いつもによって、いつものとおりで麻雀だ・笑。
エアコンがフル稼働して、煙草の煙がモウモウと立ちこめる。・・・・もう夏だもんな。
オーディオの時間は21時を回っている。
いつもによって、いつものごとく・・・・
紺野がいた。南原がいた・・・・そして、もうひとりが沖永だった。
・・・・そう、志村がいない。
ここんとこ、志村がいなかった。
ここんところ、志村の様子がおかしかった。
なんだか、疲れているような・・・考え事をしてるような・・・・珍しく神妙な顔つきをしていた。
・・・ら、ピタリと顔を出さなくなった。
もう、1週間は顔を見ていない。
ボズ・スキャッグスが流れていた。
麻雀中は、音楽を流してる。
好きな音楽を聴きながら卓を囲む。
洋楽しか聴かない。ほっとんど洋楽しか聴かない。
初めての洋楽の洗礼は「ビートルズ」だった。
物心ついたときには、もう解散してたけど・・・・まだ、幼稚園とかって時に、近所のお兄ちゃんに教えられたのが「ビートルズ」だった。
・・・・けど、オレは「カーペンターズ」の方が好きだったな・・・・メロディーラインが綺麗だからな。
その流れは、今も変わらない。
洋楽・・・ロックしか聴かないけど・・・・それでも、ただうるさいだけのロックは好きじゃない。
やっぱり、メロディーラインの綺麗な・・・・・大人のロックが好きだ。
「AOR」 ってジャンルがあって
アダルト オリエンテッド ロック
要は大人向けロックって意味なんだけどな。
ボズ・スキャッグス、TOTO、シカゴ、クリストファークロスなんかを夢中で聴いた。
とくに、ボズ・スキャッグスはハマった。メチャメチャはまった。
1日に、何回聴くんだろうってくらいハマった。
南原の部屋で麻雀をするときには、南原の好きな音楽が流れていた。紺野の部屋では紺野の好きな音楽。
同じバンドをやってるとはいえ、音楽の趣味は、それぞれにビミョーに違った。
紺野は、ロックでも、ディープパープル、レッドツェッペリンといった「THE ROCK」って音楽を聞いてる。
・・・・ったら、松田聖子が流れてきたりする・笑。
あんな「ウソ泣き」しかしない女は嫌いだ・笑。
・・・・って、言ったら
「ウソ泣きするくらいのプロ根性が、好きなんだ」 とさ・笑。
紺野いわく、「アイドル」という職業プロ根性が松田聖子にはあるらしい・笑。
・・・・そういう見方もできるのか・・・
松田聖子なんかにゃ、まったく興味がない。
どころか、アイドルってのに全く興味がなかった。
ガッコーで・・・クラスで・・・・・アイドルに現をぬかすヤツらを冷ややかに見てた。
どれだけ好きになろうが・・・・どれだけレコード買おうが・・・・ぜってー手に入らない存在なんだぜ。
友達どころか・・・・一生、話すことすら叶わない相手なんだぜ。
そんなもんに現をぬかすのは「人生の無駄」でしかない。そう思ってた。
巷じゃあ、
桜田淳子派か、山口百恵派かで分かれていて・・・・
もちろん、その他にも、岩崎宏美だ、ピンクレディーや、キャンディーズ・・・・その他にもたくさんのアイドルがいたけれど・・・・・・石野真子ちゃんもいる・・・・可愛いいよなぁ・・・とは思う。
石野真子ちゃんの「生写真」を持ってたけど・笑。
なんだか、デパートの屋上だかに来たとかで、写真部の友達が撮ってくれたのを貰った・笑。
・・・・生は、さらに可愛かった・・・・
でも、大きな勢力は
桜田淳子 派
山口百恵 派
だ。
全くの明と暗だった。
陽の 桜田淳子
翳の 山口百恵
天地真理から始まった「天真爛漫」、ノー天気な正統派アイドルには、全く興味がなかった。
んなことから、桜田淳子 には、まったく興味がない。・・・それで 松田聖子 にも興味がない。
・・・・どころか、何だか鼻につく・笑。
明るく、楽しそうで・・・・
人生、何がそんなに楽しいんだ??? って思う・笑。
完全に、ひねくれてるからな・笑。
カネが有り余ってるわけじゃない。
レコード1枚、2,500円ってのは、けっこーな金額だ。
買うアルバムは吟味に吟味を重ねた。
洋楽しか買わない。
ボズスキャッグス・・・・クリストファークロス・・・ビリージョエル・・・・・フォリナー・・・・・欲しいアルバムは数々ある。
吟味に、吟味を重ねて買った。
・・・・例外があった。
無条件で買ってるのがあった。
それが山口百恵ちゃんだった・笑。
唯一の邦楽で・・・・しかも、アイドルもの・笑。
アイドルには興味ないんだろ???笑。
いや・・・・例外。唯一の例外。
もともと、なんとなーく気になってたところに、コンサートで生の百恵ちゃんを見て、一発でKOされちまった・笑。
以来、アルバムが出るたび、予約までしてアルバムを買った・・・・予約すると特典でポスターもらえたりしたからな・笑。
・・・・煙の向こう側から 山口百恵 が見つめていた。
なんと、壁面に百恵ちゃんのポスターが飾られてる・笑。
スティーブマックイーン・・・・ジェームスディーン・・・・矢吹丈・・・
・・・そして、麻雀卓に煙草・・・・そして珈琲・・・
The 「男」 の匂いの中で、そぐわないアイドルの大きなポスター。
山口百恵のポスターが飾られていた。
一番好きだった「横須賀ストーリー」のポスターだ。
なんだか・・・
「横須賀」って文字に魅かれた。
「東京」という文字には魅かれない。
「大阪」は・・・オレにとっては地元でしかない。
「横須賀」・・・・「横浜」・・・なぜだか魅かれた。
行ったことはない。
北陸と関西しか知らない。
その他の場所には、行ったことすらない。
・・・・なのになぜか「横浜」「横須賀」・・・・その文字に・・・そのイメージに魅かれた。
キラびやかな都会とはまた違ったイメージ・・・・海・・・・ネイビー・・・軍艦・・・どこか翳のある・・・そう、 山口百恵 のイメージに重なった。
そうだ、山口百恵は横須賀出身だ。
ポスターは全てパネルに加工していた。
わざわざパネルを買ってきて、加工して仕上げた。
ポスターに画鋲を刺すなんて、そんなもったいないことできやしない・笑。
きちーーーーんと、パネルに仕上げた。
・・・・これなら飾っててカッコいいし・・・・この町を出る時にも持っていけるだろう・・・・
・・・・山口百恵は、すぐに引退しちまった・・・・
もう、アルバムを予約することもできない・・・・・
山口百恵 ・・・翳のある瞳を見つめる・・・・・
山口百恵には、「男」の匂いを包む・・・・互して存在する・・・そんな空気があった・・・・
バイクの止まる音がした。
ガラガラと玄関が開いた。・・・・・誰か来たな・・・・
扉が開く。
ヘルメットを持った志村が立っていた。
もちろん、誰も気にしない。
ズカズカと入ってくる。
オレと南原の間にヤンキー座りをして、タバコに火をつけた。落ち着きがない、何か言いたそうだ。・・・フルフェイスのメットを腕に通したまんまだ。
「やる?」
牌から目を離さず言った。
「カズ、貯金いくらある?」
藪から棒だ。
志村の顔を見た。
一応笑顔だ。
志村特有の・・・・不遜な笑顔。
この笑顔が気に入らなかったんだよな。
不遜・・・・不敵な笑顔。・・・挑発的に見える。
高校に入ってからは、ずっと一緒にいた。
毎日毎日、麻雀、パチンコ・・・・親より一緒にいる時間が長い。
今ならわかる。この顔は・・・・この笑顔は、志村が困った時の笑顔だ。
ここんとこ、志村はおかしかった。
日に日に元気がなくなっていった。
憔悴・・・・その言葉ピッタリだった・・・・
・・・・そして、顔を出さなくなった。
「雀荘カズ」
皆勤賞だった 志村 が来なくなっていた。
・・・・貯金かぁ・・・・
「いくらって・・・12・3万ってとこかな・・・・・」
オカンが預かっていた毎年のお年玉も、すでに、自分で管理するようになっていた。
志村は卓上を見ている。しかし、頭はそれを見ていないだろう顔。
「借りるかもしれん・・・・」
「全部か?」
「全部」
志村が頷く。あいかわらず、視線は卓上のままだ。・・・・元気なく、呟くように言った。
紺野が目だけを志村に飛ばしていた。
「わかった」
オレも頷いてタバコに火をつけた。
カネの工面がついた。志村の表情が、少しホッとしたように見えた。
「ほな、な」
タバコを吸い終わると、志村が立ち上がった。
おう、と、オレは片手を上げた。
志村が出ていった。
高校2年生がこれほど憔悴して・・・・なおかつカネのいる出来事、そして志村だ・・・・
何に使うのか瞬時に悟った。
・・・・多分、オレの想像は当たってるだろう。そして、瞬時に目を飛ばした紺野の想像も同じだろう。
南原は・・・・沖永は・・・多分理解してない。
・・・・嫉妬・・・苦笑・・・・呆然・・・・色々な・・・複雑な心境が交差した・・・・・
オレの頭の中。
陽に揺れる美しい髪が浮かんだ・・・・
中沢美貴の笑顔が浮かんでは消えた。