「あんた達の誠意の問題だ。食うや食わずでも
親子というものはもっと温かいはずだ。帰れ」
(「戸田家の兄妹」から昌二郎の言葉 )
あらすじ
戸田家の父進太郎(藤野秀夫)は、東京麹町に大邸宅を持つ実業家。母(葛城文子)が今年還暦を迎えたため、独身で同居している次男昌二郎(佐分利信)、三女節子(高峰三枝子)と別居している長女千鶴(吉川満子)、千鶴の長男良吉(葉山正雄)、長男進一郎(斉藤達雄)、進一郎の妻和子(三宅邦子)、次女文子(坪内美子)、文子の夫雨宮(近衛敏明)等がお祝いに集まった。
庭で記念撮影をした後、家族全員で夕食に出かけ夕食後、進太郎夫婦は帰宅した。帰宅後、進太郎はいい気分でいたが、突然苦しみ出し、その夜狭心症で亡くなった。葬儀も終えた時点で進太郎の財産を調べたところ、進太郎には相当の借財があり、麹町の大邸宅の土地建物、保有の書画骨董は処分しなければならないことになった。そこで大邸宅に住む、母親・昌二郎・節子は居場所が無くなってしまった。そこで昌二郎は以前から考えていた天津支社への転勤を決意した。また、母親と節子は長男進一郎の家の二階に住むこととなる。
節子には縁談があったが、進太郎が死ぬと破談になった。昌二郎は節子を力づけて天津に赴任した。長男進一郎の家に同居した母は、嫁の和子とは折り合いが悪く、居ずらくなる。外出先で節子は、友人の時子(桑野道子)と会い母親のことを心配し合っていた。そんな中、和子の来客の際に行き違いが起きて、和子は節子を叱ったため、とうとう進一郎宅を出て長女千鶴宅へ移る。しかし、千鶴宅でも息子良吉の事で、千鶴は母親を叱りつけた為、2人は鵠沼の別荘に移ることにした。
あれこれするうちに父進太郎の一周忌となった。しめやかに法要が行われている中を、少し遅れて次男昌二郎が天津から帰って来た。そして「お斎」の席に着いた時、昌二郎は兄姉に対して、憤懣をぶちまけ始める。「どうして、母さんと節子は鵠沼に居るんだ」と切り出す。兄姉は「事情があった。母さんも望んだ」「あんた達の誠意の問題だ。食うや食わずでも親子とはもっと温かいはずだ。帰れ」と怒鳴る。
鵠沼に母と節子は昌二郎と共に戻ったが、翌日昌二郎は母と節子に天津で一緒に暮らさないかと持ちかける。2人は快く承知した。その際、節子は昌二郎に友人の時子を嫁に貰わないかと勧める。昌二郎は照れて、節子の婿さんを探してやると言い返す。そんな中、時子が鵠沼にやって来た。節子は昌二郎に時子を会わせようと部屋へ行くと昌二郎は、恥ずかしがって海岸へ出て行ってしまった。
感想など
l 父親の借財で自宅を手放した母親と三女は、長男や長女の家に同居したが折り合いが悪く古い別荘に住むことになる。そんな中、一周忌の法要で赴任先から帰省した次男が、兄姉のやり方に憤懣をぶちまけて赴任先に母親と妹を引き取るという、お家騒動のお話でした。
l そのお話に合わせて、普段から仲のよかった次男と三女は、自分の友人を兄の嫁さん推挙して兄を照れさせ、兄は妹のお婿さんは見つけてやると言って、妹を喜ばせるという、ハッピーな結末が用意されていました。
l 長女も長男も次女も一家を構える暮らしに、いきなり母親や小姑が同居してくれば「お互い様」とは言え居候は目障りになり関係も軋んで来ます。そんな中で、お互いに不満が積もってゆけば爆発してしまいます。結局、居候は盥回しになり、気遣いのないよう別居を選ぶことになります。極、その辺に見られる光景を見せてくれました。
l 長女の長男の中学生が、祖父や祖母にべったり甘えたり、叔父の次男をからかったり、無邪気さを発揮して笑わせます。父親が死んで悲しんでいる三女に元気を出せと帽子を被せたり、来客の食べ残しを美味しそうに三女が食べたり、ラストで三女の友人の女性に会う事が恥ずかしいと海岸に逃げ出す次男の姿など、深刻な中にも希望とユーモアを漂わせていました。
l 1941年製作ということで、まだまだ家族制度が残っている時代です。たとえ相続放棄したとはいえ長男が親を扶養するのが当然の時代です。ダメ長男に孝行を促し、反道徳を糾弾する主題をユーモアに絡めて見せてくれた作品のように思えます。それと共に三女のような自立志向型の女性を描いたことは、戦後の傑作「東京物語」の下地のようにも思えました。
GALLERY
タイトル 還暦祝いに集う戸田家の姉妹
当主進太郎と孫 次男昌二郎と三女節子
家族記念写真 当主の急死
当主の借財返済で邸宅は売られる 昌二郎は友人に天津へ行くと告げる
荷造りをして母と節子に別れを言う昌二郎 母と節子は長男進一郎宅で引き取ることとなる
節子は友人時子に相談する 義姉から叱られる節子
二女綾子に別荘に住むと告げる 別荘に越した2人
一周忌に集う家族 お斉の席で、兄達へ苦言をいう昌二郎
席を去る兄夫婦 友人時子を嫁に貰えと勧める節子
時子が訪ねてくる 逃げ出す昌二郎