八日目の蝉は悲しいよ。仲間はみな死んでいるから。
     でも、他の蝉が見られない綺麗なものも見られるのよ。
         (「八日目の蝉」恵理菜の言葉)
 
あらすじ(映画は過去と現在が交錯して進行するので、時系列に編集しました)
野々宮希和子(永作博美)は、大企業の社員で妻子ある秋山丈博(田中哲司)と不倫関係となり、妊娠する。しかし、丈博から堕胎を命じられ子どもの生めない体となる。丈博の恵津子(森口瑤子)は希和子の存在を知り、自分が妊娠したことを告げ希和子を「空っぽ」と侮蔑する。
 
そんな中で、希和子は丈博のこども(恵理菜)を一目見てから諦めようと考え、秋山家に侵入するのだが、あまりにもこどもが可愛らしいため誘拐してしまう。誘拐後、希和子は赤ん坊を連れて彷徨うが、「エンジェルホーム」というカルト集団のようなところへ行き、助けて欲しいとエンジェル(余貴美子)懇願し入所する。
 
エンジェルホームは、家族や夫から理不尽にされた女性達の駆け込み寺のような場所だった。入所者は女性のみで、子供達を男性を知らない天使に育てることを目的として隔離されていた。そこで希和子と恵理菜は3年間暮らしたが、外部の関係者が入所者を返せと騒ぎ立てており、恐ろしくなって入所者の沢田(市川実和子)の実家小豆島へ逃亡することとなった
 
沢田の実家は小豆島で「そうめん工場」を営んでいた。希和子と恵理菜は近所に住まわせてもらい、そこで働くことができた。恵理菜は近所のこども達と仲良くなり、しばらく平穏な暮らしが出来たが、2人が観光写真にたまたま載り、誘拐犯とバレて希和子は警察に逮捕され、恵理菜は秋山家に引き取られた。
 
野々宮希和子は逮捕され、恵理菜は秋山家に戻ったが、当初は丈博夫婦を親とは思わず、親子関係の構築が難しい状態だった。そのため恵津子は家庭を破壊されたと希和子を恨み、極刑を望んだが、検事は懲役6年を求刑した。裁判官は希和子の言い分を聞いた。希和子は「4年間子育ての喜びを味わった。秋山さんには感謝しますが、お詫びの言葉はありません」と述べる。
 
野々宮希和子の逮捕後、17年経過して秋山恵理菜(井上真央)は大学生になり、自宅から別居しアパート暮らしをしていた。そんな恵理菜の前に安藤千草(小池栄子)というルポライターが、現れて過去の誘拐事件を取材したいと近づき、当時の新聞切抜きや裁判記録の入ったファイルを渡す。恵理菜は千草に対し「正直、今でも家族の感じはしません。母が誰なのか戸惑いったし、母も困ってお互いに泣いた」と言う。
 
そんな秋山恵理菜は、岸田(劇団ひとり)という妻子ある男と不倫関係になっていた。恵理菜は相談する人がいないので、話しやすい千種に「こどもが出来たかも知れない」と告白した。「その人が好きなの」と聞くと「好きかどうか、分らない」と答える。そして「蝉は長い間土の中にいて、地上では7日間しか生きない。でも全員が7日間なら寂しくはない。もし、8日目の蝉がいたら、仲間はいないし、その方が悲しいよ」と恵理菜は言った。
 
恵理菜は後日、岸田と食事をした。恵理菜は岸田に聞く「もし、こどもが出来たら、生む、下ろす」と聞く。岸田は「今はまずい、うちのチビが手の掛らなくなって正式に別れてからにしてほしい」と答える。「私は家で旅行も誕生会もクリスマスもしなかった。普通の家庭で育った訳ではなかった。でも、岸田さんが教えてくれた。でも、もう会わない。いままでありがとう」と言って別れる。
 
恵理菜は千草にこどもを生むと告げる。自分の父は誘拐犯の愛人として世間に知られ、家庭崩壊した。こどもが出来てやっと家族が出来たという。千草は自分もエンジェルホームにいた過去を告白したため恵理菜は驚く。そして2人は現在廃墟と化したエンジェルを訪ねる。そして千草は「私はホームで天使として純粋培養された。私は男と接したことがない。だから恵理菜のこどもを一緒に育てたい」と恵理菜のお腹に抱きついた。
 
その後、2人は恵理菜が3歳の頃過ごした小豆島を訪れる。美しい風景に恵理菜は「8日目の蝉は他の蝉が見られなかった何かが見られるね」と千草に言った。そうめん工場は売却物件の貼紙が出ていて、知る者はいなかった。恵理菜は希和子と一緒に記念写真を撮った写真館を思い出し、行くと写真館の店主は、ネガを取り出した。現像した写真は5年前に、野々宮希和子が取りに来たという。そして店主はネガからその写真を現像して恵理菜に渡した。それを見て恵理菜は走り出した。そして千草に憎みたくなかった。父さんも母さんも、そしてあなたもと言って生まれたこどもと共に再度小豆島に来ることを誓った。
 
感想など
l       この映画は、不倫の結果から生じた赤ちゃん誘拐事件、犯人と赤ん坊という擬似家族の逃亡生活、犯人の逮捕による別れ、成長した子どもの家庭復帰と家庭崩壊、犯人の裁判、親子の断絶、オカルト集団で育ったトラウマ、成人した赤ん坊が虚無感からの再生するなどの多様な寓話によって構成されています。
 
l       身勝手な不倫で強いられた堕胎から始まり、誘拐という犯罪事件へと発展します。犯人と子の擬似家族が、本当の家族関係を崩壊させます。そんな誘拐された赤ちゃんが成人後、過去を辿ることによって精神的に立ち直るというものです
 
l       かってあった「イエスの方舟」「オウム真理教」「統一教会」などのオカルト集団が、家族や夫から理不尽にされ、逃れなければならなかった女性達にとって救済の場になっていたとすれば、なぜそんな集団が生まれ形成されたのかが、なんとなく理解できます。しかし、人権侵害や正常な精神形成への弊害の場であることは間違いありません。
 
l       誘拐犯の逃亡生活は、オウムの指名手配者の逮捕劇と重なり合うものを感じてしまいます。また、こどもへの虐待や親子関係の崩壊、シングルマザーの問題など、様々な現代の社会問題に通じるものを内包していました。
 
l       誘拐犯の裁判やマスコミの取材から生じた個人のプライバシー暴露、そこから家族は興味本位の目で見られ、職を追われ友人も作れない孤立した人格形成がなされるという不幸は、マスメディアに対する糾弾でもあります
 
l       シングルマザーが必ずしも不幸とは思えませんが、不倫によってこどもを生み、育てるということを、女性達が余りにも安易に短絡的に考えていたようです。成人したこどもは、生みの親も育ての親もどちらも憎めないと自覚するわけですが、育ての親が誘拐犯という犯罪者という特異な設定であり、寓話的ですが、本来の親子関係とはなにかという問題が浮き上がります
 
l       「泥棒にも三分の道理」という格言があります。法律では有罪ですが、情から見れば、こどもへの愛情や優しさに涙が出てしまいます。そこに振り回されたこどもは、DNAと心情の間で弄ばれ人生は辛いものだったでしょう。ただ、冷静に過去や状況を見詰めることによって、精神が再生してゆくことは感動的でした。
 
l       現代人の短絡的、衝動的行動とそこから派生する社会現象を寓話化し、主人公が苦悩と残酷さの中で再生してゆこうとする作品だと思いました。ただ、いろいろな社会問題を総花的に抱え込んでいて焦点が広がりすぎた感じは否めません。
 
l       特異な運命に翻弄された主人公の生き方に感情移入して、どうしても情に流されて見てしまいます。しかし、多少不満は感じつつも、映画もきちんとできていると感じました。

 
GALLERY
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 タイトル                               誘拐場面イメージ 12 イメージ 14
 裁判の判決                            恵理菜と千草イメージ 15 イメージ 16
 誘拐後、逃亡する希和子                    エンジェルホームに入所イメージ 17 イメージ 18
 警察に保護された恵利菜                    エンジェルホームの暮らしイメージ 19 イメージ 20
 岸田と恵理菜                            幼い千草と恵理菜そして希和子イメージ 3 イメージ 4
 秋山恵津子と恵理菜、丈博                    千草と恵理菜はエンジェルホームを訪ねるイメージ 5 イメージ 6
 幼い千草と恵理菜の別れ                    過去を恵理菜に話す千種イメージ 7 イメージ 8
 エンジェルホームから小豆島へ逃亡した希和子       小豆島での平穏な暮らしイメージ 9 イメージ 10
 幼い恵理菜は希和子と引き離される              逮捕される希和子イメージ 11 イメージ 13
 恵理菜と希和子の記念写真のネガ              父母も希和子も憎めないと言う恵理菜