紙切れの生んだ奇跡 (第六章) | Perfume酔い_かもね

紙切れの生んだ奇跡 (第六章)

混んでいた電車は程なくして席が空き、座る事ができた。
広告の彼女に別れるのは寂しかったが、残念ながら体の疲れの方が勝ってしまった。
ゴメンね。

座席に身を沈め、先程から握り締めていた紙切れを見てみた。

あ~ちゃんの字だ。

落ち付いて紙切れを見ると、そこには丸くて元気な文字が並んでいる。

いくつかのブログタイトルが書かれているのだが、何れのブログも妄想系。思わず苦笑いしてしまった。

彼女の趣味なんだろうか。のっちならわかるけどなあ、あ~ちゃんなんだよね。
「面白いブログ見つけたんよ」
で、興味本位なのか。
「キモいブロガーなんよ」
で、見てみなよとかしゆかに対して黒い所を見せようとしているのか。

そう思うと笑えてきた。が、慌てて笑いを噛み殺す。

電車の中だった。

僕もその紙の中にいたりして、嬉しい様な、落ち込む様な何とも複雑な、でも悪くはない気分になっていた。

僕にとって彼女達は手の届かない存在だ。

ライブに参戦すれば実物に会える。彼女達の想いはメディアなど色々な形で受け取れる。しかし、僕の想いはそうそう彼女達に伝わる事はない。

でもこうやって紙切れという事実を見ると、少なくともあ~ちゃんは見ただろうし、今後かしゆか、のっちも見るかもと思えてくる。僕の発信した想いを見ているという事だ。

彼女達も普通の女の子だし、見る事もあるんだな。
そういえばそんな話題、誰かのブログに上がってたな。

ブログという限定された世界だけど、彼女達と僕の立場が逆転している。

急速に彼女達へ親近感が湧く。


追いかけてどうする?
会ってどうする?

先ほどの自問がまた浮かぶ。

僕は彼女達を追いかけている。
彼女達は僕のブログを見ている(かもしれない)。
考えてみると、先ほどの迷いが自分の勇気のなさだと思えてきた。

"気のきいた一言がどうして出なかったんだろう"
"ダメ元で追っかければ良かった"

彼女達だって普通の女の子なんだよ。

"もう一度何処かで逢えるさ"
"今度は気のきいた一言を言おう"

そう思って納得するしかないと考える。

紙切れに祈るか。



いつの間にか電車の中で爆睡していた。
最近、界隈のブログが妄想強化週間らしく、面白い記事があちこちで上がっている。ついつい夜更かしで寝不足。

どれだけ寝てたんだろう。しまったな、ずい分乗り越してる。今日はいつまで経っても家に帰れない日だ。
反対のホームでもう一度電車に乗り、乗り換える駅に戻った。
駅について電車を下りると、乗り換える電車が来たので慌てて走る。
反対側の電車も扉が開き、人が降りて来た。

乗り換えの通路に集まる人の波をすり抜け、開いている隙間に入ろうとすると、長い黒髪の女性が同じ様に急いで走りこんできた。交わしきれずぶつかってしまう。
僕は急いで謝った。

「すみません、大丈夫ですか」

思わず僕は「あっ」と声をあげた。

「大丈夫です」と言った彼女は、叫んだ僕を一瞬、怪訝そうな顔で見たが、思い出した様にハッとした顔をする。

多分、彼女も同じ様に声をあげたと思う。


僕がぶつかったのは、かしゆかだった。


まさかの二度目の出会いに、暫く目線が釘付けになっていると、

彼女が口火を切った。

「あの」


追いかけてどうする?
会ってどうする?

追いかけなくても会ってしまった。

先程出した結論らしき答えは一瞬で吹き飛んだ。頭の中が嵐の様に回っている。

僕は突然起きた奇跡にどうリアクションすれば良いか分からず、彼女の次の言葉を待つしかなかった。

周りの雑踏はすーっと消えて僕には彼女しか見えない。



僕の握る紙切れは、あ~ちゃんの言霊が住んでいると本気で思った。