変わっていなくていい子だった。

和枝は学校も家も“ムカツク”って言っていた。
そのわりにはあのグループでは珍しく、ほとんど
毎日学校に来ている。本当はみんなが思っている
ほどワルじゃないんだろう。



パパは最近よくあたしの学校のことをいろいろ
訊いてくる。たまにならいいけど、あまりしょっちゅうだと
うるさかったりもする。

パパたちと違ってそんなに修羅場をくぐっている
わけじゃないんだから、そんなに毎日おもしろい話
ばっかりあるわけないやん。







学校で7月14日から行く旅行の班を決めた。女子6人ずつの
班を作ることになった。あたしのグループは8人になって
しまったので、ジャンケンで2人が4人の班に移ることになった。

あたしともう1人、瑛子ちゃんが負けて4人の班に合流した。
そこは和枝の班だった。

和枝のほかに3人。2人は和枝と同じ
小学校、もう1人は別の小学校出身らしかった。

なんとなく気が重い。このグループは学年ではもちろん、
学校でも目立つほうでけっこう怖がられているし、先輩たちにも
目をつけられている。でも班の人数は6人ずつと決まっているし、
ジャンケンで負けたので仕方ないか。


久しぶりに和枝と口をきいた。他の3人とはほとんど
話さなかった。同じクラスでも今までほとんどしゃべった
ことはない。今回近くでじっくり観察する機会に恵まれた。

和枝も含めて、靖子、弘美、多賀子の4人とも禁止されてる
はずのパーマをあてたり、髪を染めたり制服をくずして着たり
してなんとなく派手なカンジだ。クラスの子たちとも同じような
タイプの子たち以外とはほとんど口をきかないし、旅行の
話し合いで一緒に座っていても、あたしや瑛子ちゃんのことは
バカにしたような態度で接してくる。和枝だけは昔仲がよかった
せいかそんなことないけど。

3泊4日もこのメンバーって憂鬱だなあ。




昨日の夕方、ゆう子から電話 が来てお父さんの仕事の
都合で急に名古屋に引っ越すことになったと聞かされた。

寂しいしショックだけど仕方ない。
電話や手紙の交換はずっとしようと約束した。

昨日の夜、絵理子ちゃんたち が帰ってから、寝る前に
1人で絵理子ちゃんと話したことを考えていたら、前に
読んだ雑誌かなんかに書かれていたことを思い出した。

そこには、極道の奥さんには2通りあり、ひとつは旦那の
組のことを全て把握して口を出したがるタイプ。もうひとつは
全く興味なしで全然関わらないタイプ。そして関東の人よりも
関西の人のが関わりたがるタイプが多いらしい。そしてその
奥さんの態度は少なからず子供たちにも影響している、と
書いてあった。

カタギの人が書いた文章だから、当たっているかどうかは
わからない。でも、絵理子ちゃんとあたしのことに当てはめて
みてもなんだか当たっている気がする。


関東とか関西とかの地域差のことは、あたしにはよくわからない。
絵理子ちゃんは隣の市に住んでいる。両親とも地元出身だけど、
部屋住みはいないし、お母さんはこの稼業には興味がないみたい。
だからか絵理子ちゃんも組のことには全然無関心。

あたしのママは東京出身だけど、どっちかっていうと
すぐ組のことに介入したがる。その影響かどうか、
あたしもいろいろと首を突っ込んでしまう。でも
絵理子ちゃんも言っていたけど、若い衆が9人も
一緒に住んでいたら誰だってイヤでもそうならずには
いられないと思う。そしてつい、いろいろと意識し過ぎて
悩んでしまうのだ。


知らず知らずのうちに、パパと若い衆たちの会話に口を
はさんでいる自分に気付くことがある。そのあげく“おまえは
黙ってろ”と部外者扱いされ、若い衆たちと同じようには
扱ってもらえない。かと言って一般のカタギの子とも違う
どっちつかずで宙ぶらりんの状態でいる自分にイライラしたり、
抗争の話などを聞いて怖くなったりしている。

最初っからカタギの家に生まれていれば、こんなことで
悩んだりしないで済むのに、と時々思ったりもする。でも、
今さら仕方ない。

確かなのはパパもママも大好きだし、組の人たちだって
たいていは好き。その気持ちはやっぱり変わらない。

パパの知り合いの家族がうち に来た。雅也おじさんとおばさんと
その娘の絵理子ちゃん。雅也おじさんはパパと同じ心誠会系の
組の組長だ。

おじさんは運転手代わりの若い衆を1人だけ連れていた。
あたしのうちは大阪市内からそんなに遠くない中都市の
市内だが、繁華街に面しているわけではなく住宅街にある。
光龍会とモメているこんな時でも、そんなに警戒する
必要のないところのはずだ。むしろ若い衆をぞろぞろ
連れてくるよりこのほうが目立たなくて安全だろう。
村井さんというその若い衆は、タケと親しいみたいで
楽しそうに話していた。

あたしも久しぶりに絵理子ちゃんといろいろな話をした。
会うのは半年ぶりくらいだ。
絵理子ちゃんはあたしと
タメ(同い年)だけど、ママやうちの若い衆たちは
絵理子ちゃんのことを“すごくしっかりしている”と
いつも褒めている。あたしにはそれはピンと来ないけど、
そんなのは抜きにして絵理子ちゃんとは他の友達に
言えないようなことも話し合える。

ゆう子をはじめ学校にはいろいろ話せる子もいるけど、
やはり組関係のことはカタギの家の友達には話し
にくかったり、いちいち説明するのが面倒くさかったり
する。かと言って親がパパと同業の子供たちも
絵理子ちゃん以外にもたくさん知っているけど、
当たり前だが子供同士でいつも組関係の話ばかり
しているわけではない。と言うより、普段そういう話は
ほとんど出ない。

でも同じ一人っ子でタメでお互い幼児の頃から知って
いてパパ同士も同業のせいか、絵理子ちゃんはあたしと
違って組のことには全然関心がないにも関わらず、
なぜか普通はしないような話もできてしまう。



あたしは最近、よく極道、世間でいうヤクザのことに
ついて考える。今まで家のこと、というよりパパの職業に
ついて深く考えたことはなかった。ガキっぽかったせい
かも知れないし、この環境の外の世界をあまり知らなかった
せいかも知れない。

あたしが生まれる前からパパは小島組を張っていたし、
若い衆たちも今ほどたくさんはいなかったけど、記憶に
ある限りいつも何人かはうちに住んでいた。あたしに
とってこの環境はずっと日常的なものだったし、
当たり前のものだった。


まわりを見ていて思うんだけど、概していわゆる
ヤクザというのは家族、特に子供にはとても甘いと
思う。もちろん全部がそうではないけど、時として
過保護なほどに。でもパパもその友達も若い衆たちも、
時々人が違ったようになることがある。組の人同士で
話している時などだ。

特に今回のこの抗争が始まってから、顕著になったようだ。
そんなパパは怖かったけど、普段のパパは好きだった。

2階のあたしの部屋で2人きりになってから、あたしは
最近いろいろ感じ始めている、世間の人たちのヤクザや
その家族に対する冷たい視線や偏見などについて話し
続けていた。絵理子ちゃんは黙って聴いてくれていたけど、
突然言った。
「玲菜ちゃん は自分がヤクザの娘いうことや、まわりの
ヤクザに対する反応を意識しすぎや。極道はお父さんたちで
あって、あたしたちやないんよ。世間は他人のことならなんと
でも言うもんや。そんなに気にせんでもええんとちゃうか。
疲れてまうで」


確かに絵理子ちゃんの言うことも当たっている。極道は
パパたちであたしはカタギの中学生だ。でも、やっぱりそうは
見ないであたしとパパの職業を結びつけて考える人も少なく
ない。絵理子ちゃんはそんな経験をしたことはないんだろうか。

「まあ、こんだけ部屋住みがおったら、イヤでも意識してまうわな」

絵理子ちゃんは、笑いながら付け足した。

絵理子ちゃんの家には部屋住みは置いていないで、
親子3人だけで住んでいる。事務所も家から離れているので、
普段全くと言っていいほど組関係の人とは関わりがなく、
絵理子ちゃん自身も興味もないせいか、時々カタギの家の子かと
錯覚しちゃうくらい組関係のことは何も知らない。

逆に絵理子ちゃんは、いくら部屋住みがたくさんいる中で
生活しているとはいえ、組員でもないあたしが組のことに
詳しいことにいつも半分驚いて半分呆れている。



解決はしなかったけど、絵理子ちゃんに話せたことで
ちょっと気が軽くなった。そして、ママたちが絵理子ちゃんの
ことを“しっかりしている”というのがわかった気がした。

けどまた考えることが1つ増えた。どうしたら組のことや
極道の娘ということを意識しないでいられるか。自分では
そんな意識しているつもりはないんだけどな。


ゆう子に誘われて洋服を買い に行った。ゆう子は欲しかったのが
見つかったと言って嬉しそうに早速買っていた。あたしはコレと
いって欲しいものもなかったので、ただなんとなく見てまわった
だけだった。

お茶してから、帰りにうちに寄ることになった。駅からうちまで
歩きながら、新しいクラスの話で盛り上がった。ゆう子のA組も
けっこうおもしろいらしい。しかも、かっこいい子が3人もいるん
だって。いいなあ。うちのクラスにはいないや。

それからゆう子は、だれかうちに新しい若い衆が来たか訊いた。
ゆう子は昔からやたらとうちに新しい若い子が入ったか訊いて、
入ると見に来たがる。よくあたしはミーハー&オジン趣味と
からかったりしている。
「こないだゆ う子が来てからはおらんはずやで」
と、あたしは言った。

うちに入る時、門のところでちょうど出て来るたかしくんと
すれ違った。たかしくんはもう随分長くうちにいるけど、
ゆう子と会うのは初めてらしい。たかしくんはパパに付いて
外に出てることが多いから、今まで会う機会がなかったんだ、
きっと。

ゆう子はそのあと、たかしくんのことばかりあたしに訊いた。
あたしは“ほら、やっぱりオジン趣味や”とからかっておいた。