土曜日だったのでお昼には家に帰って来た。
前野さんの家の隣に西岡組新本家を作るので、
今日はその上棟式があった。斉藤のおじさんや
江口さんが出席するみたい。パパは出席しないけど、
朝から機嫌が良かった。
学校から帰ってお昼を食べて、泊まる用意をして
瑛子ちゃんのうちに行った。ちーちゃんや美貴も来た。
今日と明日で地理の時間に使う共同制作の模型を
仕上げるためだ。このメンバーで泊まるのは初めて
なので、あたしはワクワクしていた。
夜になっておばさんがうどんを取ってくれた。みんなで
ドラマを観ながら食べた。しばらくそのままテレビを
観ているとニュース速報が入って、斉藤のおじさんと
江口さんともう1人が撃たれたと言っていた。あたしは
一瞬放心状態だった。茫然自失で幽霊みたいに立ち
上がりながら、やっと口を開いた。
「あたし、帰るわ」
みんなは突然のあたしの行動にポカンとして
見上げているだけだったけど、瑛子ちゃんから
うちの事を聞いていたらしいおばさんは、全てを
察してくれたらしく、
「玲菜ちゃん、大丈夫?送って行こうか?」
と声を掛けてくれた。その声で我に返ったあたしは
急に怖くなり、思わず好意に甘えてうなずきそうに
なった。
でもその時まだ半分呆然としながらも、パパが
いつも若い衆たちに言っている言葉を思い出した。
「出入りの時はたとえ自分らの命を落とすことに
なっても、絶対にカタギさんを巻き込んだらあかんで」
あたしが極道というわけでもないのに、あたしは
あわてて首を振って、おばさんの申し出を断った。
おばさんはなおも、
「それやったら誰か家の人に迎えに来て
もらいなさい」
と言ってくれたけど、うちではきっと大変なことに
なっているだろうから、あたしの迎えなんて頼めない。
家の電話も、おそらくずっと話し中で繋がらないだろう。
それでもおばさんはあたしを無理矢理座らせると
家に電話してくれた。
「やっぱりあかんわ」
おばさんはそう言って受話器を置いた。おばさんの
心遣いは嬉しかったけど、こうなることがわかっていた
あたしはもうこれ以上じっと待っていられなくなり、
立ち上がると食事のお礼を言って泊まり用具の入った
バッグを掴んで1人で瑛子ちゃんの家を出た。美貴と
ちーちゃんは事態がよく飲み込めずに、
「玲菜ちゃん、どうしたん?」
と言い合ってるのが聴こえた。
家に帰るとパパが仕事で使う黒のベンツが外に
止まっていた。他の車も何台か止まっていた。
見たことのない車もある。家の中もあわただしそう
なのが、外からでもわかった。
小走りで玄関を入ったところで、出て来る川上さんと
ぶつかりそうになった。
「おっとぉ」
と川上さんは言ってから、
「おかえりなさい」
って言った。落ち着いていつもと変わらない川上さんの
様子に、さっきテレビで観たニュースは何かの間違い
だったのかもと一瞬思った。でもふと振り返ると、パパの
車のほうに歩いて行く川上さんの背中からだたならぬ
雰囲気を感じた。
急いでリビングに入って行ったらママとヒロちゃんと
久志くんがテレビのニュースを観ていた。電話は
もちろん鳴りっぱなしだった。伊藤クンが必死で
受け答えをしていた。あとの人たちはみんなうちの
事務所かどっかにいるようだ。家の中の異様な空気に
怖くなったあたしは、すぐ自分の部屋に向かった。
途中の廊下から下を覗いてみると、パパたちの車は
もうなかった。いったいどうなっちゃうんだろう、これから。